第6話 姉妹

 「して、その縛りプレイは誰としておったのじゃ?」


 トールが恐る恐る問いかけると耳まで赤くしたアンリエッタは両手で顔を覆いながら「妹のエリアーヌです」ふふふ、と小さく笑いながら答える。


「「いもうと」」 トールと健太郎の同時の返事は芸術点がつきそうなシンクロ具合であった。しかし気にならない様子のアンリエッタは続けて話す。


「はい、妹のエリアーヌは緊縛がとても上手できつく縛られても痛くなく跡も付かなくてそれは素晴らしいのです」


「「お、おう」」


「それを解くのはとても難しいのですがスルッと解けたときの快感が……、それなのにあの者たちは縛るのが下手ですし、痛くて跡が残りそうでしたのよ、嫌ですわね」


「そこなんだ」 天を仰ぐ健太郎。


「プククク、面白いではないかっ、気に入ったぞアンリエッタとやら」トールはアホ毛を揺らしてなおも興味深そうに身を乗り出す。


「そなたたち姉妹は仲が良いのじゃの、その、縛り合いごっこをしていつも遊んでおるのか?」


「緊縛は妹の趣味で、私は相手をしているうちに縄を抜けるのが趣味になってしまいまして、その、周りからはとても仲がいいと言われてますわ、うふふふ」


「周りが気の毒だな」と健太郎は呆れている。


「いや、そこはそれ、さぞかし固い紐、いや絆で結ばれておるのじゃろう」


「もう、紐でいいんじゃないか」


「お前は黙れ」 トールは言うなり持っていた焼き菓子を健太郎の口に押し込む。


 押し付けられても文句も言わずにモグモグと食べる健太郎だがそれをきっかけにあることを思い出したようだ。


「そういえば、何も食ってなかった、少し食べたら腹が減ってきたな」と言って目の前にあるお菓子やら小さなサンドイッチをバクバクと食べ始める。


 凄い勢いであっという間にテーブルの上の物がなくなるとタングがすかさずお盆やお皿を下げ新しく小ぶりで食べやすい形にしたアフタヌーンティーセットに変えた。


 そして健太郎の為に新たにダイニングテーブルを出し、その上に一流ホテルのビュッフェのような色とりどりの料理を並べ、これまたいろんな種類の飲み物も用意する。


 異世界に来る前に食べていたものよりも豪華な食事内容に健太郎は目を見張り喜びをそのまま態度で示すかのようにタングの両手を取って感謝した。


「タングさんっ!」 悲しいかな語彙は少ないので一言で終わるがタングには十分通じたようで、


「お気に召していただけたようで何よりです。あいにくヤギ肉はございませんが」


 と言い、ほほほほと愉快そうに笑った。 

 

「どうじゃタングは優秀じゃろう」 トールは健太郎に向かって言ったが大きな骨付き肉に挑んでいたので聞いていない。


「わしを無視するとはいい度胸じゃな。まぁいい、あやつにはこれからやってもらう事が出来たから今のうちに腹ごしらえしてもらわんとな」


 そう言ってトールは健太郎を見ながらタングを手招きし耳打ちをした。


 タングは頷いて結界の外に出たかと思うと自分の顎髭から3本ほど毛を抜いて空に飛ばす。空に舞った髭は白い鳩に姿を変え城の方に飛んでいった。 



 しばらくして健太郎がようやく食べ終えた頃にトールが改まって言う。


「いいかよく聞け。お前はアンリエッタを助けた事でこの件にすでに巻き込まれている。いや、正直に言うと転生した時点でわしはお前にある責務を負わせてしまっているのじゃ」


「おれに? 責務だと?」 満腹になった健太郎は腹を押さえながら聞き返す。


「そうじゃ、お前に錬金術のスキルを与えたじゃろう。この世界で最初に油田を見つけて精製したのが同じく錬金術のスキルを持った転生者でな、それは注目の的だった。

 一攫千金を狙ったものがその力を欲しがるのは無理もない話であろう?

 なので数の少ない錬金術のスキルを持ったものは国によって守られる。そんな中、ある国で守られていた転生者がいなくなった」


「いなくなった? 死んだのか?」 健太郎は眉根を寄せて目を暗く沈める。


「いや、それは分からない、他国に連れて行かれたという可能性は大いにあるが今はまだ調べている最中だ。そこで問題じゃ、お前がそのスキルを持っていると知られたらどうなると思うか?」


「それは狙われるだろうな……、えっ?」


「正解!」


「お前はまた面倒なことをしてくれたもんだ」


 思い切りしかめっ面をした健太郎にトールは舌を出して「テヘペロ」と言って自分の頭を自分の拳でたたいてみせた。


「おれがハンマーでたたき割りたい」 と恨めしそうに健太郎が言うと、


「まぁ一度は死んでるんじゃ、どうってことないだろう」とトール。


 言われてみればというような顔をした健太郎は「それもそうだな」と頷いた。



つづく



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