第6話 Baby love(6)

「え、それなら。 翔をうちに夜は泊めたらええやん。 志奈子さんはお願いすればお休みの日も融通してくれるし、」



南にその話をしたらあっさりそう言われた。



「え・・でも・・」



萌香は戸惑う。



「ウチは竜生たちがちっさいころからほんまの子供みたいに預かってきたし。 まあ、エリちゃんとこは柊がまだ夜が大変やから二人は面倒みれへんやろし。 でも、あたしでよかったら預かるよ。」



「南さん・・」



自分が仕事をするとなると



こうして誰かに助けてもらわなければ子育ては難しい。



甘えている、と思うけれども



やっぱり人の好意にすがるしかないのだ。



「そんな顔して。あたしは翔が生まれるトコずーっと見守ってて。 斯波ちゃんより先に抱っこしたんやで? そんな2日くらいどーってことないし。」



南は笑う。



「本当に絵梨沙さんにもいつも甘えてしまって。 申し訳ない気持ちでいっぱいです・・」



萌香は頭を下げた。



「何言うてん。 ほんまに。 みんなで助け合ってやってきたやん。 今までだって。 それは仕事でもプライベートでも同じ。 あたしが真太郎と別れるって言うたときに萌ちゃん、しんどいのに会いに来てくれて。 あたしがまた真太郎のもとに戻ろうと思えたのも萌ちゃんのおかげやねん。 ううん、萌ちゃんと翔のおかげかも。 ほんまに感謝してもしきれないって思うから。」




あの時。



まさか南を訪ねて産気づいてしまうだなんて夢にも思わなくて。



あんなに迷惑をかけたのにそんな風に言ってもらった萌香はジンとした。



「南さん・・」



「みんなでがんばろ。 萌ちゃんが志藤ちゃんをサポートしてくれるってことは。会社を、ううん。 真太郎を助けてくれることだって思うから。」



その言葉に



迷いが吹っ切れた。




そのころ斯波は。



帰国している真尋との打ち合わせで彼の家まで行った。



「は??? サウナ??」



耳を疑った。



「すみません・・斯波さんがいらっしゃるって聞いてなくて。 もうそろそろ戻ると思うんですけど、」



絵梨沙は身を縮めるように言った。



真尋の自由すぎる行動は今に始まったことではないが。



2時に約束したのに



1時40分にサウナに出かける常識がわからない。



「・・・・」



一気に険しい顔になってしまった斯波に絵梨沙はドキドキした。



そこに



「あ、斯波さん。 お久しぶりです。」



ベビーシッターの岸本志奈子が翔を抱いてやって来た。



「あ・・ども、」



そして、一気に沸騰した気持ちが急冷していった。


「ほんと。 翔くん、かわいいですよね~~~。 このごろは表情も出てきて。 あんまり泣いて困らせたりしないし。」



まさか仕事先で自分の子供に会う想像をしていなかったので



「や・・はあ。 い、いつもお世話になって・・」


ここが真尋の自宅であると同時に、自分の子供を預かってもらっている場所であることを実感してしまった。



その時、



「あ、いけない! お湯沸かしっぱなし。 ちょっといいですか。」



志奈子はおもむろに翔を斯波に手渡した。



「は????」



「翔くんはミルクの時間ですから。 今、どうせヒマなんでしょ? お願いできるかしら、」



彼女は哺乳瓶を彼に手渡した。



「は・・」



斯波はいきなり子供と哺乳瓶を手渡されて固まった・・



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