バーニングお嬢様、犯罪ギルドに突撃する(1)
「お~っほっほっほ、下僕の皆さま御機嫌よう!
地獄星より舞い降りたダンチューバー、焔子ですわ~!」
"ですわ〜!"
"配信たくさん嬉しい!"
"シャドウ・メロディア、ガッツリ荒れてるやん!"
"【祝】暴露屋、成敗!"
"ぜぇぜぇ、ちづるちゃんのアーカイブ全部見てきました!!"
あまり間隔を置かずに始まったゲリラ配信。
思っていたよりも多くのリスナーさんが集まり、私は一瞬息を呑む。
(さらわれてしまったちづるちゃんを助けるため! できるだけ大きな騒ぎにしたいですわ!)
(でも私たちが、ちづるちゃんの誘拐に気づいてるとバレたら不味いですわよね……)
向こうだって誘拐事件のことを表沙汰にしたくはないだろう。
もし私が、ちづるちゃん救出のために動いているとバレたら、向こうが何をするか分からない。
あくまで偶然を装いダイダロスの元に向かう必要がある。
その上で騒ぎを起こし、大勢の探索者がダイダロスの元に集う状況を作り出すのだ。
(う~、考えれば考えるほど、ミッションの難易度が高すぎますわ!)
(でも、これもちづるちゃんのため! 頑張りますわ!)
「今日の企画は、これですわ!
ジャーン! 迷惑系で有名なダイダロス――そのギルドを狩りに行きますわ!」
"ふぁっ!?"
"ダイダロスって下層に籠もってるっていうあの!?"
"なんかヤバすぎる企画始まって草"
"正気か? お嬢!?"
「私、一度、自分の実力を試してみたくなりましたの!
何より犯罪組織が、我が物顔で煽り系の頂点に君臨している現実。許すまじ、ですわ~!」
"お嬢、本当にどったん!? こんな無謀な企画をやるイメージなかったのに"
"なんか、こんな感じの企画、ダンジョン黎明期にも見た気が・・・"
"ガチ犯罪組織やぞ、やめときやめとき"
"↑↑うん。ダイダロスは、ガチでやばい。そのまま消息不明とかも全然あり得る"
私を、心配するようなコメントが流れてくる。
(まあ無謀なのは、重々承知)
(今大事なのは、とにかく火種を大きくすることですわ!)
「皆さんは、このままで良いんですの?
ダンジョンという素敵な場所が、犯罪行為の温床になっている現実。
健全な煽りは、健全な土壌があってこそ!
この現状、煽りを何より愛するダンチューバーとしては、断じて見過ごすことはできませんわ!!」
これは本音だった。
早くダンジョンの法が整備されて、余計なことを心配しないでいい時代が来てほしいと思う。
「それでは、レッツゴー。ですわ~!」
そう宣言し、私は颯爽とダンジョンに飛び込むのだった。
***
ダイダロスのギルドホームは、下層の一角にあると言われている。
そこは徘徊ボスモンスターが大量に彷徨く危険エリアの最奥部であり、並大抵の人間ではたどり着くことすら不可能。
探索者の間では、そう語られている魔境であったが……、
「フレア、ですわ~!」
ボン。
ジュワァァァァ……、
徘徊していたのは、不可思議な見た目をした巨大なスライム型モンスター。
ピンク色の全長五メートルほどあるゼリー状の生き物であり、いくつもある目がぎょろりと蠢き非常に不気味であった。
(き、気持ち悪いですわ!?)
反射的に炎魔法をぶっ放す私。
スライム(徘徊ボスモンスター?)は、その一撃だけであっさりと蒸発する。
(う~ん? 随分と大げさに伝わっているようですわね……?)
(それにしても今日は1段と魔法の調子が良いですわ!)
首を傾げる私。
"ふぁ~~~~っ!?"
"なんやこのチートお嬢様"
"ディメンター・スライムわんぱん、マ?"
