第4話 転生者たち
「不本意だが貴様、いや、健太郎殿にアンリエッタ様を頼みたい。引き受けてくれるだろうか」
馬に乗る前にコンスタンタンは真剣な顔で申し出る。
「分かった」と、健太郎は頷いた。
騎乗したコンスタンタンは健太郎の腕に抱かれるアンリエッタを心配そうに一瞥した後、「頼んだぞ」と念を押し兵士を従え砂埃を上げながら城に向かって疾駆した。
健太郎は去って行く一団をしばらく見送っていたが、アンリエッタを抱えなおすと
「引き受けると言っても結局おれも城の近くに行くしかないな、情報がまったくないし、この人を安全な場所に連れていかないと」 誰に言うともなく呟きながら健太郎はアンリエッタを助手席に乗せ楽な姿勢で横たえた。
「抱き枕を直して欲しいしのう?」トールが後ろから囁く。
「城が襲撃されたと言っていただろう、聞いてなかったか」運転席に回り込みながら健太郎はつっけんどんに言った。
「抱き枕の方が大事じゃろ?」 後ろについて回るトールがしつこく囁く。
「人として助けたいだけだ」
「サユリぃ」 女神が破れた抱き枕を抱えながら悲し気な声を出す。
「やめなさい」
子どもを叱るような口調でトールから抱き枕を引っ張ると勢いでビリッと傷口が広がって健太郎は目を剥いた。
「はぁ、早く直さないと」健太郎は破れ目が大きくなった抱き枕を悲しそうな目で見ながら運転席のドアを勢いよく閉め、イライラしながら「とにかく、今は身の安全が優先だ、タンタンに頼まれたからな。ところでお前はなんでそこに座っているんだ?」
健太郎が運転席に乗り込むとトールが気を失っているアンリエッタの横に座っていた。
「面白そうだからついて行ってやるぞ」トールはウキウキした声で足をぶらぶらさせている。
「ところでトールはどうやってここに来たんだ? どこにでも姿を現せるのか?」
「そうじゃぞ、トラックが動くとわしのアンテナが教えてくれる。このトラックがある場所にいつでも瞬間移動できるのじゃ。便利じゃろう」
トールは頭のアホ毛をゆらゆらさせる。健太郎がエンジンをかけるとアホ毛がピンと立った。
「ほらな」
「空間を移動できるのか? それはいいな」
「いや、今回は山羊に乗ってきた」
「山羊ってヤギ汁のヤギか?」
「なぜ食肉の方向なんだ?」
その時後ろの荷台から「メェ~~~~~」と鳴き声が聞こえた。
「聞こえてるのか?」
「地獄耳じゃぞ、しかも人語を解せるからな、人の姿の時は喋るぞ」
「そうか、気を付けよう」
一言だけ言って健太郎はハンドルを回して今しがたコンスタンタンが馬を走らせた方向にトラックを向けた。
「お前はほんとに驚かんな、まぁいいが。このおなごの城は良く知っておるから、わしに任せて置け。と言っても一本道じゃ、馬の後を追えばすぐに分かる」
頷く健太郎に「この世界のことを少し話しておこう」と、トールは前を向きながら遠い目をして語り出した。
「この世界にはお前と同じような転生者が何人もいるのじゃ」
「30年ほど前にトラックにひかれた男が『死者の庭』で、どうしても死にたくない。好きな女に告白するためにトラックの前に飛び出したらうっかり死んでしまっただけだと、泣きながらわしの悪友に縋りついたのがはじまりじゃった。
面白がった友がたわむれに『異世界で魔王を倒したら元の世界に戻してやる』と嘘をついてこの世界に転生させたのじゃ」
「元の世界には戻れないのか」
「元の世界では死んでいるんじゃぞ。戻れるわけがない。それでもその男はそれを信じて、いもしない魔王を探して20年ほど姿をくらました。次に現れたときにはその男自身が魔王になっておったのじゃ」
「何があったんだ?」
「それがさっぱり分からんのじゃ。悪い物でも食ったのか呪われたのか」
「漫画ならよくある話だな」
「なんじゃそれ、面白そうだな」女神が目をキラキラ輝かせて健太郎を見た。
「なんでもない、続けてくれ。ああ、そうか、その魔王がデスエンジェルスのボスなんだな」と健太郎ははぐらかした。
「いや、それが違うんだ。
想定外に出来てしまった魔王を倒すために10年くらい前からトラックではねられた老若男女を次々と転生させて勇者を作ろうとしてたんじゃが、そのうちの悪いのが徒党を組むようになってな。
転生者には特別な力を与えられるので魔王を倒せるのは同じ転生者しかいないと判断したのが悪かった」
「この世界の迷惑にしかならないな。おれのような転生者は嫌われてるんじゃないのか?」
「いや、この世界に貢献しているやつもいるんじゃ。インフラの整備とか石油精製とかな。食料の生産性も上がって国王も民も喜んでおる」
「暴力も持ち込んだのにか」
「暴力はもともとあるではないか、戦争もあれば獣や魔物の襲撃だってある。人間がいるところに争いがない場所なんてない。人間とはそういうモノじゃろう?」
「まぁ、そうだな」
「話を戻すとな、石油精製に成功したグループの一人が独り占めしようとデスエンジェルスを作って悪事を始めおった。ボスの名前はマッコイじゃ」
「マッコイ、か」健太郎は無意識に口に出して呟いた。
しばらく走っているうちに遠くに煙が上がっているのが見えてくる。街をぐるりと囲んだ塀は高く、中の様子は分からないが街に入る門を閉ざされて中に入れない人々が外に溢れていた。
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