案件配信(1)
「バーニングお嬢様に煽られる! 始まりますわ〜〜!」
元気よくタイトルコール。
半ばヤケクソである。
あれよあれよという間に、配信日がやってきた。
驚くべきは、優奈ちゃんの準備の良さだろうか━━すでに演者さえ集めれば、配信自体はいつでもやれるというところまで、企画が進んでいたのである。
配信は、クイズ番組などを収録するスタジオで行われた。
段上(出題者)にいるのは、私と優奈ちゃん。回答者席には、ちづるちゃんとミミズクちゃんが座っている。
このメンバーがレギュラーとなり、さらにゲストを一人呼んで配信を行うのだ。
「ねえねえ、ちづるちゃん。この中で、一番、モンスターとの戦いに慣れているのって、だあれ?」
「え……、えーっと━━」
「一番モンスターを倒してるのは……、オレか。ならここは、オレが行くか!」
言い淀んだちづるちゃんの代わりに、颯爽と手をあげるミミズクちゃん。
"キル数も、デス数も他の追随を許さない女"
"もう駄目そうw"
"バーニングお嬢様に煽られる、ですわ〜!"
怒涛のように押し寄せてくるコメント欄。
……そう、これは動画ではない。
何を血迷ったのか生配信なのである!
(トチったら、オシマイですわ!?)
落ち着け、焔子。
ここで私に望まれているのは、積み重ねてきた華麗なる煽り芸。求められているものを、完璧にお出ししてこその配信者なのである。
「じゃあ、ミミズクちゃん。えーっと、未知のモンスターを見かけた時に、取るべき行動ってな〜に?」
「ふむ、それぐらいなら流石のオレでも分かるぞ。答えは簡単━━突撃だ!」
自信満々のミミズクちゃん。
だが、しかし!
その回答。答えに、カスってすらいないのである。
「えーっと、違いますわ!?」
……なにやらカンペが。
『あおって!』『いつもの!』
(そうだった!)
「ぷぎゃー! こんなことすら分からないなんて、お雑魚ですわ〜! お雑魚ですわ〜!!」
「ぷぎゃー、ですわ〜!」
"ぷぎゃー!"
"( ; ›ω‹ )プギャー!"
"あ〜 ぷぎゃーかふたつで、心が浄化されていくんじゃ〜〜"
"世界一煽り系とは遠い二人"
とりあえず乗っかってみるちづるちゃん。可愛い。
前、話してた時、ぷぎゃー、ですわ〜 が切り抜かれると登録者数が増えるんだ〜♪ ってニコニコしてた黒ちづるちゃんも可愛い。
「ぐぬぬぬ、だってこれまでそれで、どうにかなってきたし……」
"どうにかなってきた(なってない)"
"さすがは、初見殺しモンスターすべてに殺されてきた女。面構えが違う"
"この子の配信、だいたいモザイクかかってるイメージ"
「え? ダンジョンって死に覚えゲーだよな?」
「えぇ……」
ドン引きする私。
モンスターに噛まれたら泣きそうなほど痛い。
一度でも死んだら、そのときの痛みがトラウマになって、しばらくダンジョンにもぐれなくなるなんて話もよく聞くのに……。
困惑する私に、またしてもカンペ。
えっと……、あおって!?
どうやって!?
心の煽り法典を覗き込む私。
求:ダンジョン攻略は、死に覚えゲーなどとのたまう、ぶっ飛んだ同期の煽り方。
解:なし。
「ぷぎゃー、ですわ〜! ぷぎゃー、ですわ〜! 死んでしまうなんて情けない、ですわ〜!」
「ああ、そうだな。どんな初見殺しモンスターを粉砕できる圧倒的パワー! 筋肉、筋肉こそはすべてを解決する!!」
「筋肉、ですわ〜!」
"ミミズクちゃん、お嬢困らせたら、めっ でしょ!"
"困惑する貴重な常識人枠"
"まさかバーニング嬢が常識人枠だったとはな……"
"ちづるちゃんは、いつ見ても天使だなぁ"
ちなみに最後に乗っかってきたのは、ちづるちゃん。
適応能力は、誰よりも高い天使である。
(天使の笑みから表情ひとつ崩れないの、すごすぎますわね!?)
(もうこの企画、ちづるちゃんに微笑まれる! に変更しません……!?)
って、いつまでも困ってないで、MCとして番組を進めないと!
優奈ちゃん、怒ってそう。
ちらりと隣を見ると……、
「ふぅぅぅぅ、今日も可愛らしい煽り。これは万病に効きますわ〜〜!!!」
などと昂っていらっしゃった。
何でや。
「そ、それでは正解VTRを、どうぞ!」
"強引に進めたw!"
"ツッコミ不在の恐怖"
"ツッコミ役のバーニングお嬢様は、もう突っ込むことを諦めたゾ"
"三期コラボ、このメンツをコントロールする必要があるってマジ?"
ちなみにエンタメ性を持たせつつ、学ぶことは学ぶ━━楽しい学びでダンジョン生活を豊かに! が、この番組の一つの目標だ。
だから正解VTRだけは、ダンジョン庁が監修し、至極、真面目に作られている代物で━━
「まず、ソロでもぐらない。これ、鉄則。未知のモンスターを見つけたら、まずは観察。分析。できれば遠距離から何か攻撃を試みて反応を━━」
お手本を見せながらの丁寧な解説。
そんな解説を見ながら、我らがミミズクちゃんは……、
「こんなまどろっこしいことせずに、1回死ねばだいたい分かるのに……」
「バーサーカーすぎませんこと? 一般人は、まず、ダンジョンで死にたくないんですわ!?」
「それはメンタルお雑魚すぎでは?」
"【悲報】バーニングお嬢様、レスバに負ける"
"日常定期"
"このミミズクちゃんって子、頭のネジぶっ飛びすぎてて草"
"いやまあ、さすがにダンジョンの暗部知らなすぎるだけ。1週間苗床コースとか体験したら、二度と潜れんなるで"
"やべえて感じたら、迷わず自分の首刎ねる子なので……"
"ヤバすぎて草、ファンになります"
やだ、もしかして私のメンタル、お雑魚すぎ?
優奈ちゃんは、相変わらず隣で爆笑しているし━━
「次の問題、次の問題に行きますわ〜〜!」
私はヤケクソで、強引に話を進めていくのであった。
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