バーニングお嬢様、飛び出す!
配信を終え、マネージャーに呼び出され。
会議室に集まっていたところに、シャドウ・メロディアとかいう事務所からの電話がかかってきて、思わず宣戦布告してしまった日の夕刻。
「くっくっく、シャドウ・メロディアの奴ら、よくも俺のことをコケにしてくれたな」
会議室では暴露屋ルーニーが、随分と悪そうな笑みを浮かべていた。
「ルーニーさんは、随分と楽しそうですわね」
「そりゃあ、あそこまで舐めたことをしてくれたらな。よりにもよって、俺がガセ━━ヤラセに協力したって情報を流せとはな。ふっふっふっ、そういうことなら、こっちももう義理立てする必要はないよな」
好戦的な笑みを浮かべているルーニー。
それから椅子から勢いよく飛び上がると、
「という訳だ。シャドウ・メロディア━━篠宮の奴に、ひと泡吹かせようってんなら、俺も協力するぜ!」
そんなことを、のたまうのであった。
(うわぁ……、ど屑ですわ━━)
情報屋にとって、その信ぴょう性は命よりも重い。
だからガセだったという濡れ衣は、到底許せるものではない━━とはいえ、依頼主を秒速で裏切るなんて。
内心でちょっと引く私。
けれども、この状況における味方としては、頼もしいのも事実であり、
「協力、感謝しますわ! ……もし裏切ったら、生きたまま火炙りにしますわね」
「ヒィィィィぃ!」
私の言葉に、がたがた震え出すルーニー。
(そんなに怯えなくてもよろしいですのに……)
どうやら初対面での出来事が、よほどトラウマになっているらしい。
私は唇をとがらせ、小さくため息をつく。
そんなわけで私たちはシャドウ・メロディアに対抗するため、一時的に共闘することに決めるのだった。
※※※
そうと決まれば善は急げだ。
「それじゃあ、俺は篠宮の周辺の情報を洗ってこよう。
あんなのが上にいるのなら、あそこの事務所は叩けば叩くだけ埃が出てくると思うんだよな」
「なら我が事務所は、至急、弁護士と相談して、訴訟の準備を粛々と進めるとしよう」
意気揚々と動き出すルーニーと社長。
(訴訟の準備━━)
(シャドウ・メロディアの悪事の証拠を押さえられれば、それだけで詰み。チェックメイト、ですわ)
それはきっと、勝負にもならない。
誓って私たちの事務所から何かを仕掛けたことは無い……、と語るのは社長だ。その言葉は、真実なのだと思う。
何かあったとしても向こうからちょっかいを出したとき、火の粉を払っていただけだ。
(そう、まともにやり合って負けるはずがありませんわ)
(そう……、ですわよね?)
嫌な悪寒に、私はヒッソリと眉をひそめる。
そして往々にして、悪い予感こそ当たってしまうものだ━━その解は、意外な形でもたらされることになる。
事務所にかかってきたのは、一通の電話だった。
着信は、謹慎中のちづるちゃんのもので……、
「ちづるちゃん! もしもし━━」
『でゅふふふ、やっぱりちづるたんは良い子だねえ。
良いよ、約束してあげる』
(……!?)
聞こえてきたのは、知らぬ男の人の声。
声は遠い。
まるでポケットの中に入ったまま、音だけをかろうじて拾っているかのよう。
『━━悪いけど、君は人質だ。一緒に来てもらうよ』
(ま、まさか……!?)
━━誘拐。
その二文字が頭をよぎり、私はハッと息を飲む。
あまりにも非現実的なシチュエーション。
だけども聞こえてくる会話は、現実のもので。
(奴ら、そんなことまで……!)
相手の狙いは、至ってシンプル。
なんてことはない。誘拐。武力行使━━犯罪組織を使った脅しまで。
シャドウ・メロディアは、完全に一線を超えたのである。
「あいつ……、まさか、そこまでするとは……!」
社長も、呆然と呟いていた。
まだ無意識のうちに、相手の狂気を甘くみていたのかもしれない。
話し合いができると。あくまで常識の中で動くはずだという、楽観的な考え。
(ちづるちゃんが、今すぐどうこうされる心配はないと思うけど……)
(ううん、そういう問題じゃない。一刻も早くどうにかしないと!)
「……私、行ってきます!」
「なっ!? 落ち着け、焔子。どういうつもりだ!?」
腰を浮かせた私を、静止しようとする社長。
だけども止まるつもりはなかった。
「なら、このまま放っておくつもりですか!?」
「だ、だが……それで君まで巻き添えにしては━━」
「そうです! 焔子さん、落ち着いて━━」
社長たちの言葉は、私の身を案じてのものなのだろう。
だけども今だけは、その言葉を聞くことはできない。
(私だけでは、どうにもならなかったとしても……)
(大きな騒ぎになれば、警察や自衛隊も動かざるを得ないはず……、ですわ!)
「大切な同期が━━大切なお友達がさらわれたっていうのに、黙って待っていられる訳ありませんわ!
社長は警察に被害届けを。派手な騒ぎにしてやりますわ!」
そう宣言し。
私は、事務所を飛び出すのであった。
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