第2話 Baby love(2)

「ただ、」



萌香は最後にひとつ付け加えた。



「あたしに子供がいるから、と仕事をいいつけることを躊躇しないで頂きたいんです。」



彼女は凛とした表情でそう言った。



「仕事に復帰したからには。 甘えたくないので。 もちろん子供のことも大事ですが、仕事中は仕事に専念したいので、」




ここに来た頃の彼女のことを思い出す。



いろいろあって本当に変わったけれど、仕事に対する厳しさは全く変わらない。



「うん、」



志藤はゆっくりとうなずいてそう言った。



・・にしても。



産後3ヶ月とは思えないほど、彼女のプロポーションは変わらなかった。



あの死ぬほどの美女ぶりもそのままで。



タイトスカートから覗く脚も



思わず床にへばりついて拝みたいほどキレイやし。



志藤は一人ニヤついてしまった。



「なにか?」



冷めたように彼女に言われて



「や・・なんでもないっス。」



ごまかすようにパソコンに目を移した。




「悪かったな、」



志藤はやっぱり斯波に黙っていられずに、謝ってしまった。



「いえ。おれは別に、」



いつものように難しい顔で書類に目を通しながら斯波はボソっと言った。



「どんどんかわいくなってく時期やし。 栗栖も離れがたかったと思うで。 ゆうこなんかな、3人目の涼太郎が1歳になったくらいのころ。 近所の花屋さんで仕事しませんかって誘われたんやけど。 単なるバイトなのにめっちゃ悩んで。 子供たちはお義母さんが預かってくれるっていうのに、死ぬほど悩んで。 結局『子供たちから離れられない』って泣いて、でけへんかったんやで、」



志藤は思い出して笑った。



斯波はその話にようやく彼を見て、



「彼女は。 仕事のことに関してはいつも曲げませんから。 おれが何か言っても、ムダだし。」




ふと笑った。



志藤が事業部を抜ける時に、自分の信念を貫いて彼女も事業部を辞めた。



「彼女はずっとずっと自分が誇りを持てる仕事をするために頑張ってきたんです。それは。 おれでも冒すことができない領域でもありますから。 子供のことは心配じゃないわけじゃないですけど、彼女の気持ちは尊重してやりたい、と。」



斯波はいつものようにボソボソとそれでも自分の気持ちを素直に言い表した。



ほんまに。



この夫婦はお互いのことを死ぬほどわかりあってるんやな。



志藤は感動さえ覚えた。




北都家に預けられた翔だったが、まだ小さかったせいか特にいつもと変わりなく過ごしていた。



絵梨沙と真尋の3番目の子の柊はまだ生まれて1カ月と少しくらいで、まるで双子のようにベッドに寝かされていた。




「も~~~、むっちゃカワイイよね! 柊はおっきい赤ちゃんだからほんまに双子みたい。」



南は早く帰宅できる時はいつもここに直行して赤ちゃんたちを見るのが楽しみだった。




「あたしも作曲の仕事もあるし。 どっちにしろシッターの志奈子さんの助けは必要ですし。 志奈子さんも快く承諾してくれましたから。」



絵梨沙も笑顔で彼らを見つめた。


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