【ダンジョン配信中!】凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜最弱の凡人、ダンジョン配信をしてたらソロ攻略方法がヤバすぎると話題に、地上では顔が良いけど湿度の高い美人達との修羅場ラブコメでバズる〜
第16話 セーフハウス・オブ・リベンジホラー その2
第16話 セーフハウス・オブ・リベンジホラー その2
小学生の時、兄さんが死んだ。
世界で1番かっこよくて、世界で1番優しかった兄さん。
川で溺れた私は兄さんに助けられて岸までたどり着いた。
振り返った時にはもう、誰もいなかった。
兄さん、兄さん。
死体すら、見つからなかった兄さん。
なんで、貴方は――。
《ノゾミちゃん! 逃げて!》
《なんだ、なんだよ、この化け物!》
《絶対やばいって!》
「歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯歯!!」
目の前で化け物が笑ってる。
歯、だ。
二足歩行のトカゲ。
体に鱗の代わりにびっしりと白い歯が敷き詰められて。
「ビア……ビオ……」
その化け物が踏みつけているのはまた別の化け物。
怪物種41号・大鷲。
その巨大な翼は折れ、嘴は砕け、身体中から青い血を流す。
「びょお、ビャュョオオオオオオオオオオ!!」
首の辺りを踏みつけられ、仰向けに倒れている大鷲がいなないて。
「歯?」
「ビャュッ!?」
ごき、ぱちゅ。
二足歩行のトカゲが大鷲の頭を踏み潰した。
青い血が、破裂して。
「歯歯歯歯歯」
目の代わりに臼歯みたいな歯が生える顔が、笑う。
なによ、そのデザイン、ふざけてるの?
「ひ、ひ……」
「や、だ……いやだ……」
私の背後には腰を抜かした新人の探索者。
今日の企画は新人探索者とのコラボ配信。
探索者になったばかりの元アスリートの女の子2人組。
探索ご飯を中心にした採取メインの動画の予定、だったのに。
「歯歯歯歯歯歯……!」
この化け物が、突然現れた。
空を飛ぶ大鷲に、尖塔岩の上から突然飛びついて、そのまま狩った。
尖塔の岩地に、こんな化け物いるなんて聞いた事がない。
《やばい、やばいって、マジで!》
《ほんとに逃げて》
《今、組合に通報しました》
《意味ねえよバカww、何人探索者がバベルの大穴で化け物に殺されて死んだと思ってんだよ》
《え、これ仕込みとかじゃない感じ?》
《探索配信に仕込みなんかねえよ! どうやって仕込みなんかするんだよ!?》
《え、ほんとに無理、お願い、逃げて》
《大鷲を狩る怪物種なんて、1階層にいるわけないのに……》
「落ち着いて……2人とも、絶対に大きな声を出さないこと」
「ひ、う……」
「は、は、はっ……わ、かり、ました」
2人はすでに恐慌状態、無理もない。
見た目ももちろんだけど、あの大鷲を殺す化け物だ。
普通の人間には絶対に勝てないモンスター。
何より、目の前にいるだけで膝が嗤い出すような威圧感。
脳みそが目の前の存在を必死に否定しているような感覚。
「歯歯歯」
どうする、どうする、私。
戦う?
あはは、無理だって、見たでしょうがよ、大鷲を真正面から狩り殺す化け物だっつの。普通に死んで終わるわ。
逃げる?
