バーニングお嬢様、唐突なバズり方に困惑する

 朝起きた私が目にしたのは、通知が鳴り止まないスマホであった。


 数秒に1回、ぷるると震える。

 つぶやいたーや、配信チャンネルに、何か動きがあったときに来る通知だ。



 配信チャンネルとは思えないから……、


「ついに燃えた?」


 悲しいけど、納得ではある。


 なにせ煽り系に、炎上は付きもの。

 いつかこんな日が来ると、覚悟していたけれど……、


(嫌だなぁ、怖いなぁ…………)


 私は、遠目に、遠目に、ちらりとスマホを開き……、



「な、なんじゃこりゃあああああ!?」


 思わず叫ぶ。

 視界に入ったのは、流れるコメント欄━━バッチリ配信中だったのである。



(え、え?)

(何やらかした、私!? 昨日の夜中に、寝ぼけて配信立ち上げた!?)


 パニックになる私が、次に見てしまったのは、


"迫真の絶叫草"

"お嬢様要素どこ?"

"登録者数10万人おめでとう〜!"

"いや、リアタイで祭りが見れて楽しかった"

"お雑魚ウォッチングですわ〜!"


 そんな祝い? の言葉。


「またまたそんなぁ……。昨日まで登録者数はギリギリ五桁。ルナミア三期生の面汚しとまで言われた私が、一夜にして10万人なんて━━ふぁっ!? ガチやん!!」


"おハーブ生えますわ〜!"

"ここまでバズるのは予想外"

"あまりのことに素が出てましてよ〜!"



「おガチであらせますわ〜!!!」


"なんでも、おを付ければ良いと思ってそうw"

"こんな場面における上手い返しは、煽り法典には載ってなかったのでございますわ〜!"

"現実ッ! これが現実ッッッ!"


 恐ろしい勢いで流れるコメント欄。

 同時接続数(同時に配信を見ている人数)は、実に20万人にもなっていた。

 その数字は、実に普段の配信の50倍ほど。



 私は、そこで最悪の可能性に思い当たる。

 すなわち昨日の配信の後、切り忘れてしまったという最悪の可能性━━、



"これは歴史に残る配信になったなw"

"お嬢様つらぬこうとして偉い!"

"プライベート焔子ちゃん可愛い"


「か、かわ━━って喜んでる場合じゃねえ! …………こほん、ごめんあそばせ〜〜〜!!」


 私はそう叫びながら、ブチりと配信を落とす。

 そのまま真っ青になりながら、現状把握に務めるのであった。



※※※


 数時間後。

 私は部屋の中で、真っ白い灰のようになっていた。


 あの後、調べてみて分かった事がある。

 どうやら私の一人反省会は、ものの見事に配信に映り込んでしまったようなのである。

 笑顔の練習も、煽り法典の読み上げも、スラリン相手のだらだらーっとしたやべえ笑みも。

 すべて配信に載ってしまったのである!


 その様子はあちこちで切り抜かれ、一晩かけてツブヤイターやダンチューブを伝ってバズっていったらしい。

 動画サイトのランキングは、私の切り抜きで埋まっていた。ツブヤイターのトレンド欄には、デカデカと私の名前が載っている。


(いや……、何で!?)


 私は、思わず天を仰ぐ。


 まったくもってバズる意味が分からない。

 それでも確かにチャンネル登録者数数は、10万の大台を突破していたし、今も新規登録の通知が鳴り止まない。


 いわゆる夢にまで見たバズった状態。

 しかし私、内心真っ青であった。



(ヤバい! ヤバい、ヤバいって!)


 もし私の煽りキャラが、ただの演技であることが知れ渡ってしまったら。

 きっと私は、今の事務所に居られなくなると思う。


「だって私が持ってるスキルの効果、煽り系やっててナンボって効果だし。私、面接でも、煽り系で売っていきますって宣言しちゃったもん!!」


 いくら面白ければ何でもヨシ、のスタイルでおなじみのルナミアさんであっても、そう簡単に掌を返されたら困ってしまうだろう。

 グループのバランスを考えて、採用する演者を決めているはずだし。


 何より私が採用されたのは、スキル【大炎上】の希少性と将来性も大きいと思う。

 煽り系をやめた私に、事務所に所属し続けるだけの価値があるとは思えなかった。



 閑話休題。


「ま、まだ遅くはないはず……。ちゃんと私が根っからの煽り魔だって、アピールしていかないと!」


 そうと決まれば善は急げ。

 私はおもむろにツブヤイターを立ち上げ、


「プギャー、ですわ〜! 昨日のあれは、そういう演出ですわ〜。無知なお雑魚さんがたくさん釣れて、楽しかったのですわ〜!!」


 ━━これでヨシ。

 きっと怒り狂った下僕(私のリスナーさんのこと)たちが、私にリプライを送ってくるはずで……、



"無理しないで"

"可愛い"

"めっちゃ慌ててそう"

"もう全ての煽り文句に可愛いって返されそう"


「え・ん・しゅ・つ、なのですわ〜〜!」


"可愛い"

"可愛い(可愛い)"

"その素直さで煽り系は無理よ"

"お~っほっほっほ、ですわ〜!!!!"



(アカン……)


 私は、パタンとツブヤイターを閉じる。

 一晩で広まってしまった一人反省会のイメージは、ちょっとやそっとのことでは消えてくれなそうだ。



 ピリリリリリ!

 その時、スマホアプリのルインに着信があった。

 送信相手としては、マネージャーの名前が書かれており、



「この度の不祥事、大変、大変申し訳ございませんでした!!」


 私は光の速度で土下座。

 一方、マネージャは、おもむろに口を開き、



「ナイス演出でした! 焔子さん、やっぱり天才だったんですね……!!!」


 そんなことを、テンション高くのたまうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る