第11話 謁見

 本館の前の扉まで二人がたどり着くと一旦兵士に止められるが話は通っているのか怪しまれることはなくしばらく待つと中から家令が出てきて慇懃に挨拶をされた。


 トーマス・マーコリーと名乗った初老の家令がリスニに少し戸惑った視線を送るのを見て健太郎の方が先に答える。


「はじめまして、おれ、いえ、私は七星健太郎と申します。彼はひつじです」


「?」


「執事です。リスニと申します」リスニはにっこり笑いトーマスに会釈ながら健太郎の背中に回した右手を拳にしてグリグリした。


 執事と聞いて頷いたトーマスはまた軽く会釈をしてから「どうぞ、ご案内いたします」と二人を招き入れる。


 王城らしい豪華な装飾を施された広い玄関ホールは襲撃が起こったのが嘘のように静まり返って美しさを保っていた。襲われたのは王女が住んでいる居館に絞られていたようで賊は内部事情をよく知っている者だというのが想像できた。


「本来なら別室でお休みいただいてから国王陛下への謁見に臨んでいただきたいのですが何分急を要するので申し訳ありませんがこのまま謁見の間にご一緒していただきます」

 

「国王に会うのか?」 と、言葉を発した途端、健太郎はリスニに口を手で塞がれるとそのまま引きずられて廊下の脇に連れて行かれた。


「旦那、言葉遣いに気を付けて下さいよ、これから会う相手は国王陛下なんですから。それから御前では膝をついて挨拶するんでおいらのマネをしてください。いいですか、おいらたちは平民なんです」


 廊下の隅でヒソヒソと話し合いをする二人をトーマスは離れたところで素知らぬ顔で待っていてくれる。


 一通り作戦会議が終わると二人はトーマスのところにお待たせしましたと戻ってきてまた3人で長い廊下を歩いた。


 広い廊下の突き当りに大きな扉が見えると両脇に立っている騎士は健太郎の恰好を見てぎょっとするが家令が手をあげて抑えた。


「旦那、その恰好はやっぱまずかったかもです」ヒソヒソとリスニが耳元で言った。


「裸よりマシだろう」


「まぁ、首落とされたらつないであげますよ」


「できるのか」


「やったことないすけど」


「首を落とされないように頑張るよ」 と腰のトンファーにそっと触れる。


 横目でじっと見ていた騎士はそれに気づくとさっと近づいて「武器はお預かりします」と有無を言わさず腰から2本のトンファーを引き抜いた。


 両手をあげて抵抗もしない健太郎に黒髪の東洋人に見える騎士が「ご協力感謝します」と敬礼した。警察官のような態度に目を丸くしているとトーマスがにこやかに


「彼も転生者なんですよ」と健太郎の疑問に答えるように言った。


「えっ、そうなんですか」


「元警官であります」と騎士の姿で言われて流石の健太郎も驚いたようだった。


「あなたもトラックにひかれたんですか」


「赤信号で横断歩道を渡っている老人を助けようとしてトラックにはねられた模様です」


「それはまたベタ……、いえ、とてもいい話で感動しました。頑張って下さい」


「はい、ありがとうございます」


 二人はそれぞれにお辞儀をした。その場を離れた騎士は扉を開けてくれる。


「本来騎士になれるのは貴族出身と決まっていますが彼は持っているスキルが良かったので特別に取り立てられました。雑談はこの辺で。私はここまでですのでお二人でお進みください」とトーマスが扉の方へ手を向けた。


 頷いたあと健太郎は前を向き直り、開け放たれた扉の中をみて仰天した。

広々とした謁見の間には小説やアニメでよく見る貴族や聖職者だろう人たちがたくさん集まって両側に控えていたからだ。何やらざわついている。


「これは婚約破棄されるのかもしれないぞ」と健太郎が真顔で言った。


「えっ、突然何言いだすのこの人」とリスニが目を丸くする。


「こんなに貴族が集まっていたらそうなるだろう」


「いやいや、ないから。そもそも誰と誰の話しですか、おいらたちには関係ないっしょ」とリスニは笑いながらも心底呆れたように頭をかいた。


「それもそうだな」


「素直なところはいいんですけどね、旦那は」


 広間の真ん中にしかれた赤いカーペットの上を二人が進むにつれてザワザワとしていた観衆が静まり始めた。好意的な目もあれば敵対心むき出しの目もある。


 リスニは素早く目を走らせて殺気を出している者がいないか目と全身で感じとろうとしていた。


「ここにもいるな。やれやれ王女殿下狙いか国王陛下狙いか」


 一段高いところに座っている国王陛下の顔が分かるほどに近づくとコンスタンタンが「そこで待て」と横から声をかけてきた。


 言われたとおりに二人はそこで立ち止まり、リスニが膝をつこうとするのを「そのままでよい」と上から声がする。


 言われたとおりに立ったままで頭を下げると健太郎もリスニに習って同じように頭を下げた。


 



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