第3話 Baby love(3)
「南さんも忙しいですよね、」
絵梨沙は南にお茶を淹れてきた。
「ん。 まーね。 でも、こうしてたまには早く帰れることもあるし、」
それに口をつけていつものように元気に言った。
南は事業部の仕事以外に真太郎のサポートもして、以前よりもぐんと忙しくなった。
「ねえねえ、今日みーちゃんとこ泊まりたい、」
真鈴がすり寄って来た。
「もう、またわがまま言って。」
絵梨沙がたしなめると
「ええやん、ええやん。 一緒にお風呂はいろ。」
南は真鈴の頭を撫でた。
真尋のウイーンでの仕事は順調だが、去年の春から行ってこれまでに3度しか日本に戻れていない。
ほぼ母子家庭状態なのだが、こうして南や義母たちが子供たちを気遣って面倒を見てくれる。
絵梨沙は自分の恵まれた環境に感謝した。
萌香は仕事をしながらも頑張って子育てもしていた。
夜7時には迎えに行けるように日中は仕事をフル回転でこなす。
彼女は子育ての手伝いを斯波に頼むようなことはこれまでに1度もなかった。
新生児のころからお風呂も夜泣きも一人で対応した。
たまに萌香が買い物に出かけていて、斯波がオシメを替えてやろうとしていると
戻って来た彼女は急いで駆け寄って
「あたしがやりますから、」
と、ほぼ彼には何もやらせなかった。
休みの日に時々翔をベビーカーに乗せて3人で散歩に行くくらいで。
むずがる翔をあやすとか、ミルクを飲ませるとか
そんなことは一切やったことがないという
近頃の若い父親にはありえないほど育児に参加していなかった。
「あ~~~、あたしがかーくんを預かりたい、」
夏希は大まじめに言ってため息をついた。
「なに言うてるの、」
一緒にランチをとっていた萌香は笑った。
「この前、絵梨沙さんの仕事のことでお宅に伺ったんですけど! もー、柊くんと並んで寝かされてるのみると、きゅ~~~んとなるほどかわいくて! 仕事より長い時間いて斯波さんに怒られました・・」
身ぶり手ぶりを交えてオーバーに話す夏希に南も笑ってしまった。
「自分で産んだ方が早いって、」
「まーねー。 いつかは赤ちゃんができたらねーって隆ちゃんとも話してるんですけど。」
「でも。 斯波ちゃんはなーんもしないんやろ? 一人で大変やな、」
南は萌香に話を振った。
「いえ。 あたしが彼には家にいるときは休んでほしいので。 夜も別の部屋で寝て、夜泣きしても迷惑がかからないように、」
「え、えらーい! 栗栖さんだって仕事を始めたんだから大変なのに、」
「彼の方が大変やから。 ほんま休みもほとんどなく仕事やし、」
萌香は余裕の笑顔で言った。
「加瀬がそーやって斯波ちゃんにメーワクをかけるからやんかあ、」
南は夏希の肩を小突いた。
「わっ! スープがこぼれますよっ!!」
大変だけれど、またこうしてみんなと一緒に過ごす時間も
萌香には嬉しかった。
翔が北都家に預かられるようになってから1ヶ月ほどすぎたころ。
「え!!! 増えてる!!」
日本での仕事のあと香港のコンサートを控えた真尋が4日ほどの予定で自宅に戻った。
いきなりベビーベッドに赤ん坊が二人並んで寝かされているのを見て、彼は大真面目に驚いた。
「なに? ウチって双子だった???」
絵梨沙に聞くその顔は真剣そのものだったので
「ほんと。 自分の子がひとりなのかふたりなのかわからないってどうなのよ・・」
絵梨沙は呆れてため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます