第12話 褒美

「余がジゼル王国、国王アレクサンドル・ラ・バシュナールである。立ったまま面を上げよ」


 一段上の高さにある背もたれの高い大きな椅子に中年の男が王様然とした出で立ちで頭に王冠をつけて座っていた。


 健太郎が頭を上げて国王を見上げると相手もじっと見据えてくる。金髪に深いエメラルドの目は鋭いが若い頃は相当な美男子だったのが想像できる面影を残していた。今は拉致や襲撃で目の下にクマができ焦燥しきっているように見える。

 

 しばしの沈黙のあと「我が第一王女のアンリエッタを助けてくれたそうじゃな、礼をいうぞ」と穏やかに話しかけてくる。


 返事をしていいものかどうか分からない健太郎はコンスタンタンに顔を向けどうしたらいいんだと無言で問いかけたのを察したのか国王の方へ視線を向けてお伺いを立てた。


「自由に発言してよい」とそれを受けた国王が言う。


「偶然居合わせて追われていたようなのでトラックに乗せた、それだけのことです。王女殿下にはすでにお礼の言葉をもらいました」健太郎の言葉にリスニは聞こえないくらいの舌うちをする。


「トラックとはなんじゃ?」と国王の目が興味に少し輝いた。


「トラックは、えーと、トラックです?」と健太郎のいつもながらの返事が終わらないうちにコンスタンタンが「石油で動く乗り物です」と横から説明をした。


「石油で動く乗り物」に反応したのか広間の貴族たちにさざ波のようにざわめきが広がる。ヒソヒソと話し出す者、羨望の眼差しを向ける者、様々だ。


「ああ、そなたも転生者だと聞いた。なににせよアンリエッタが助かったのはそなたのお陰じゃ、感謝する。褒美は宰相のコルネイユ公爵から受け取るように」


 広間の貴族の目が名指しされたコルネイユ公爵に集まると彼は釣り目をさらに吊り上げ「恐れながら先のアンリエッタ様の誘拐に続き今日の襲撃、さらにはエリアーヌ様が行方不明の今、褒美の件については先送りにしてもよいのではないかと」と異論を呈した。


「さらに申し上げにくいですが、この者の身なりは名前をいうのも憚れる輩、デスエンジェルスに似ております。もしや誘拐するふりをして助けたという自作自演かもしれません」


 コルネイユ公爵の話を聞いた貴族たちから同調する声があがる。話が上手すぎるだの服が似ているだのと喧々諤々になる。


 リスニと健太郎は成り行きを見守ったまま黙ってその場に立っていたが、コンスタンタンが見かねたように擁護した。


「差し出がましいですが、この者はデスエンジェルスの仲間ではありません。アンリエッタ様を輩から助けたのは間違いございません」


「貴殿はまんまと輩にアンリエッタ様を奪われておいて、得体の知れない者に助けてもらっただのと近衛騎士として恥ずかしくないのかね」


 痛い所を突かれたコンスタンタンはぐうの音も出ず黙り込む。


「お待ちください、コルネイユ公爵閣下。健太郎様はデスエンジェルスではありませんわ。本当に偶然の出会いでこれは女神の思し召しだったのです」


 広間へいつの間にか来ていたアンリエッタが前に進みでてコルネイユ公爵に向かって訴えた。


 健太郎はアンリエッタのいう事にうんうんと頷き「確かに女神の思し召しだったな」と呟いた。


「偶然ですか、なんて都合がいいんでしょうか。王女殿下に取り入って王国の懐に入るというのはよくある話ですよ」


 食い下がるコルネイユ公爵にリスニが眉間にしわを寄せじっと観察をし始める。しばらくして話を治めようと前にでたがアンリエッタの方が早かった。


「健太郎様は錬金術のスキルをお持ちなのですよ、そんな方があのような役目、言い方が悪いですが捨て駒のような扱いをされる訳がありませんわ」


 しまった、という顔をしたリスニだが王女殿下を叱り飛ばす事も出来るはずがないのだろう。一人頭を抱えこんだ。


 コルネイユ公爵はニヤリと笑って「それは素晴らしい」と目に鈍い光を灯らせた。







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