第24話 全力の威力




 時折水が滴る音が響く、暗くジメジメした場所。


「はぁ、はぁ……」


 そこをフラつきながら、一歩一歩ゆっくり進む。


 音は特にしない。魔力探知の範囲に引っかかる人数が多いのは困るが、ほとんどが頭上の反応なので気にする必要はない。


 それでも休む事なんて出来ない。鉛のように重い足を動かしてまた一歩踏み出した。


 早く離れる為に、捕まらない為に。


 水が流れる先にある出口を目指して。




 ◇◇◇




 魔法を掛けられて意識を失っていた私は何故か意識を取り戻し、体は全く動かせないので聞こえてくる話をぼんやりしたまま聞くしかなかった。


 確か、ヴォギュエ伯爵、と呼ばれていた男がずっと喋っていたと思う。


「~~~を恨むなよ?恨むのなら、王子などと言う高貴な身分の方と結婚できると思った貴様を恨め。その隣はもう決まっているのだからな。まったく~~~~~」


 その言葉に夢現だった頭が少し覚醒した。


 そういえばそうだ。貴族、いや王族ともなれば幼い頃には将来を誓い支え会う相手が、婚約者がいて当然なんだ。私には関係ないからすっかり忘れていた。


 という事は、第3王子は婚約者がいながら私に告白した事になる。


 ケイシー、に話した内容はあながち間違っていなかった事になるのかな。


 まだ何か話している伯爵の声を他所に考えていた私を現実に戻す音がした。


 ───バリン!


 ガラスが割れる音と暴風が部屋を襲い、そして聞き覚えのある声が耳に囁かれた事で。


「迎えに来たよ。私のお姫様」


 たった一言で誰か分かった。


 周りの声が聞こえなくなって、体の体温が奪われていく。


 逃げなきゃ、離れなきゃ、早くしないと、速く動かないと、そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……。


 ────『エルテが断ったら、そんな足はいらないだろう』───


 次々と思い出される言葉に心が苦しくなる。


 ───『それが私の愛だ。閉じ込めたいほど愛してるその想いをエルテもきっと、わかってくれる』──────


 第3王子から離れたくて、逃げてきたはずなのに今、声が聞こえる距離にいる。見えないだけで視認出来る場所にいる。


「…1人、1人と言ったなぁ!!そうか、1人か!ハハハッ!やはりワタシはツイている!!」

「…それがどうした?」

「第3王子殿下、いや。貴様は重大なミスを犯した!」


 それが恐ろしい。捕まったら最後、今の動けない状況じゃあ逃げる事すら出来ない。


 2回目を許してくれる訳もない。


「ヴォギュエ伯爵、そしてその部下!取引をしていた商会!そして何よりも殿下の花を取り戻すぞ!!」

『「「「はっ!!!」」」』


 お願いだから、私を抱えている人、何とか逃げきって!


「クソッ!お前ら、やるぞ!!」

『「「おお!!」」』


 いつの間にか戦いが始まろうとしているのを前に、私を抱えている奴隷商会の人にこのまま運ばれたら不味い事が分かっていたが、つい祈ってしまった。


 でも、現実は非情だ。


「何時までそんなモノを抱えている!ここから逃げきる事が優先だ!伯爵は死んだ!大切に運ぶ価値の無いモノなど捨ててしまえ!」

「ハ、ハイッ!アシェルさん!」


 奴隷商会の男に言われて、私を抱えていた者は指示に従って私を何の感慨もなく、雑に床へ投げ捨てた。


(痛い…。雑に投げ捨てるんじゃなくて優しく、いや少しでも運んでから下ろして欲しかった。許さんあの商会の奴)


 床に落とされ、体を打った私は奴隷商会の指示を出した方も、指示に従って投げ捨てた方も恨む。


 そんな抗議の言葉を声にする余裕はなく、それよりも縛られて動けない状況で運んでくれる人を失ったのは不味い。と縄を切ろうと魔法を使った。


 だが魔法の発動はビリッとした痛みによってキャンセルされてしまう。


(……ッ!?………そうだった。魔力が上手く使えなくされてるんだった。何で忘れてたかな、私)


