バーニングお嬢様、犯罪ギルドに突撃する(3)

 ようやくたどり着いたダイダロスの本拠地。


 その城の入り口で、私は黒幕である篠宮社長と対面していた。

 彼は部下の男を引き連れ、人質にするかのようにちづるちゃんを連れている。



"ちづるちゃん、ちづるちゃんなんで!?"

"ウッソだろ!?"

"ま、まさか――人質?"

"シャドウ・メロディア、叩けば叩くほど埃でてくるな!?"

"篠宮さすがに許すまじ"


 混乱が広がっていくコメント欄。


 ――この時点でシャドウ・メロディアは、完全に終わったと言えるだろう。

 言い逃れできない現行犯。思いっきり犯罪組織と、繋がりがあることを大勢の視聴者の前で喋ってしまったのだから。



「よしよし、五郎。良いぞ、しっかり抑えておけよ?

 バーニングお嬢様とやらも。もし、お友達を痛い目に遭わされたくなければ――」


(うっ、人質なんて!)


 格好をつけるように、そんなことを喋り始める篠宮社長。



(いくらダンジョン内なら蘇生すると言っても、ちづるちゃんに死ぬような傷を負わせる訳には行きませんわ!)

(どうにかして隙を作らないと━━)


 両手をあげて投降の姿勢を見せつつ、私は注意深く相手の様子を観察する。



(お~っほっほっほ、人質を取っただけで油断しきってますわね?)

(不意を付けば、あの人だけを燃やすことも――)


 脳内で、ちづるちゃん救出の算段をつける。

 その時、目の前で信じられない出来事が起きた。



「ちづるたん。怖がらせてごめんよ。――本当に、怖がらせてごめんよ。

 もう大丈夫だから、バーニングお嬢様のもとにおゆき?」

「えへへ、ありがとうございます!」


 なんと、五郎と呼ばれた男が、ちづるちゃんをアッサリ解放すると、その背中を押したのだ!


「――なっ!? 何のつもりだ!!」


 あっさりと人質を解放した男を、篠宮社長が焦ったように怒鳴りつける。


 しかし、時すでに遅し。

 ちづるちゃんは、いつものように天使のような笑みを浮かべながら、こちらに駆け寄ってきていた。


「推しを傷付けるような真似、誰が手を貸すかでござるよ。でゅふふ……、それに拙者は、ちづるたんといっぱいお喋りできて満足したでござるよ」

「ありがとうございます、ストーカーのお兄さん!」


 天使のような微笑みを向けるちづるちゃん。

 ノックアウトされ、崩れ落ちる五郎。


(や、やったんですの!?)

(この一瞬の間に、ストーカーを味方につけるとは━━さすがは黒ちづるちゃん!)


 そんなこんなんで、目の前には天使様。

 ちづるちゃんは、嬉しそうな顔でこちらに駆け寄って来てくると……、



「この……、おバカ~!」


 目に涙をためて、私の胸に飛び込んできた!


 ちづるちゃんは、やっぱり今日も可愛い。 

 泣き笑いしている顔も、可愛い。

 その天使属性は、一瞬ですべての疲労が消し飛ぶほど。



「もう大丈夫ですわ!

 ここには、色んな探索者が、駆けつけてきてますからね!!」

「もう、焔子は! なんで、こんな危険な場所まで――」


 えぐえぐ、と涙を流すちづるちゃん。

 そんな天使様の顔を覗き込み、


「大切な人が困ってたら助けに行く。当たり前のことですわ!」

「――焔子!」


 ちづるちゃんの泣き顔は、決して配信に映さないように。

 同じダンチューバーとしての気遣いだ。



 こんな時に、むしろやるべきなのは……、


「お~っほっほっほ! そんなに嬉しそうな顔をして。

 そんなに私が助けに来たのが、嬉しかったんですの?」

「うん!」

「///」


 私が、ちづるちゃんのあまりの可愛さに悶絶していると、




「おのれ、おのれ! おのれ! おのれ!

 リスポーン地帯に、警察の包囲網……、だと!?

 くそう。くそっ、くそっ! 我がギルドはもう終わりだ!」


 そんな怨嗟の声が聞こえてきた。

 声の主は、篠宮社長。


(そういえば、居ましたわね……)


 冷めた眼差しを向ける私をよそに、篠宮社長はなおもヒートアップかながら喚き散らし、



「やれ! ダイダロスのリーダー!

 高い金を払ったんだ! 小娘一人程度━━」

「うるさいね」


 ダイダロスのリーダーが、刀を抜き放ち、篠宮社長の首を刎ねた。

 血が吹き出し、篠宮社長は一瞬で地に伏す。



「さてと、つまらないものを見せたね。君に、個人的な恨みはない━━まだ捕まる気はなくてね。大人しくそこをどいてくれると助かるのだけど?」

「焔子? これ以上、あんたが無理して戦う必要は━━」


 ちづるちゃんが、心配そうに私を見る。

 この状況に巻き込んでしまったことを、まだ悔いているような複雑そうな顔。


 安心させるように、私は微笑み返す。

 何より、ここまで来てリーダーを取り逃す方が、後味が悪いというものだ。



「悪いですけれど、逃がすつもりはありませんわ。煽りを何より愛するダンチューバーとして━━ダンジョンの治安を乱し、ちづるちゃんに酷いことをしたギルドのリーダー。あなたには、ここで捕まっていただきますわ!」


 気だるそうなダイダロスのリーダー(神楽坂、と名乗った)を指さし、宣言する私。


 私はちづるちゃんと横に並び、ダイダロスのリーダーと睨み合う。

 自然と手を繋いでいた。

 暖かくて小さな手。にぎにぎしていると、ちづるちゃんから不思議な力が流れ込んでくる。



"なになに? 何が起きてるの?"

"今北産業"

"シャドウメロディア ちづるちゃんを誘拐 ダイダロスとも癒着"

"バーニングお嬢様 ちづるちゃん てぇてぇ"



 ――みんなの天使様。

 それが、ちづるちゃんが持つスキルの名前だ。

 効果は、視聴者数に応じてパーティメンバーの全能力にバフをかけるという代物で。

 どうやら手を繋いだことで、自然とパーティーメンバーとしてスキルに認識された様子であった。



(今なら、何でもできる気がしますわ!)


 たった今、頭に使い方が降りてきた新魔法。


「そういうことなら仕方ない。悪いけど、力づくで━━」

「終極魔法――インフェルノ、ですわ!!」


 地獄の業火を召喚する禁忌中の禁忌。

 初めて見る火魔法の到達点。

 生み出されるは灼熱地獄。地獄の業火は、無駄に綺羅びやかなダイダロスの城を一瞬で飲み込み。

 ――敵対する相手ごと、一瞬で消し飛ばした!




"バーニング嬢、つえぇぇぇぇえええええ!!"

"百合に挟まる男は燃やせ"

"てぇ・・・てぇ?"

"【朗報】バーニングお嬢様、あっさりとダイダロスを殲滅する"


「お~っほっほっほ、ダイダロスおそるるに足らず、ですわ~!」

「で~す~わ~~~!」


 ちゃっかり配信中だということを思い出し、今さらながらに配信モードに切り替わるちづるちゃん。

 そうしてちづるちゃん誘拐事件は、幕を下ろすのであった。

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