あはは、バカ言うなっての。一通り逃げたけど、追いつかれた。
それに私の背後で震える新人はもう限界だ。
怪物に追いかけられる恐怖に耐えれる探索者は少ない。
死んじゃうって、ここに置いていけば。
《やばい、もう逃げてもだめじゃん……》
《この怪物、ノゾミちゃんたちを追いかけつつ、大鷲を狩ってたよな……》
《舐めプしてるみたい》
「歯歯」
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
《うわ、まじかよ》
《これ、ほんとにやばいって》
《誰か、組合に電話しろよ》
《さっきやった奴いたけど、どうなったんだ?》
《だめだ……俺もかけてみたけど全然つながらない》
うっわ、最悪。
歯の化け物が目の前で、大鷲を喰らい始めた。
トカゲのような顔、口が大きく裂けて肉をかみちぎり、咀嚼する。
それが、完全に新人たちの心を折った。
「せ、せんぱい……私、腰抜けて……」
「のんさん、私、私たち、ここで食べられちゃう……の?」
震える声。
彼女たちの心が折れる音が聞こえた。
あー、よし、決めた。ここを生き延びれたら、この子たちは探索者やめさせよう、ぜったい。
「あはは、大丈夫、大丈夫だって。落ち着いて行動すれば、問題ないからさ」
私が守らなきゃ、私がやらなきゃ。
だって、こんなん、絶対嫌だ。
目の前で誰かが死ぬとかマジで無理だ。
ああ、川の音が聞こえる。
兄さん、お願い、私に勇気を。
戦うのもダメ。
逃げるのもダメ。
この状況から、この2人を帰還させる方法ってなんだ?
考えろ、考えろー私。
「歯歯、歯みがきシマスカ?……」
「ひっ、し、喋っ、た?」
「うそ、うそ、やだ、もうやだぁ……」
怪物の行動にいちいち怯えて震える新人たち。
どろり。
私の心の中に苛立ちと、それと暗い閃きが灯る。
あ、そうだ、この子達囮にしたら私だけは逃げれるな。
適当に腰の抜けた1人をぽんと放り出して、それでーー
――希。
川の音、砕けて流れて、心地いい。
兄さんの声がする。
「いやぁ、ないっしょ、あはは」
私には義務がある。
兄さんの命と引き換えにここまで生きてしまったのなら、私はその犠牲に見合う価値を証明しないといけない。
「2人とも、ちょっとごめんね」
「「えっ」」
腰のベルトに装備してた興奮剤、”喧嘩ヤドカリ”の素材から作ったその薬品は一時的に、人の脳に作用しアドレナリンを一気に分泌させる。
ぷしっ。
彼女たちの首にそっと無針の注射器を押し当てて。
「立てるよね、歩けるよね? 合図したら、背後めがけて全力ダッシュ、できるよね? 陸上選手だったんでしょ?」
「あ、う……」
「希さんは……?」
「あはは、それ聞く?」
私の言葉に新人ちゃんたちが泣き出しそうな顔を浮かべて。
「因果な商売よね、でもさ、よく考えれば私たちは自業自得な訳。好き好んでこんな危険な場所で働いてるんだもん。はたからみたらバッカよねーマジで」
ああ、口が勝手に動く。
歯の化け物が、身体中を青い血で染め上げたそいつもこっちを見てる。
「自分からダンジョンなんて危険な場所に行って、そこで死にかけて、ぴーちくぱーちく騒ぎ出す。あーやだやだ、短絡的な人間に同情するのもバカらしいっつの」
《ノゾミちゃん……?》
《おい、マジで誰か助けに来ないのか?》
《今、ほかの探索者の配信動画で助けてって言ってきたけど誰も信じてくれない!》
《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》
《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》
《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》