"これはボスキャラの風格"
コメント欄は、いつになく大盛りあがり。
その勢いは、それこそ上層でのお雑魚ウォッチング配信とは比べ物にならないほどで――、
(これからは、お雑魚ウォッチング配信も、下層でやりますわよ!)
私が、そんなことを考えながら進んでいると、
"なんかバーニング嬢が、ダイダロスに突撃すると聞いて"
"祭りと聞いて来ました"
"なんかヤベエ光景繰り広げられてて草"
"つぶやいたーから来ました!"
"切り抜きから来ました!"
(うんうん、良い騒ぎになってるみたいですわね)
(これで、何か動きがあれば……!)
満足気に頷きながら、私は炎魔法をぶっ放す。
壁に大穴があいた。
今までの私では、こんな芸当は出来なかったと思う。
やっぱり今日は、炎魔法の調子が異様に良い。
(お~っほっほっほ!)
(きっと、私のちづるちゃんへの想いに、スキルも呼応してくれているんですわね!)
意気揚々と突き進む私。
"同接30万人草"
"なんやこれw まだ増えてるw"
"ごちゃんねるもお祭り騒ぎやん!"
"ダイダロス討伐祭り草"
"ニョキニョキとスレッド生えてるw"
"暴露屋ルーニーの新動画の影響もヤバそう。なんであいつ、ダイダロスのネタなんて仕入れてたんや・・・"
"なんか一流探索者が、次々と出撃準備してる"
"まあ奴らに煮え湯を飲まされたギルドは多いからなあ・・・"
"バーニング嬢、ガチでやべえ流れ生み出してるやん"
"つ【リスポーン地帯の配信】 なんかガチで警察が取り囲んでて草"
"草 いくらダイダロスでも、リスポーン地ではただの人間やしな"
(な、なんだか分かりませんがやってやりましたわ~!)
私の目的は、とにかく騒動を大きくすること。
すでに、そのミッションは達成されたと言えるだろう。
こうなってしまえば、適当なところでダンジョンから帰還しても良いのだけど……、
(やれるだけ、やってみますわ!)
(それに……、今なら、まるで負ける気がしませんわ~!)
何体かスライムを消し飛ばして思ったのだ。
――こいつら別に、上層のモンスターと大差ないぞ……、と。
前方に、巨大なスライムが5体ほど現れる。
でっかくて、ぬめぬめしていて、とてつもなく気持ち悪い。
"こ、これはさすがにヤバそう……"
"ディメンター・スライム、こんなにおったんか・・・"
"こんなの攻略できるギルドおらんやろ!"
"テイムしてたダイダロスやばすぎぃ!"
"バーニングお嬢様、逃げて!"
「この程度の相手に怯えるなんて、メンタルお雑魚すぎますわ~!
メガフレア、ですわ~!」
私は新魔法を放ち、スライムを呑みこむ巨大火球を生み出した。
数秒後、視界を埋め尽くさんばかりのスライムたちは、跡形も残らず消滅する。
「ふう。絶好調、ですわ~!」
――圧倒的な同接数から繰り出される煽り文句。
その言葉は、これまでとは比べ物にならない人数に届くことになった。
結果、焔子が扱う魔法の威力は、これまでの比にはならない圧倒的な代物で。
それこそ下層のボスモンスター程度であれば、一撃で屠って尚お釣りがくる威力を秘めていたのだ。
"????"
"なんやこれwww"
"本当にソロでダイダロスいけるのでは・・・"
"バーニング嬢を我々の常識で測ろうとするのが間違いや..."
"【速報】ミミズクちゃん、下層に出陣"
"↑↑おいバカ死ぬぞ!?"
"もう2回死んでる"
"草"
"う~ん、これがルナミアの絆!"
(ミミズクちゃんも、やりますわね!)
ある種のお祭り騒ぎと化しているのだろう。
皆に恐れられているダイダロスを数多の探索者が倒そうとする流れ。そんな流れを生みだせるかどうかが、最初にして最大の障壁であった。
作戦は大成功と言えるだろう。私はコメント欄を見ながら、密かに胸を撫で下ろすのだった。
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