 何かの魔法の所為で、魔法の発動は絶望的だ。発動事態は出来る。でも、あの痛みの所為で集中力が一瞬切れて、練った魔力が飛散してしまう。痛みよりも痛みで集中力が切れてしまう事の方が厄介だ。


 かといって自分の力だけでは拘束を解くのは不可能だ。目覚めた時に比べると指だけじゃなくて腕まで動くようになったが、拘束をどうにか出来る程じゃない。


 他者に助けを求めて拘束を解いて貰うのは無理、かなぁ。ケイシーと奴隷商会は論外だし、王子とその騎士達は助けてはくれるだろうがその先を考えると、うん。


 自分で何とかするしかない事を確認出来たので、気合いと覚悟を決めて縄を切る為に魔法を使う。


 魔法の出力が上がる程に痛みも強くなったが何とか自力で縄を切れた。起き上がって喜びたいところだけど落ち着いて動かなければ。でも嬉しい!


 静かに自由になった事を喜んでいたのも束の間。




「ウワァ!!」


 叫び声がした方向を向いた私の目に写ったのは血みどろの戦場だった。


「囲め!複数人で対処するんだ!!」

「ハッ!」


 剣や槍を持った騎士が1人の男を囲むと、


「ギャァァァ!!」


 穴だらけになって、叫び声がしなくなっても刺し続ける。見たくなくて目を背けた先では、


「アアァァァァ!!!」


 騎士の1人が炎に包まれていた。


 燃える騎士の前に立つ2人の内、杖を掲げた者の傍らで笑う男。


「ハハハッ!我等、『幸運の証』が誇る奴隷の炎の威力はどうでしょうか?叫ぶ程に素晴らしいでしょう?ハッ、ハハハッ!」

「アアァ、イダイ、イダイィィィ!!」

「それは良かったです。ハハハッ!」


 その他にも、窓から落ちる者や扉があったらしき場所の先にある廊下で戦闘している者もいた。


 部屋のあらゆる場所で、屋敷の中で外で人が殺され、殺し、死んでいた。


「・・・」


 初めて見た戦場に、殺し合いにただ、呆然としていた。魔物と戦うのとは違う。ドロドロして、苦しくなるそんな空気に動けなかった。


 ────ギィン!


「ッ!!」


 そんな私の目の前にナイフが突き刺さった。


 近くで戦闘しているナイフを構えた暗殺者のような風貌の、一見仲間のように見える2名。その戦闘で飛んだのだと察した。


 まだ、まだ誰も気が付いていない。私が動けるようになった事に気が付かれていない。


 荒くなっていった呼吸を、ゆっくり深呼吸する事で無理矢理落ち着かせると、飛んできたナイフを床から引き抜き、息を魔力を音を気配を、抑えて殺して隠れる。


 そのままコソコソ動き、倒れた机の裏に隠れると部屋を見渡し、状況の確認をする。


 豪華な服の太った男が死んでいる。あれってお喋りな伯爵じゃないっけ?仲間割れをしたのかな?


 他にも戦闘で殺されたらしき暗殺者っぽい人と鎧を装備している騎士っぽい人の死体がチラホラ部屋に転がっている。


 見える範囲にはケイシーらしき女性の死体はない。


 部屋の外はどうなっているのかな。あまり密集して戦っていないと逃げやすそうで嬉しいんだけど。探るならやっぱり魔力探知かな。


 拘束は解いたし、掛けられていた魔法も効果切れか術者が解いたかで既に解けてる。魔法を使っても大丈夫…な筈。


 一旦深呼吸して、魔力探知を発動させる。


「いッ、~~!」


 ダメだった。


 さっきから全く変わってない痛みがした。もうやだ。何でこの魔法妨害の効果だけこんなに持続力あるの?


