第7話 冒険者登録
森の中、1体か2体だけのゴブリンを狙って倒しながら、なるべく速く歩いて行く。
容姿をどう変えるかについて何とか思い出せて試したり、魔法をより上手く使えるように訓練もした。
そうしてオスタンから歩いて数日。私はルフメーヌに着いた。
「フードを取ってくれますか?」
ルフメーヌに入ろうと荷物の検査をして、無事に終わったと思ったら、兵士にそう言われる。
「犯罪者が入り込まないように、1回だけ顔を見せて欲しいんですよ」
「‥‥‥そうですか」
『此処に来る皆さんに言っているんです』とニコニコして言う兵士に、緊張しながらフードを取る。
「…ありがとうございます。通って頂いて構いませんよ。ルフメーヌへようこそ!」
兵士は私の顔を見たが黒髪に青い眼をしている私を何も言わずに通してくれた。安堵の息を吐いてフードを被り直し、兵士の前を通り過ぎる。
どうして私が黒髪なのか、それはある魔法を使ったからだった。
昔、村人の1人が『面白い魔法を見せるよ』と言って青色の髪を黒や水色に変えていた。後から訊くと闇魔法と光魔法の応用でちょっとコツがいるが、覚えれば誰でも出来るらしく、村でしばらく髪色を変える遊びをする子供ばっかりになった。
それを思い出した私は久しぶりに髪色を変えてみた。闇魔法で暗い色にするか、光魔法で明るい色にするかのどちらかしか出来ないし、髪色を変え続けるのにずっと集中していなきゃいけないから、もって数十分だけれど今回は役にたった。
実際、フードの下の私の髪の毛はもう黒髪から茶髪に戻っているだろう。得意属性である光魔法の真逆の闇魔法を使った所為で魔力の消費が多い。それに集中力が切れるとすぐに解けてしまう繊細な魔法なのだ。魔術になったらもっと色んな色に、長い時間出来るのだろうか。
「【ダーク】」
だが、出来ない事を考えても仕方ない。魔力消費の少ない影を濃くする魔法でフードの影を濃くして、冒険者ギルドを目指す。
石畳の道の左右に2階から3階建ての新しいカラフルな壁の色の建物と古い建物が混ざる大きな通りを歩く。
そして、交差する剣と杖、その後ろに盾が描かれた看板が目印の冒険者ギルドに着いた。
「その時、俺が魔物に【戦技】を使い凶暴な魔物を倒したんだぜ!」
「この話、酒に酔うたびにしているよな?」
「たしかに!毎回聞いているな!」
「ハハハッ!」
「なぁ、一緒にパーティーを組まないか?オレと組めば〈灰色の不死鳥〉入りだって夢じゃないぜ!」
「あの〈灰色の不死鳥〉に入る?トップクランの1つだぞ無理に決まってるだろう」
「そんなこと言わずに!」
分厚くて重い扉を開けると併設された酒場で騒ぐ冒険者の声が聞こえた。初めて踏み入れた場所にドキドキしながらも冒険者の対応をしている受付に歩いて行く。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご用件はなんでしょうか?」
「登録に来ました」
「はい。…では、こちらの紙に名前、年齢、出身地、魔法適性をお書き下さい。手数料は100ゼタです。ご質問があれば遠慮なく訊いて下さいね。文字は読めますか?」
「はい。読めます。あ、出身地は村の名前とか詳しく書いた方が良いんですか?」
「国と住んでいた町や村の領地名までで大丈夫ですよ」
「そうですか。ありがとうございます」
テキパキと慣れた感じで女性が対応する。騒がしいこの冒険者ギルド内でも聞き取りやすく、それでいて煩くない声量で、聞き返したいと思う事もなく、私は渡された紙に書いていった。
「はい。お名前はエル、年は15、出身地はヴォヌレ王国オスタン子爵領、魔法適性は水、光ですね。お間違いありませんか?」
「はい。大丈夫です」
「では、手数料の100ゼタもお受け取りいたしましたので、少々お待ち下さい」
手数料を払い、書いた内容の確認をすると受付の女性は紙を持って奥に行った。少しして帰ってくると小さな板をカウンターに置き、説明を始めた。
「お待たせいたしました。こちらが冒険者ギルドのカードです。身分証になりますので身に付けておいて下さい。それと冒険者ギルドでの受付の際にも使いますので、冒険者ギルドにお立ち寄りの際には持って来て下さい。
冒険者ギルドにはランクがあります。討伐数、冒険者の行動から総合的に判断されたもので、登録したばかりの方はEランクからのスタートになります。あちらにある依頼表が貼られている掲示板の依頼を受けていくと、D、C、B、Aランク、1番上のSランクと上昇していきます」
受付の女性の説明によると、E、D、Cランク、一部のBランクは掲示板だが、B、A、Sランクは2階にある依頼書が纏められた物を見て依頼を受ける。推奨受注ランクは自分のランクの1つ上まで、私は今EランクなのでDランクの依頼までだ。
掲示板の依頼書は達成したものをはがして受付に持って行き、冒険者ギルドカードと持ってきた依頼書を達成した証拠を出して達成となる。
1つ1つ、説明される事を聞いて覚えていく。
「…これで説明は終わりになります。何かご質問はありますか?」
「いえ、無いです」
「そうですか。では、ありがとうございました」
「はい。説明していただきありがとうございました」
説明が終わり、受付の女性にお礼を言って依頼表が貼ってある掲示板の方に歩いて行く。
C[ボアの仕入れ依頼。肉を買い取ります]
D[ゴブリン討伐!場所は~]
E[下水道の清掃。下水道を綺麗に掃除して下さい。下水道にいるラットは皮5枚で30ゼタ、魔石3つで45ゼタで買い取り]
E[食事所『骨すら残すな』の皿洗い!