《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》《無理無理無理むリ、やめよはいはい。これごうせいだヨ、もう寝ましょウ》
《またこのコメント!! なんなんだよ! ふざけんなよ!》
《別の探索者の配信動画から来ました。けどなんだこれ、真っ暗じゃん、変なの》
《動画見れない、くっさ》
《なんだこれ、ブラックアウトしてんじゃん》
《動画が見れない……!?》
《どういうこと? こっちは見えてるのに》
《途中から配信を見始めた奴だけ動画が見えてないって事?》
《意味わかんねえよ!》
「あー、そういや配信中だった。ごめんね、リスナーの皆、なんか接続障害でさ、こっちからもうコメント見れないの。応援してくれてるのかな? それとももう飽きちゃった? あはは、ごめんね、多分もうこれで最期だから、言わせて?」
自律制御のドローンカメラに視線を合わせる。
あーあ、これがもうちょい高性能で航続距離長ければ救援に使えたりできるのになァ。
「今までありがと、皆が応援してくれて励ましてくれたからここまでこれたよ。私の配信動画はこれでおしまい。……今からする事はあまり見られたくないから、ごめんね」
《ノゾミちゃん?》
《何しようとしてるの?》
《待って、ほんとに》
《ほんとにやめて》
《逃げて》
「ここで死ぬ、命を賭けて」
すうーっと息を吸い込んで。
よし、兄さん。
貴方の救った命、最期まで使い切ってみせるから。
神様お願いします、どうか、どうか、最期のその時まで私にーー
「かっこつけさせてよおおおおおおお!!」
「!?」
「あっ!」
探索者組合正式採用対怪物種・殺傷兵器。
「ハープーンガン」
銛発射機。
私はそれを構えて。
「逃げろ!! 新人!! 走れ! 全力ダッシュ!!」
「っ、はい!!」
「はい!」
背後、逃げ出す2人。良いセンス、素質ないって言ったけど、逃げ足早いのはとてもいい事。
どんっ。
ぎゃりぎゃりがりり。
同時に私は引き金を引く。
銛が化け物めがけて発射される。
捨てがまる。命を。
囮は私。
2人を逃がす、生きて帰す。
今度は私が兄さんになる。
樹原勇気がそうしてくれたように。
樹原希もそうしなければいけない。
「ごめん、ルーナ、あんたの言う通りだった」
私、バカだった。
「歯歯ッ!」
「え」
かきん。
蠅を払うように、歯の化け物が手を振るう。
それだけで怪物の皮や鱗を砕くはずの銛が弾かれた。
あ、これ私、勘違いしてたかも。
囮にすらなれない……?
「歯磨きサセテ」
ぽんっと、こっちに向かって跳んでくる歯のトカゲ。
歯磨き、ああ、そういう事?
身体にびっしりと生えた歯が、目につく。
あ、よく見るとこの歯の化け物、首に何か巻いてる?
黒い管? 地面から生えてるし、きも。
あー、えっぐい死に方しそうだわ。
「きゃああああああああああああ!?」
「や、やだ、やだあああああああああああ」
「えっ?」
背後を振り向いて。
「もきゅ」
彼女たちがまた腰を抜かせて地面に転がっている。
青ざめた顔で見上げるのは
「ぱくきゅ」
盛り上がった地面から現れたモグラの怪物。
怪物種40号、パクパク落としモグラ。
前には、歯の化け物。
後ろには、背中に口が生えた巨大なモグラの化け物。
終わった。
いや、でも。
「かっこつけるって決め、うっ!?」
「歯歯ッ、歯ブラシにナっテヨ。歯垢トッテ、ネ? ネ?」
髪を掴まれた。
ぎゅるぎゅるぎゅる。
歯の化け物の体中の歯が回転してる。
化け物の食べかすがこびりついた歯が私に近づく。
「やだ……! 待っ、ヤダ! 嘘! こんなの、違う!」
せめて、あの子たちだけでも。
いやもう無理?
