第11話 どこへ行く?




「…………エルがいて、助けてくれたんだ」

「そうだったんだ…」


 ケイシーがパーティーに追放されて、私に出会うまでの話を聴いた。

 その話はとても酷いもので、私を見て微笑んでくれたケイシーになんて言えばいいのか正解がわからず、一言の先がでなかった。


 話が終わり休むケイシーと、何を言えばいいのかわからないエルの間で沈黙が流れる。


「…あっ、あの。その、パーティーからの追放は凄く、もの凄く辛かったけど追放されたお陰でエルに逢えたから悪い事ばかりじゃなかったというか、なんというか…うん。ありがとう。あの時、助けてくれて」


 その気まずい空気に耐えられなかったのか、それとも最後の言葉を言いたかっただけなのか、はにかんだ笑顔で言ったケイシーに私も伝える。


「…こちらこそありがとう。もしも今、1人でいたら私はどうすればいいのかわからなくて、こうして冷静に話なんてできなかったかもしれない。私もケイシーに助けられたよ」

「えへへ、そうなのなら嬉しい!」


 勇気を出してくれたケイシーの話を聞いて、覚悟を決めた。昨日今日の関係だけど、追い掛けて手を握ってくれたケイシーならきっと、大丈夫だから。


「・・・それじゃあ、私がここに来るまでの話をするね」

「ッ!は、はい!よろしくお願いいたしますッ!」

「そんなにかしこまって聞く話じゃないから、リラックスして聞いてね?私が暮らしていた村にお、ある貴族が来てね…………」


 ガチガチに緊張しているケイシーにこれまでの話を所々誤魔化して話す。


 貴族の子息に告白されたが、その貴族は女好きでそれが嫌で逃げたした。

 簡単に纏めればそんな話をした。


 話の間ケイシーは、口をあんぐりと開けて驚いていたり、眉を潜めたりと表情をコロコロ変えて聞いていた。


「そ、そんな事が……。大変だったんだね。それじゃあさっき走り出したのはその女好きの貴族がいたから?」

「いや。その貴族はいなかったんだけど部下っぽい人がいて…」

「そうなんだ。み、見つかったら危ないだろうし、街には戻らない方が良さそうだね」


 これまでを語る上で第3王子に多大な風評被害が出てしまったが、個人的には女好きよりも怖い性格だったのは間違いないし、知ってるのは今のところケイシー1人だけなので気にしなくていいだろう。


 そんな事よりケイシーが、笑わず、バカにせず真面目に考えてくれているのがとても嬉しい。


「今日はここで野宿かな。荷物は全部持っているし。ケイシーは宿屋に行ってて大丈夫だよ」

「イヤ!そ、それはわたしがイヤ!一緒に野宿しよ~。それで、焚き火の前で他愛のない話をしようよ!」

「…いいよ」

「やったー!荷物は全部持ってきてるし、休む場所、さ、探そう!」


 森をしばらく歩いたところにある岩の真下で野宿をする事にした。魔物避けの薬を周囲に撒いて夜ご飯を食べた私たちは、あとは眠るだけなのだが、2人して過去の特にデリケートな話をしたこともあり、眠気が中々来ない。


「ねぇ。ケイシー、相談したい事があるんだけどいいかな?」

「も、もちろん!なんでも訊いて!」

「ルフメーヌから離れようと思っているけど、じゃあどこの街に行けばいいのか、っていうのが分からなくって、ケイシーはいい街知らない?」


 ぼんやりと火を見ていたが、沈黙が気になって取り敢えず明日の行き先を決めようとケイシーに訊く。


「いい街かぁ。・・・ルフメーヌの近くに迷宮都市があるよ。あと少し遠くなるけど北西にルフメーヌみたいな大きめの街もあるし、あとは……」


 ケイシーは情報を思い出しているのか空を見ながら1つの質問で10以上の候補を上げる。


 ルフメーヌから近い場所から遠い場所まで、国内外の候補を上げてくれたケイシーと話し合い候補を絞っていく。


「…国外だと近いのは南にあるマイネン王国と西にあるアグフィーリ王国かな。マイネン王国は鉱石が豊富に採れる鉱山が多くて、鍛治職人とか細工職人とかが沢山いるんだって」

