バーニングお嬢様、暴れる(3)
ダンジョンでの盗撮、および火種動画の投稿。
――あれ? そういえば最近、似たような話を聞いたような……、
「……ハッ!
まさか!? 黒ちづるちゃんの動画をばらまいたのって――」
「はっ、頭の回転が鈍いことで。
で、だとしたら何だってんだ?」
口元を歪め、少年が笑った。
「何か証拠でもあるのか? 俺がやったっていうよ?」
「証拠は……、ありませんけれど――」
「はんっ、そうだろうよ」
勝ち誇ったように、少年が笑う。
その口ぶりは正直、認めたも同然ではあるけれど……、
「だいたい、あのダンチューバーが喋っていたことは事実だろう。
謹慎させられたのも自業自得ってとこだ。
じゃ、そういうことで。そこを、どいてもら――」
「バーニング・ショット。ですわ~!」
この薄ら笑いは黒だ。
そう確信し、私は情け容赦なく炎魔法をぶっ放す。
「おわっ!? 何のつもりだ?」
「ちづるちゃんの敵は、私の敵。ですわ~~!」
"ですわ~!"
"バーニング嬢、攻撃的すぎるw"
"暴露家ルーニー、年貢の納め時だなあ"
慌てた様子でスサッと炎魔法を回避した暴露屋ルーニー。
そのまま泡食った様子で、何やら早口で喋り始める。
「待て待て待て待て!
事務所の判断で、例のダンチューバーは謹慎中。
俺はグレー、そもそも何か法律をおかした訳でもない。
そんな俺を攻撃するのは、ただの私刑。事務所にだって迷惑かかるだろう?
人気商売としては致命的。それが分かったら、さっさと、その手を下げ――」
「……で? 言いたいことは、それだけですの?」
その時の私は、とても良い表情をしていたと思う。
(ああ、生まれて初めて煽り系をやっていて良かったと思いましたわ!)
私は、ありったけの魔力を叩き込んだ炎弾を作り出し、暴露屋ルーニーに叩き込む。
「口上が、あまりにもお雑魚ですわ!
そんな理屈で、私が止まると思っていたのなら……。
私を舐めるのも大概にして欲しいのですわ!!」
「ヒィィィッ!」
湧き上がる熱波。
次いで、ダンジョンの壁が崩れ落ちる音。
少年の隣の壁に、大穴が空いた。
――暴露屋ルーニーを名乗っていた少年は、ガクガクと震えながらペタリと座り込み、
「ゆ、許してくれぇぇぇぇぇ」
そうガクガク涙をこぼしながら、命乞いしてくるのであった。
***
数分後。
目の前には、縄で縛られた少年――暴露屋ルーニー――が正座していた。
ルーニーは、その後もしばらく、保身すべくペラペラと中身のないことを喋っていた。
やれ、情報網がなんとか。
やれ、法がなんとか。
挙句の果てには、絶対に燃やしてやるとも。
「大切な友達を助けて燃えるなら、望むところですわ!
だいたい私のスキルは大炎上――矜持に従って燃えるなら、それは勲章ですわ!」
それでも私が、迷いなくそう告げると。
ルーニーは、観念したように項垂れ、お縄につくのであった。
(ここで、この人を物理的に燃やしたところで)
(何の情報も手に入りませんし――)
そんなこんなで私は、ルーニーを縄でぐるぐる巻きにし――
今に至るという訳である。
"無敵モードのバーニングお嬢様、ヤバすぎるw"
"暴露屋ルーニー、ちわわみたいに怯えきってて草"
"ここで分からせないと、一生ハイエナみたいにまとわりついてくるぞ"
「で、依頼主は誰ですの?」
「へっ、依頼主の情報は絶対秘匿。
俺にも信頼ってものが――」
「バーニング・ショ――」
「待て待て待て待て!
依頼主は、シャドウ・メロディア!
…………まったく、なんって恐ろしい女なんだ――」
私が躊躇なく魔法を構えると、ルーニーは泡食った様子でペラペラと喋りだす。
情報屋の信頼は、どこに行ったのだろう。
"シャドウ・メロディアって、ダンチューバー・グループ?"
"新興グループで人気もあった"
"ファッ!? 激ヤバ情報やん!"
ざわざわと盛り上がっていくコメント欄。
私は、粛々と情報を引き出すべくルーニーに話しかけていく。
(ふむ……)
(情報をまとめると――)
「この間の黒ちづるちゃん動画は、あなたの仕業だと。
で、こっちのフェイク写真の方は――」
「そっちは、一切関与してねえよ。
そんなバレバレの合成写真、見る人が見れば一発で分かるしな」
――そんな物を公開したら、俺の名前に傷がつく。
そう断言するルーニー。
(名前に傷、ねえ……)
好き勝手に、プライベートを暴かれ、炎上騒動を起こされて。
私からすれば迷惑以外の何ものでもないし、何なら、この場で焼き尽くしてやりたいぐらいだけど。
それでも最低限、情報屋を名乗るプライドというものがあるようで。
ルーニーは、その写真が合成であると断言してみせた。
"【朗報】例のアレ、バレバレの合成写真で確定"
"やった~! ちづるちゃん天使、やった~!"
"お怒りモードのバーニング嬢、てぇてぇ"
"シャドウ・メロディアの評判、ガッタガタで草"
「下僕たち! ちづるちゃんが裏切ってなんてないってのが、改めて分かりましたわね!
それが分かったら、休止中は毎日アーカイブを10周するのですわ!」
いっそ、ちづるちゃんのアーカイブを一緒に見る配信とかしてみようかしら。
そんなことを、真剣に考えはじめる私。
「ところで、縄を解いて頂いても?」
「そう言って、逃げるつもりですわよね! 絶対に逃しませんわ!」
私は、ぐいぐいとルーニーを引っ張り、ダンジョンの外に向かう。
そんなこんなで、お雑魚ウォッチング配信With迷惑ダンチューバーは、ほんの少しの真実を明らかにして、お開きになるのであった。
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