1日、10ゼタ]
[常駐納品依頼 魔物 ゴブリンの角5つ30ゼタ、魔石が3つ60ゼタ、骨が1㎏8ゼタ、ウサギの皮3枚21ゼタ、肉が1羽分5ゼタ、1つ達成でも可 剥がしたらコロス!]
依頼の適正ランクが分かりやすいように、色の違うインクでランクが書いてある。
しばらく眺めてゴブリンの納品依頼とウサギの皮の納品依頼があり、達成出来ているようなので注意書きの通り剥がさず受付に戻った。
「あの、常駐納品依頼が達成出来ているみたいなんですが」
「はい。…ゴブリンの角5つが2回と魔石3つが1回と2つ、それとウサギの皮3枚の常駐納品依頼ですね。…合計、181ゼタです」
「はい、ありがとうございます」
全部で181ゼタになったことに嬉しくなる。頑張ってゴブリンを倒した甲斐があった。
冒険者ギルドを出た私は街を歩いていたが、ある店の前で止まった。
穂先が三又に別れた槍、三日月のように刃が反っている双剣、とても持てそうにない大きさの斧。
そんな武器が並ぶ武器屋の中……を外から見詰める。
武器が欲しいとは思う。今使っているナイフではいずれ刃こぼれしてしまうし、せっかく出来るのだから弓矢も欲しい。だが、見える武器の値段は、125,000ゼタ、263,000ゼタ、199,000ゼタ、と高い。それはもう高い。街に住む四人家族が1ヶ月暮らすのに掛かるお金が30,000ゼタと言われているのだから、武器の高さがよく分かると言うものだ。
見に行きはしたが、あの値段は到底届きそうにない。少し肩を落として武器屋の前から離れた。
「今は無理だけど、武器を新しくする事を目標にしよう。そうしよう」
新しく回復ポーションと魔力ポーションを買い、街の外に出た私は沈んだ心を盛り上げる為に、言葉に出してから森の中に足を踏み入れる。
「ギャギャ!」
1体のゴブリンが目の前に現れた。
ナイフを構え、相手が攻撃をする前に走り出し、ナイフをゴブリンの首に刺して倒す。
倒したゴブリンが息絶えているのを確認してから解体を始めた。
「・・・このゴブリンに魔石は無し。骨を持って行こうか?でも、解体は大変だしあまり高く買い取ってもらえないし‥‥‥」
ウサギを食べて、薬草も採取しながら歩いていた所為でもう帰った方が良さそうな時間になってしまった。今日はどこで休もうか。宿か野営か。
いや、宿に止まるのはちょっと、どうしようか。騎士が急に来たら髪色を変える魔法も上手く使えないだろうし、でも街の外で野営するのも...。
「キ、キャァァーーー!!!」
「ッ!誰かの叫び声!?」
骨を取り出すのは止めて解体を終えたゴブリンを燃やしながら考えていると、どこからか叫び声が聞こえた。驚いて立ち上がり、声の聞こえた方向を見る。
ガサッ、ガサガサッ
茂みの音がだんだんと近付いて来る。その音に紛れて複数のゴブリンの鳴き声も聞こえた。すぐ近くの茂みが揺れる。
ナイフを構え、警戒を強める。その茂みから出て来るのは逃げている者か、ゴブリンか。
ガサッ!
逃げるべきか、助けるべきか、敵がゴブリン数体だけならばなんとかなる?
「ワァ!?に、逃げてくださーい!」
そう迷っていたら大きく揺れた茂みから女性が出てきた。
「ひぃ!?」
「…あ。ごめん」
何分警戒していたので、咄嗟にその女性にナイフを向けてしまい女性は怖がって震えてしまった。
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