第12話 Baby love(12)

しかし



地獄はまだ続く。



翔は機嫌がよくて、ぐずるようなことはなくなったが



「あれっ???? また濡れてる!」



気がつくとオシッコで服が濡れていた。



「ちゃんとオシメしてるのに。 なんなんだよ~~~、」



そのせいで何度も何度も服を替えるハメになった。



そして、ウンチにも閉口した。



「ミルクしか飲んでねーくせに。 なんでこんなにクセーんだよ・・」



そんなこんなで夜もロクに眠れなかった。




「おはよ・・」



斯波は非常に寝不足状態で翌朝、北都家に翔を預けにやって来た。



「おはようございます・・」



もうひと目で斯波が疲労困憊状態なことがわかってしまった絵梨沙は彼の顔色を伺ってしまった。



「なァ・・」



翔をベッドに寝かせた後、よろっと彼女に近づいてきた。



「は???」



思わず後ずさりするほど彼の顔は怖かった。



「なんかしらねーけど。 オシメ替えようとするたんびに! 外までオシッコが漏れてんの! どーゆーことなんだと思う????」



あまりに意外な質問に



絵梨沙は



「は・・・」



口が開きっぱなしになってしまった。



「もう! ゆうべそれで何度も何度も着替えさせて! 今朝も洗濯だけで1時間以上かかっちゃったし!!!」



彼は必死だった。



「え・・ええっと。」



絵梨沙は我に返って翔のオシメの様子を見てみた。



「あ。 これは・・」



それを見てすぐにそのわけがわかった。



「ユルすぎます、これは・・」



絵梨沙は斯波を見た。



「は???」



思わず身を乗り出した。



「ゆ・・ゆるいって?」



「もうちょっとピシっと止めないと。 これじゃあブカブカで漏れちゃいます、」



絵梨沙は手馴れた様子でオシメを直してやった。



「で、でも。あんまりきつくしちゃうと苦しいだろ、」



「赤ちゃんってけっこうだいじょぶなもんなんです。 ほら、まだ翔くんは寝てばっかりじゃないですか。 おすわりやハイハイするようになるとまたキツすぎるのもかわいそうなんですけど。 このくらいピシっとしないと。 それに足の周りにギャザーがあるじゃないですか。 これを外側に出すようにしてやるといいと思います、」



目からウロコだった。



「そうか、これがダメだったのか・・」



絵梨沙は斯波のあまりに真剣な表情にそこはかとないおかしさがこみ上げて。



しかし、笑ってはいけないと思い必死に堪える。



斯波は真剣な表情で翔のオムツをやり直したりして『復習』をしていた。




あの斯波さんが。



絵梨沙は彼と出会った頃を思い出していた。



本当に怖くて怖くて



厳しいことを言われて泣かされて。



とにかく仕事に厳しい人で、容赦ない言葉を浴びせられた。



何とか服を直してやると翔は斯波を見てニッコリ笑った。




それを見て斯波も自然に顔が綻ぶ。



いいパパなのね。



絵梨沙も何だか温かい気持ちになった。

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