「たった1人殺すだけでボーナスだ!この好機を逃す訳にはいかねぇなぁ!!」

「殿下の剣たる我々がそれを許しはしない!」


 嬉しくない事に未だに魔法妨害の効果がある事が分かった中でも、部屋にいる数名の騎士や暗殺者、その他の者達の戦闘は続いている。


 戦闘が終わったらすぐに私がいなくなった事に気が付かれてしまうだろう。その前に、この魔法妨害を何とかしなければ。


 魔力を体内に循環させて、魔法の種類や具体的な効果を探る。


(種類は黒魔法か。効果は、魔法発動時に僅かな魔力を痛みに変える。ちょっとアレンジされてるから魔法の術式を解析して破壊は無理そう。でもこれ、術の効果の持続のためにシンボルがある?……ダメだ。シンボルを探っても何も反応しない。隠されてる?)


 調べた結果、術の破壊よりもシンボルの破壊の方が早そうだと分かったが、肝心のシンボルが分からない。


 でもこういうのは大抵が魔石が使われてる事が多い。だから魔石が使われている何かで体に身に付けている物だろう。


(そういう物は……1つだけか。)


 身に付けている物で怪しい物は1つ。心当たりも充分。


 ピンク色の魔石が嵌められた馬の蹄鉄型ホースシューがぶら下がったペンダントを手に取って眺める。




 深呼吸をして覚悟を決めた。


「……ふぅ。ッ!!」


 しっかり握って、引きちぎるつもりで思いっきり引っ張る。


 が、


(全然ちぎれない!手と首が痛い。)


 恐らくココのペンダントにしたのと同じように補強されているのだろう。手でちぎる事は諦めて、取ってきたナイフで壊そうと試みる。


「……ナイフが負けた」


 ペンダントを壊す前にナイフが刃零れした。


 万事休す。魔法が使えない状態でここから気が付かれずに逃げるなんて難しいだろう。


「グハァ!!」


 それでもここから逃げた方が良い。と覚悟を決めかけたその時叫び声がして、


 ガシャン!!───


 大きな物音を発てて隠れていた机の半分を破壊して人が飛んできた。


「クソ。名無しでも闇ギルドの一員という事か…………」


 まだ生きていた暗殺者っぽいが起き上がり、運良く壊れなかった机の裏に隠れていた私と目があった。


「「・・・・・」」


 一瞬、騒がしい戦場の中でここにだけ沈黙が満ちる。


「ッ!?」


 頭が追い付いたのか動いて声を出しそうになった暗殺者に咄嗟に近付いて口を塞いで首を振る。


 特に抵抗もされずに口を塞げて、コクコク頷いた暗殺者にほっとして、





 暗殺者の首を斬った。


「カヒュ!?ッ………」


 抵抗しなかったという事は王子の部下とかなのだろう。あちらは私の味方のつもりで、この死地に来たのだろう。


 でも、私にとっては味方じゃない。


 今は攻撃されないだけで、捕まれば私の自由を奪う側に回るはずだ。だから私も奪おう。


 暗殺者(たぶん王子の部下)の死体を漁ってナイフ数点とウエストポーチを盗る。


 他の人達がこちらに来てない事を確認して、机の物陰で1番質が良さそうなナイフでペンダントを壊そうとする。


「……………」


 ────カシャン


 暫くチェーンを傷付けて、呆気なくペンダントは壊れて床に落ちた。


(うん。問題なく魔法が使える。当たっていて良かった)


 周囲の魔力探知が問題なく出来た事に安堵して、次の問題に頭を切り換える。


 部屋で戦闘している者達をどうするかについてだ。


 今は2対2で拮抗している。第3王子は外に、ケイシーも王子の騎士も他の者達も別の場所に移動して戦っているのは魔力探知で知ってる。


 隠れて逃げたいのは山々だが、ここにいる者を放置していると決着がついた時に私がいなくなった事に気が付かれてしまう。その時に逃げきれていれば問題は無いが、対処した方が良いだろう。


