第13話 Baby love(13)

萌香から心配する電話が何度もあった。



「んー。 何とかやってっから。 あんま心配すんな、」



斯波はそれが照れくさいような気がして、わざとそっけなく言った。



「萌ちゃんから~?」



電話を切るとそばに南がいたので、ドキっとした。



「な、なんだよっ! 盗み聞きして!」



慌てて電話をしまった。



「顔から疲労がにじみ出てるよ。」



南はニヤっと笑った。



「ぜっ・・ぜんぜん! 昨日はちゃんと風呂にも入れたし、今朝はりんごを摩り下ろした果汁も飲ませたし!」



彼女に強がったことを言ってしまった手前



よく寝ることもできなかっただなんて口が裂けても言えない。



「翔はあんまり泣かなくていいコやって美和子さん言うてたで。柊のがぎゃーぎゃー泣いて大変って、」




ま。



おれと萌香の子供だしな。



思わずほくそえんでしまった。



「なに笑とるん、」



南に悟られそうになり、あわてていつもの顔に戻した。




「は?? 風呂、スかあ?」



八神の声が大きかったので、斯波は



「しっ・・!」



ものすごい秘密の話をするかのようにオーバーに辺りをうかがった。



「子供のフロは。 そーですね。 ひとりで座れるようになるとその辺に座らせておいておれが身体あらったりできるんですけど。」



八神は自分のことを思い出しながら答えた。



「それまではどーしたらいいんだよ、」



斯波は大真面目だった。



「そりゃ、二人でやんないと。 おれが入ってて全部洗ってから、美咲が桃を連れてきて。 あとは桃を洗ってあっためてやってってやらないと。 座ることもできないうちからひとりは無理ですよ、」



「は・・」



なんだかショーゲキだった。



ひとりで赤ん坊をフロに入れることがこんなに大変だなんて・・



それを萌香はずうっとひとりでやっていたのか。



「だから。 おれが呑んだりして帰るのが遅くなったりすると。 美咲がチョー怒って。 あたしがどんだけ大変な思いをして桃をフロに入れたと思ってんだ、ってすんごいしつこく怒るんですよ、」



八神は憤慨していたが、今の斯波はその大変さがすごくよくわかった。



「そっかあ・・」



「・・で。 やっぱ大変だったんスか?」



八神はまたもいつものように彼のプライベートに踏み込んで



ものすごい目で睨まれた。



「って。 そっちから聞いてきたんじゃないスか!」



八神の文句も聞こえず、斯波はさっさと彼のそばを離れた。




「もーさあ、さっき。 斯波ちゃんと原宿まで出かけたんやけど。 おもちゃ屋さんの前でジーっといろいろ見たりして。 翔になんか買ったろーかって感じで。 また横から言うとうるさいから、そーっと離れて見守ってたんやけど。 ほんま斯波ちゃんがああなるとはね~~~~、」



南はとっても我慢ができずに、八神や夏希たちにチクってしまった。



「いやいや。 斯波さんが赤ん坊をフロに入れてるトコも想像できないですよ、」



八神は自分がゲットしたエピソードを誇らしげに言いふらした。



「あ~あ。 あたしがかーくんを預かってあげるのに、」



夏希だけがガッカリしていた。



「おまえに預けるんなら自分で絶対面倒見るって斯波さんだってさすがに思うって、」



八神は笑った。



「どっちにしろ。 隠しカメラセットして、見てみたいな~~。」



南の言葉に二人はウンウンと頷いた。



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