「へぇ、いい武器が手に入りそうだね」

「アグフィーリ王国は、農業大国で作物が豊富に採れるから食べ物が美味しくて、国内に迷宮が多くあるんだって」

「食べ物って大事だよね」


 話し合いになってきたのでパリパリに焼いたパンの上に溶かしチーズを乗せた物をおやつに作って語る。


「……そのどっちかならアグフィーリの方が良さそうだね」

「う、うん!アグフィーリは治安もいいし、冒険者も多いから安全だと思うよ」


 鍛治職人が造る武器は気になるけど、マイネン王国は治安の面では良い方ではないらしい。それなら安全性の高いアグフィーリ王国の方が良いだろうと決めた。

 次はどうやってアグフィーリに行くのかを話し合う。


「アグフィーリを目指して進む事になったけど、どこの街からアグフィーリに入る?」

「それなら近いのはダールヤック領にある国境の街マイックとか、ちょっと遠いけど迷宮都市が近いラッシェ領にある国境の街モンラから入るか、どっちかがいいと思う」


 説明系が多いからか饒舌なケイシーとこっちはどうだ、あっちはなんだと地図を見ながら考える。


 地図は冒険者ギルドで売っている簡易的で大まかな国境が書いてある物だ。現在地の場所がちょっと分かりにくいが、冒険者ギルドには現在地だけ書いてある地図が飾ってあるので、初めて行った土地に来たらまずその地図を見に行って持っている地図に記入する事が冒険者全員がするべき事らしい。やっている人は多くないらしいが。

 ケイシーの地図には国内外の沢山の街の名前と道らしき線が書いてあった。


「…でもやっぱり一旦別の街に行ってお金を貯めてから行った方が良いと、お、おもっ思うyo!」


 自分の意見になると途端に舌が回らなくなるケイシーの言葉に、広げた地図に視線を落としてお金を貯めるのに良さそうな街を探す。


「それならこの街とかがいいのかな?」

「こっちの街もオススメだよ!近くに魔物の多い森があって……」


 マイックの街からもモンラの街からも遠すぎない街というのは多くない。その上お金を貯めようと考えているので選択肢が狭まっている。


「中々いい感じの場所が見つからないね」

「そ、そうだね。あ、それならここにリュスペって街があるよ」


 地図とにらめっこしていたケイシーが、ある場所を見て思い出したように指を指す。今いるルフメーヌからも遠すぎない街で、国境からも離れすぎない場所のとても良さそうな場所にあるようだ。


「リュスペ?どんな街なの?」

「最初に上げた迷宮都市なんだけどね。近くに迷宮が2つある迷宮都市なんだよ。その迷宮を求めて各地から冒険者が来るんだ。雑多な街並みに美味しい屋台が並ぶ通り、武器とか防具も色々なお店があるからお金を稼ぐのにいい街だけど散財し過ぎないようにしないといけないかな」


 美味しい屋台のところで表情をうっとりとさせたケイシーは、食べたい物を思い出しているのか涎を垂らしかけている。


 迷宮の話は知っている。『ある一定範囲内に魔物が多く出現する場所』が迷宮ダンジョンと呼ばれる。原理は未だに不明だが、ダンジョンによって出現する魔物の違いこそあるがダンジョンからは魔物が際限なく出現する。ダンジョンに魔物が一体もいなくなる事はほとんどないらしい。


 ……と知っているだけで行った事はない。でもケイシーも楽しみにしてるし、きっと大丈夫だろう。


「じゃあ目的地は迷宮都市リュスペ、にしよっか」

「わぁ!うん、楽しみだなぁ。うへ~」

「私もケイシーがそんなになる食べ物が楽しみだよ」


 やっと行き先が決まったが、もう真夜中になっていたので私たちは慌てて眠った。




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