一目惚れから始まる鬼の溺愛が、百年ぶりの百鬼夜行をもたらす。

陽本国の武家の娘である一白は転生者である。前世は熱中症で帰らぬ人となり、そして今生でも両親から過剰な折檻を受けて、蒸し風呂のような土蔵に閉じ込められていた。
そんな命の危機に現れたのは、真っ白な美しい鬼、春宵。
助けられた一白へ開口一番に彼が伝えた言葉は「まいすいぃとはにぃ」――どうやら、一目惚れされたらしい。

人間と鬼、太陽の国と宵闇の国。何もかもが違う理へ身を置くことになった一白は、とある事情から春宵たちと百年越しの百鬼夜行の復興を目指すことに。そこで一白が前世で打ち込んでいた「よさこい」を踊ることになったのだが、個性豊かな鬼たちをまとめるのは一筋縄ではいかず……。


序盤は大型犬のような溺愛ヒーローかと思ったが、やはり春宵は「鬼」である。ふとした時に垣間見える彼は豪胆で荒々しく傲慢で、私たちが普段想像している鬼に違いない。だが、一白への想いだけはどこまでも真っ直ぐだ。
そんな規格外な男に愛される一白が、とにかくかわいい。素朴ながらも芯があって寛容。絶対に良いお嫁さんになると思いながら読み進めた。そのうち月隠国では狸顔が美人の代名詞になるんじゃないだろうか。

そしてなんと言っても、よさこいの描写が秀逸!
作者様自身が踊り手だったこともあり、その魅力を存分に書き込まれている。衣装に、メイクに、太鼓に、振付に。音まで想像できそうなくらい壮大な冒頭の口上に一白と春宵が辿り着く過程を、まだまだ読み進めてみたい。

和風×溺愛×異類婚姻譚が楽しめる一作です。ぜひご一読あれ!

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