第8話 Baby love(8)

「は??? 出張???」



斯波は思わず萌香に振り返った。



「・・うん。 ほんまにトラブッて大変みたいなの。 金曜日に行って日曜の夕方には戻れると思うけど。」



萌香は彼の顔色を必死に伺ってしまった。



そして聞かれる前に



「翔は。 金曜日と土曜日は志奈子さんに見てもらったあと、南さんが夜は預かってくれるって言ってくださって。日曜日はあたしが帰るまで見てくれるって。ほんと申し訳なかったんですけど、」



慌てて言った。



斯波はものすごい険しい顔でジッと考えている。



怒ってる・・




萌香はそう思った。



彼はあまり話はしないので、いつも彼の気持ちを推し量るクセがついていた。



今までの経験から言うと、この表情と間は怒っている時だ。



「あ・・ほんと。 両立するってエラそうなこと言って。 結局、みなさんにご迷惑をかけて申し訳ないって、思うんやけど、」



萌香はどんどんいいわけめいたことを言ってしまった。




すると



斯波の口から出た言葉に萌香は驚いた。



「おれがみるよ。 翔は。」



いつものように平然とそしてボソっと。



「は・・」



「金曜と土曜は。 なるべく早く帰っておれが連れて帰る。 日曜日は萌が帰るまでおれが見る。」



ウソっ!!



萌香はそう言いたかったが飲み込んだ。



彼に翔の世話をやらせなかったのは、忙しい彼に気を遣ってのことだった。



それに



まだ彼が子供に対してどう接していいのかわからない、という空気も感じていた。



翔のことはかわいがってくれてはいるが、どこか腰が引けているようで。



少し離れたところで見ているようにも思えたから。



「え・・ええの?」



思わず聞いてしまった。



「え、別に。 日曜は休もうと思っていたし。 おれがいるのに人に任せるのもどうかと思うし、」



彼は平然と言っていつものように難しい顔をして書き物をしていた。



それは



そうなんやけど・・



萌香の顔を見て斯波は




「そんな不安そうな顔すんなよ、」



逆に不機嫌になってしまった。



「え、いや。 そういうわけやないんやけど、」



「もちろん。 いろいろ準備はしていってくれ。 大事なことは紙に書いておいて。」



まるで仕事の引継ぎのように普通に言われて。



萌香は一番聞きたいことがきけずにいた。



斯波はそんな彼女の気持ちが伝わったかのように



「おれの子供だろ。 萌が見れないときはおれが見る。 萌ばっかりに何でも押し付けるわけにいかないし。おまえが仕事を始めることになったときから、おれたちはどっちが偉いとかそういうんじゃなくて、二人で融通しながらやってくのが当たり前だって思うから。」



しっかりと彼女を見てそう言った。



「清四郎さん・・」



萌香は思わず胸の前でぎゅっと拳を握り締めた。



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