【ダンジョン配信中!】凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜最弱の凡人、ダンジョン配信をしてたらソロ攻略方法がヤバすぎると話題に、地上では顔が良いけど湿度の高い美人達との修羅場ラブコメでバズる〜
しば犬部隊
第1話 配信準備
「ハバネロボールに閃光手榴弾、救難信号クラッカーに、イモータルの希釈注射、ホルダーに入れるモンはこれくらいか?」
真っ赤なカラーボール。
黄色いペイントの施されたパイナップル型手榴弾。
クラッカー。
青白く光る液体の入った針のない注射器。
「あ、えーと、見えてるか? これが探索者の基本装備。探索者ベルト。必要な道具とかをここに収納して使い回します。これ、結構高いんです」
味山が、机に立てかけているスマホ型端末のカメラに向かって呟く。
探索者組合が、一般人向けの広報として最近端末に追加した"配信機能"だ。
ピポン。
端末から電子音が鳴り響いて。
《知ってる》
《お、凡人野郎のクソ動画が始まった》
《アレタ・アシュフィールド写して》
《絵にならない男》
《アレフチームの飲み会動画また撮って》
《はよダンジョン行け》
《貴崎凛と同じチームだったってマ?》
《小指ぶつけろ》
《勉強になります。これ、お気持ちですが¥30000-》
《出た! ベルベルだ!》
《凡人野郎をヒモにするのが目的の変態だ!》
《息をするような高額ハイチャ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね》
《孫に課金する婆ちゃんみたいに金渡すな》
「クソ……ロクな視聴者いねえな……、あ、ベルベルさん、またハイパーチャットくれてる……嘘だろ、3万円って……マジかよ」
《ちゃんとお礼言え》
「あ、確かに。ベルベルさん、ありがとうございます。いつも助かります」
《御礼助かります ¥50000ー》
《草》
《なんだ、こいつ……》
《本物やんけ……》
《はよ、ダンジョン行け》
「うお、金銭感覚が壊れる……ありがとうございます、じゃあ、準備の配信はこの辺で。次はダンジョンで配信また始めるので2時間後にはまた再開します、是非ご覧ください」
《おう、気をつけて》
《楽しみにしてるぞ、凡人野郎》
《小指には気をつけろよ、凡人野郎》
《星クズ、死ぬな》
《アレタ・アシュフィールド写して》
《飲み会配信希望》
《ライフ・フィールド実況して》
《このあとすぐ一緒に映るから少し待っててね ¥100000ー》
《《《《!!??!?!?》》》》》
「は……?」
突如現れた高額ハイパーチャット。
そのアカウントに味山と視聴者両方がフリーズする。
《……マウントのつもりですか? 品性が感じられないのでやめてください、ここは紳士と淑女の社交場である"味山ちゃんねる"です》
《自治厨って言葉は果たしてきちんと翻訳されてるかしら?》
《気取ってマウント取ってくる貴女のような人がいなければこんなマネするつもりはありません。身内でもないのに図々しいです》
《あら、面白い言い草ね。今、タダヒトとチームを組んでるのは誰かしら?》
《草》
《大草原地帯》
《え? これ、ベルベルと言い争ってるアカ、名前が、Aleta Ashfieldって……》
《いやいやいや、なりきりだろ笑》
《もし本人だとしたら何してんねんすぎるだろ。世界一有名な探索者だぞ笑笑》
《この前、映画にも出てたよな。バチクソ美人だったわ》
《昨日の雑誌で、ダンジョン配信動画見るの趣味って……》
《リージョンコード、アメリカなんじゃが……》
《まあ、バベル島だからほら、国際色豊かだろ》
《切り抜き#》
《切り抜き#》
《切り抜き#》
「やべ」
動画のコメント音声が加熱し始める。
味山が、反射的に端末の配信機能をオフにした。
「……何してんだ、アイツは……」
あやうく地獄絵図になりそうだったところを間一髪防ぐ。
味山はそのままベルトの装着を続ける。
少し前に使っていたナップザックより荷物の数は減るが、探索の小回りはよく効くだろう。
「えーと、今回の獲物は…… 怪物種25号、アルゲンタヴィス…… ゲ、"大鷲"かよ。遠目からしか見たことないぞ」
自室の椅子に腰掛け、スマホ型の探索者端末をながめる。
今回のターゲットに関する情報をボーと眺める。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
*怪物種25号 アルゲンタヴィス 通称、大鷲。生息地 第1階層
*体長14メートル、体高5メートル。体重不明。ただし翼を広げた際はこの限りではない。
*食性 肉食。主に灰オオトカゲを好んで食す。個体によっては灰ゴブリンの住処を襲い、幼体を攫う事もある。また1階層の要注意怪物種であるハイイロヘビとは生態系の頂点を争うライバル関係にある。
*細かな生態は不明。地上における鳥類、鷲と姿が酷似していることから卵生であるとの見方が強い。
*急降下し、その強靭な爪で獲物を掴む。知能が高く高高度から獲物を落として、落下死を狙ってくる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「えーと、怪物種25号は体長14メートル、体高5メートルで、軍用のヘリコプターとほぼ変わらないサイズである…… うわ、アレあんなにでかいのか…… ハバネロボール5つで足りるか?」
机の透明なケースを開き真っ赤なカラーボールをあともう1つだけベルトに装着した。
「斧が高かったからなー。節約しておきたいが…… 死んだら元も子もないしなー。んー、経費で落ちるか?」
TIPS€ 大鷲の羽毛は柔軟だ。翼への並大抵の斬撃は通らない
不意に聞こえた空耳、この部屋には味山以外誰もいない。
配信機能はすでに切っている。
つまり、この声はコメント音声ではないのだ。
それなのに耳元へささやきが伝わる。
味山にだけ聴こえるその声を聞き流す。
「なるほど…… もし接近戦になれば足狙いか」
男がぼやきながら端末の画面を眺め続けた。
ピロン。
軽快な音ともに画面の上にメッセージインフォが流れた。
【タダヒトー! 準備できた? あ、それと配信お疲れ様。探索の時も宜しくね】
猫が時計を眺めているスタンプと共に流れてきたメッセージ。
味山は端末の時計を確認して。
「そろそろ行くか。……コイツ、ほんと自由だな」
呑気な上司からのメッセージを流し見。
刃にカバーを付けた手斧をホルスターに引っ掛ける。
玄関においてある軍の横流し市で購入した探索ブーツに履き替え、端末をパーカーのポケットにしまい込む。
ブーブー。返信をしていないせいかさっきから着信の通知が止まらない。
「おっと、ハニーバー!! 忘れるところだった!」
ブーツを履いたまま室内に戻り、箱買いしていた好物の菓子を適当につまみ、ベルトの空きホルダーに放り込む。
ドアを開く。
澄んだ青い空はどこまでも続く。
青の向こうから涼やかな風が吹き渡る。
「もう、秋か」
一瞬、のどかな光景に足を止めた。
最近見る悪夢のせいで微妙に寝足りないが、それ以外は問題ない。
「よし、がんばろ」
味山はニホン人街の石畳を駆ける。
味山は気づかない。
先程のちょっとしたコメントのやり取り。
あれのせいで、動画のチャンネルの登録者数が、とんでもない数になりつつあるのを。
数多のまとめサイトが今、祭りになりつつあった。
【悲報】凡人探索者さん、配信中にマウント合戦が始まる【高額ハイチャ常連は、本物の英雄と最速の上級探索者か?】
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