「きゃああああああああああああああああああああああああ」
「はひ、ひひひひひ、夢、こんなの夢だよ、ははははは」
新人たちがわめく。
私も、声が引きつる。
怪物のものすごい力が掴まれた髪から伝わって。
ああ、あああ、ああああ。
「くそ、離せ、放せって! 離してってば!!」
「歯歯ッ、固め歯ブラシ」
しぬ、死ぬ、死ぬ。
情けなく騒ぐ私を、歯の怪物は決して離さない。
ああ、ダメだった。
かっこもつけれない。私は。
《うわああ、もうほんとにやだ!!!》
《なんで誰も助けに切れくれないんだよ》
《おかしいだろ! なんでノゾミちゃんがこんな目に》
《ノゾミちゃんが死んじゃう》
《もう見てられない》
《え、待って、これマジで死ぬ?感じ》
《誰か! ノゾミちゃんを助けて!!》
「歯磨き、ジョウズカナ?」
「やだ、っ。やだ……! やだあああああああああああ……!! 死にたくない! 死にたくないよ! 兄さん! 兄さん……兄さん! 助けて、やだああ、やだよおおおおお」
ああ、探索者になんてならなければ良かっ――。
《別の動画から来ました。多分この人死なないですよ》
《別の動画から来ました。へえ、この日にソロ探索に出たらこうなるんですね》
《別の動画から来ました。こいつ、ほんとよく食われるな》
《あ、動画皆に見れるようにしておきますか》
《あれ? この動画急になんか動いてね?》
《おい! みんなこっちの動画にいた!! お! キハラノゾミの動画見れるようになってる!》
《ほんとだ! あ! あのモグラだ!! こんな所にきてる!》
《そっちの元動画の方はどんな感じ?》
《wwwwwwwwwwwwww、一寸法師大作戦とか言い出したwwwwww》
《wwwwwwwwwなんで、あいつ、wwww生きてんだよ》
《ああ、貴重なミスミネ草が……》
《あ、キハラノゾミリスナーの皆こんにちは。すみません、急に。そこのモグラを追いかけていろんな配信たどってここに来ました》
コメントがおかしい。
元からいたリスナーたちとは明らかに毛色の違うコメントが一気に。
《味山只人の配信動画から来ました、アンチです》
「……歯歯ッ」
「あ、じやま……?」
するり。
「え」
歯の化け物が、私の髪から手を離した。
そして。
「歯……?」
ぞわぞわ。
その身体中の歯が一斉に――。
「もきゅうううううううううう!? ぷきゅうううう!?」
巨大なモグラ。
新人ちゃんたちの前に現れたそいつが苦しみ始めた。
なんで?
《wwwやべえ、キハラノゾミの方だと怪物の反応が見れて面白いぞ》
《めちゃくちゃ苦しんどるwww》
《あーあ、拾ったもん食うから》
なに? なんなの、このコメント。
なんの、誰の話をして。
《あ、多分出るぞwww》
なにが?
そんな疑問が浮かんだ瞬間だった。
「もきゅうううううううううううううううヴヴヴヴェヴェヴェウオオオエエエエエエエエ!!!?」
ブシュオオオオオオオオオオオ。
モグラの怪物が吐いた。
背中を捩らせ、ジッパーのように開いた背中の口を大きく開いて。
黄色と緑の混じる汁が噴水のようにーー
えっ。
「ギャハハハハハハハハハハハぎゃーはははははははははは!!」
声が聞こえる。
なにこれ。
噴水のように噴き上がる吐瀉物の中から響くのは笑い声。
あはは。
なんでだろう、私にはその声が。全然似てないし、汚いし、下品だし。
耳を塞ぎたくなるその声が。
あはは。あははははは。
「ぎゃはは、ぎゃはははははは!」
兄さんの声にーー。
「いよっしゃああああああ!! 生還!! 今日の動画のタイトルが決まったぜ!! 怪物の腹から脱出してみた! バズるぜえええ、これはよおおおおお!」
ばしゃ、ばしゃ。
吐瀉物と共に流れてきた男が、笑いながら叫んだ。
あはは。
みんながそれを見てた。
私も。新人ちゃんたちも。
そして、歯の化け物も固まって。
「歯歯……耳」
あ。
私は気付く。
歯の化け物が、今一瞬。
震えていた。
【ダンジョン配信中!】凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜最弱の凡人、ダンジョン配信をしてたらソロ攻略方法がヤバすぎると話題に、地上では顔が良いけど湿度の高い美人達との修羅場ラブコメでバズる〜 しば犬部隊 @kurosiba
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