愛してるから、食べられたい。

盲目の花嫁は供物にされた。刀根田村が祀る八千矛神へ捧げる生け贄に。

八千矛神を祀る大蔵に七日間閉じ込められることになった椿がそこで心を通わせたものはいったい何だったのか。神なのか、妖なのか、精霊なのか。読者がわかるのは、死を望むほど虐げられていた椿が『朧』というひどく優しく愛情深い男と蔵を出たということだけ。

人ならざる存在と惹かれ合い、人間としての領分を越えてしまった椿の嫁入りセカンドライフは、朧が用意した「美しいもの」で溢れています。今まで目が見えなかった分、美しいものをたくさん見せてあげたいという彼の愛情ゆえに。

暗い世界から出た二人が歩む夫婦としての時間の美しさ。相手を想う心。そういった全てに寄り添ってくれる圧倒的な表現力に脱帽です。和風ホラーという言葉では軽く聞こえるし、異種族婚とも少し違う。やっぱりタイトルの『幽冥婚姻譚』がしっくりきます。元は同じもの同士だった二人が光の届かない奥深くの薄暗い暗闇で出会い、別の何かに変わっていく。おどろおどろしくも美しく。

読了後に目にするキャッチコピーの尊さに、ぜひ酔い痴れて下さい。おススメの一作です。

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