陰謀渦巻く聖なる鳥籠で、傷だらけの少女が立ち向かう。愛する人と一緒に。

治癒の能力を有する聖女たちが日々奉公に励む中央大聖堂で、ユフィリアは「無能なクズ聖女」と呼ばれている。下級聖女でも治せるようなちょっとした傷も治せず、治療を求める者を自分の気分で突っぱねてしまうからだ。
だがそれは仮の姿。本当の彼女はとても強い治癒能力を持ち、その力で治癒が行き届かない貧民たちを救うため、昼間は力を温存しているのだ。

そんなユフィリアが、黒騎士レオヴァルトと突然婚約することに!
聖女は夫と交わることでその聖能力が飛躍的に増すとされる。ユフィリアの力を高めたいと画策する筆頭司祭レイモンドの企みによって無理やり婚約者になった二人は最初こそお互い相容れない様子だが、「弱者を助けたい」という共通の夢を持つことで、徐々に惹かれ合っていく――。



端麗な言葉選びで紡がれる人物像は溜息が出るほど美しく、その人の生き様を悠々と表現しています。そして女性社会の縮図のような中央大聖堂の様子も生々しくて刺さります。集団真理やカースト制がこれでもかと詰め込まれた箱をよくぞ作り上げられたと感服しました。この私利私欲の坩堝の中で人のために献身的になろうとすればするほど、ユフィリアには体罰の傷が増え続ける。我欲に塗れたレイモンドや二つの顔を持つ筆頭聖女イザベラなどの敵役によって、彼女の健気さがより際立ちます。だからこそレオヴァルトからの溺愛が染みる……。

作り込まれた世界観とうっとりしてしまう文章が魅力的な作品です。努力の末に愛される幸せを噛みしめたい人にお届けしたい一作。ぜひご一読あれ!

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