第13話 ソロ探索配信 その1
「こちら味山只人。申請していた単独探索、及び探索配信を始めます」
端末を耳に当て味山が通信を開始する。コール音の後、オペレーターからの返答が届いた。
「はい。こちらはサポートセンター、単独探索の申請を照合致します。……確認出来ました。味山様。尖塔の岩地での自由探索、及び探索配信の許可が出ています、良い探索を」
「どうも」
味山は足元のかさついた砂を撫でる。
辺りにそびえ立つ塔のような岩を眺めた後、歩き始めた。
《お、始まってる》
《探索配信だ》
《昨日やるって言ってた奴じゃん》
《ソロ探索は久しぶりか?》
《いや、わりと味山只人単身で探索配信してるよ。チームの配信の時と再生数全然違うけど》
《コンテンツとしてコイツ単体じゃ弱すぎるでしょwww》
《今日は同じ時間にキハラノゾミも配信してるしなw》
《え……じゃあお前らはなんでこの配信見てんの?》
《……》
《……》
「さて、端末によると怪物種の活動は今のところないか」
味山が荒地を進む、視界を上げる。
尖塔の岩地の代表的な怪物種である大鷲の気配は感じられない。
ベルトのホルダーには小型のツルハシが備えられている。
「えっと、ミツミネ草は確か、尖塔岩に生えてるんだよな……行きますか」
今回の探索の目標は採取。
基本的には怪物との戦闘はなしだ。
《なんか緊張感あるな》
《わかる、ダンジョンの映像見てるとドキドキしてくる》
《コイツ1人だとぽっくり死にそうだしな》
《同接少ねえな。50くらいだ》
《まあ、野郎1人の配信だとなあ》
《キハラノゾミも同じ地区で配信してるや》
味山は辺りを注意深く観察しながら、でこぼこの土地を歩き続ける。
1人での探索は複数での探索と勝手がまるで違う。
どこから現れるか分からない怪物種の影に怯え、それでいて歩みは止めない。
相反する感情を、ぶつけ合いながら味山は荒地を進む。
キイイイン。
耳鳴り。
まただ、アレが始まる。コントロールが出来ない。
TIPS€ 人間の死骸
「おっと。視聴者の皆様、多分これからショッキングな映像が出るぞ。心臓弱い奴は見るのやめてくれ」
《あん?》
《なんだなんだ》
《何言ってんだコイツ》
《いやでもコイツがこんな事言う時って……》
味山はゆっくりとその場にしゃがみこみ首を振る。
TIPS€ 右だ。
大岩が転がるそのたもと、地面がわずかに盛り上がっていた。
しゃがみこみ、地面を触る。
手袋が湿っている。
土をつまみ嗅いでみると酸っぱい匂いが。
「臭え…… この臭いは、怪物種のマーキングだ。この辺が狩場になったのか?」
《うわ、汚ねえ》
《いや、これ立派なトラッキングだろ》
《なんそれ》
《怪物種の痕跡を追いかける手法だよ。軍隊とかハンターとかがやってる事を探索者もしてるんだ》
匂いを嗅いた途端、再び耳鳴りとともにダンジョンのヒントが聞こえる。
TIPS€ 怪物種12号、アレチ猿の尿 人間の骨 人間の髪
土に埋もれたものの詳細を耳が伝える。
「アレチ猿か…… 」
《アレチ猿……?》
《まさか匂いだけでわかるのか?》
《いやいやいやいや! 怪物種の種類までわかるわけねえよ! 普通調査のための機械とか使ってるぞ》
《コイツまた適当な事を……》
《あれ、でも、今組合の怪物種の出現日報見たらアレチ猿による食害、今週多めだな》
《じゃ、味山只人もそれみてたんだろ?》
《うわ、これ、探索者の死亡情報も載ってるのか……こういう規制ほんと最近緩くなってきたよな》
《あれ、コイツ、何してんだ?》
味山は盛り上がった土を腰にぶら下げたピッケルで掘り返す。
すぐに硬い何かを掘り当てた。
茶色に染まり、しかし白っぽいかけら。
人骨だ。身体のどこかの部位。土を掘り返し続けるとそのかけらがいくつも出てくる。
《うわ!! ほんもの!?》
《骨かー、なんかそりゃそうなんだろうけど、映像でも結構キツイな》
《儲かる代わりに死にやすい仕事だもんな、探索者》
《探索者志望の高校生です、勉強させてもらいます》
《マジでやめとけ、親泣くぞ》
《ほんと探索者志望の子供にはきちんと現実見せておいてほしい》
《ならこの動画はぴったりだろ》
「……ここで食われたか。バラバラにされながら啄ばまれたみたいだ。大きい骨がないことを見ると大部分は巣に連れ去られたな、こりゃ」
《凄えコイツ全然動じねえ》
《探索者って皆こうなのか?》
《これは味山只人が元から少しおかしい》
《死に際まで予想してるのはなんなんだよ》
端末や資料館で知った怪物種の知識と現状を符号していく。
ここはすでに、怪物の狩場だ。
まだ恐らく組合も把握出来ていない。
「……妙だ。狩場になるにしては自衛軍の巡回ルートに近すぎる。それに乗り合いバスだってそんなに遠くはない」
味山はその場から立ち上がり考えを巡らせる。今のところ周囲に怪物はいない。
「まあ、何はともあれお疲れ様。南無阿弥陀仏」
味山が合掌し念仏を唱える。
これがどれだけ意味のある行動かは分からないがそれでも何もしないよりはマシだろう。
遺骨のカケラを一箇所に集め、怪物のマーキングポイントから離れた場所に埋める。
あまりにも不憫だ。
死してなお怪物の縄張りを示すための目印にされるなんて。
「予定が狂うな。のんびり探索とはいかんなこりゃ。場所変えるか?」
味山が首をひねったその時ーー。
TIPS€ 付近の尖塔岩にミツミネ草が生えている。
「……行きたくねえ」
最悪のタイミングで舞い込んだ良い知らせ。
味山にだけ聞こえるダンジョン攻略のヒントは決して味山を助ける為のものではない。
それはまるで現代ダンジョンの危険へと誘うような。
しかし決して嘘はない。
この耳が拾うヒントが味山を裏切った事はなかった。少なくともこの1ヶ月は。
「……虎穴に入らずんば、なんとやら。嫌な言葉を考えたもんだ」
味山は端末を起動し、近くのセーフルームを確認する。
ここから1キロほど歩いたところに空いているセーフルームがある。
「セーフルームもあるし、行くか」
味山が耳のささやきに従い荒地を進む。
ベルトからスペアの手斧を取り出した。
人は欲望のためなら危険を顧みない。
味山 只人はよくも悪くもどこまでも人だった。
TIPS€ 近くに怪物種がいるぞ
「……うわ」
咄嗟に味山が岩の物陰に身を隠す。
背筋がざわつく。
いた。
目の前にはまた高い塔のような自然物、尖塔岩がそびえ立つ。
その周りに茶色の毛皮を持つ影が、複数。
怪物種がそこにいた。
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