 でも闇討ちなんてした事ない。だから相討ちになるように支援しよう。


「勝たせるなら部下っぽい方かな…?【ヒール】【パワフル】」


 後ろにいる暗殺者(王子の部下っぽい)の服装を元にその服装に近い人に体力が回復する程度の軽い回復魔法と筋力増強魔法を掛ける。


「調子が上がった!?これならっ!」

「なっ!?」


 拮抗していた戦いは私が1度支援しただけで崩れ、あっという間に決着した。


「さっきのは一体…」


 呆然と立つ暗殺者に近付く。多少は頑張って気配を隠しはしたがすぐに気が付かれて暗殺者は振り向いた。


「!?…貴女、は…良かった。ご無事だったのですね」

「お怪我はございませんか?」


 ほっと胸を撫で下ろす暗殺者2人は予想通りに王子の部下なのだろう。


「殿下もとても心配されています。此所に来たのも殿下が必死に捜されたからで…」


 彼等が悪いわけではない。私が悪い。それでも自分の為に私は…。


 息を吸って、緊張で声を上ずらせて私は2人を騙す言葉を口にした。


「す、すみません。あの、実はさっきから魔法が使えなくて、たぶんペンダントが原因だと思うんですが…」


 言い切ったけれど、私の演技を怪しまれていないか不安になる。2人の様子を静かに伺う私の目に写ったのは、顔を見合わせて驚いた表情を浮かべた2人の暗殺者だった。


「そうなのですか!?」

「はい。それで申し訳ないのですが、ペンダントが外せないので、外していただけませんか?」

「勿論です!…お前は警戒を頼む」


 上手くいった事に喜びつつ、ペンダントを外してくれるようにお願いする。


 お願いは聞き入れられ、ペンダントを外そうとしてくれる事になった暗殺者その1とその間の周囲の警戒をする事になった暗殺者その2の隙を伺う。


 2人には悪いがペンダントは既に壊してある。


「ペンダント、これですね」


 でも首には別の物を身に付けている。


 暗殺者その1がそれを見付けて手に取る。暗殺者その2は周囲の警戒ばかりで此方に意識を向けている様子はない。


「あれ?……これ、冒険し…………」


 そして、暗殺者その1がペンダントではなく、冒険者ギルドカードを見付けて気が緩んだと思った瞬間、ナイフを刺す。


「?どうかしましたか?」


 首を刺した暗殺者その1のナイフを捻って抜く。血液は傷口を水魔法で吹き出さないように抑え、体を風魔法で支える。


 物音は発てていない筈だが、異変を察知して振り向いた暗殺者その2に困った風を意識して声を出す。


「…それが、ペンダントの魔法が強いそうで…解くのに協力してくれませんか?」

「はぁ。わかりました」


 特に怪しまれず、暗殺者その2が近付いて来る。


「おい、魔法はどんなのだ?苦戦するなんてらしくないな」


 死んでいる暗殺者その1の隣に立って話し掛ける暗殺者その2。


「?集中しているのか?おーい」


 死者から返事が返ってくるわけもなく、暗殺者その2は返事が出来ない仲間に話し掛け続ける。


「おーい。…おい?本当にどうしたんだ?なぁ?」


 何度話し掛けても何も返って来ない状況に異変を感じて死体の肩に触れた暗殺者その2は手から伝わる感触に異常を悟り、私に背を向けて仲間の体を揺さぶる。


「おい!返事をしろ!おッ………」


 暗殺者その2の背後に立つ私はナイフを体に突き刺す。崩れ落ちた暗殺者その2は振り向くと、暗闇でも分かる驚愕に満ちた表情で私を見詰めた。


「なんッ、で……」


 反撃される前に、私を見るその瞳を刺す。


「ガァ!?」


 深く深く、突き刺し抉る。


 ビクビクと痙攣していた体が動かなくなるまで、念入りに刺してナイフを引き抜く。手を離すと暗殺者その2は力なく床に転がった。


 これでこの部屋にいる者は私と死体だけになった。暫くは安心だろう。


 血塗れになったナイフを捨てて、別のナイフを盗った私は魔力探知を使い人の魔力が近くにいない事を確認して、窓から飛び降りた。




「殿下の名に賭けて1人たりとも逃がすな!」

「クソッ!ここまで逃げて来れたっていうのに此所で捕まってたまるか!」


 外でも繰り広げられている戦闘を避けて、隠れて進んだ私は敷地の境界の塀の上に登る。


「堀か……」


 塀の上から見えた景色は堀だった。この屋敷をぐるッと囲っているのだろう。もしかしたらさっきの人達は橋を目指して、待ち伏せしていた騎士と戦闘になっていたのかもしれない。


 水の魔法は得意だ。距離は問題ない。飛び降りた後、落ち着いて魔法を使うだけだ。でもちょっと高い…。


「おい!ここに1人いるぞ!!」


 飛び降りるのを躊躇っている間に騎士の1人に見付かってしまった。


 ───────ドボン!!


 騎士に顔を見られる前に飛び降りる。


 着水の瞬間に水魔法を発動させて身体全体を覆って水に濡れないようにした。


「ッ!………」


 空気も含ませたから対岸に着くくらいまでは潜ったままでいられる。


 だが、水の中にいる私を炙り出そうと石や木が水中に次々と投げ入れられた。


(いたッ!これじゃ対岸に着けない)


 身体に当たる石や木で空気が漏れてしまった。


(…そっちがその気なら、全力で抵抗しよう)


 時間が経つにつれて増え続ける石や木に何度も当たる。水中を静かに進んで逃げるのは諦めて騎士をどうにかする事にした。


「水よ、水よ、魔力を糧に、増えよ、殖えよ」


 空気全てを詠唱に使うつもりで集中する。


「流れは一つ。強大な流れに逆らう事なく全ては終着に向かう」


 魔法と魔術は違う。


 魔法はキーワードとイメージが全てだ。キーワードとイメージが合っていれば、ある程度の威力が出せる。


 対して魔術は長い詠唱と術式で緻密に創られる。発動までに時間が掛かる分、詠唱と術式さえ合っていれば威力は魔法の数倍は出る。


 魔術に更に魔方陣を含めれば威力は数十倍に、魔術を短縮すれば魔法よりも高く、普通の魔術よりも早く撃てる。


「それでも変化を望む者よ、覚悟を糧に、命を天秤に、流れを創れ、終着を変えよ」


 魔術はお母さんに教えて貰った。魔術なんて使う機会は村ではなかったけれど、覚えて良かった。


「流れよ、思うままに、止まることなく、穏やかに、激しく」


 お母さんが魔術を教えてくれた時に繰り返し言っていた事があった。


『魔術は詠唱と術式、そして決まった魔力さえ流せばあとは勝手に発動されるのよ。だから少ない魔力を籠めたのなら弱く、多い魔力を籠めたのなら強く発動する。最後の言葉を言えば、自分の要領以上の魔術だったとしても止める事は自分を含めてほぼ出来なくなってしまう。だから籠める魔力には気を付けるように』


 だから魔術を使う時には多くて三割程度の魔力しか籠めた事がなかった。自分の要領以上の魔術は自分自身をも危険に晒すから。


「障害を潰し、流し、水は進む、水流は止まらない」


 私が使える魔術は詠唱と術式の一般的な魔術だけだ。それでも、今出来る全力で魔術を使おう。


 籠める魔力は八割。今の私の限界以上。


「【創水は流れ行くアクア デ フルーメン】」


 魔術を発動させた瞬間。周りの水が膨れ上がる。


 魔術の効果で増幅した水は、私の操作を受け付けず高く塀を越えて高い高い壁のようになった。


(…!!空気が…)


 眼下にいる騎士がザワザワとして逃げ始めた。


 騎士達が逃げる先に見えた橋へ、全力で水を向かわせる。


「~~~~~~!」


 水の中にいる私に騎士の声は聞こえない。


 屋敷の全てを押し潰すつもりで暴れる水を押さえつけて真っ直ぐ、強く押し出す。


「~~~~!?」


 水は高い壁のまま包み込むように屋敷へと迫っていった。


「ッはぁ!!…すぅーはぁーー」


 細かい操作は不可能なのでここで水の外に出た私は地面に落ちて痛む体よりも、まず息を吸った。


「はぁはぁ、っよし逃げよう」


 体は痛いし、魔力切れ寸前でフラフラ。折角水に濡れないように水魔法で守ったのに魔術で切って、更に落ちて泥まみれになったし、散々だ。


 それでも息を整えて歩き出した私は、水位が減った事で出現した堀の水路を見付けて逃げた。





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