第3話 ドレスの女と青年騎士

 青年騎士は健太郎の姿を見据え「その服、貴様はデスエンジェルスの一味だな」と極めて冷静に言うと剣先をさらに喉に近づける。

 

 両手をあげた健太郎が騎士の方にゆっくりと向き直ろうとしたとき


「待ちなさいコンスタンタン、その方は私の命の恩人です、無礼は許しません」と、ドレスの女がトラックから降りてきて青年騎士に向かって言った。


「アンリエッタ様!」


 青年騎士は長剣をカチャンと鞘に戻し、持っていたウサギのぬいぐるみを女神の胸に押し付けたあと、「よくぞご無事で」と胸に手を当てアンリエッタに頭を下げる。


 剣を下ろされた健太郎はひとまず安堵し、女神は興味を隠さず逆立ったアホ毛を尻尾のように左右に揺らしながらワクワクしたような顔をしていた。


「こちらの御仁は私をデスエンジェルスから助けて下さいました」


 アンリエッタはコンスタンタンに向かって言った後、健太郎に向き直る。


「この度は誠にありがとうございました。私はジゼル王国のアンリエッタ・ラ・バシュナールと申します。この度は誠にありがとうございました。お礼がしたいので我が城においで下さりませ」


「礼はいい、それにこれだけ兵隊がいればもう危険はないだろう」


 いつの間にかコンスタンタンの背後には6~7人の兵士と馬が待機をしていた。


「おれはまずこの恰好をどうにかしないとさっきの賊の仲間にまた間違われる。こんな格好ではどこにも行けないのが今わかったからな」そう言いながら健太郎はいきなり服をその場で脱ぎ出した。


「きゃあ」アンリエッタが両手で顔を覆い後ろを向くとコンスタンタンが眉間に青筋を立てて「貴様、王女殿下と子どもの前で裸になるとは!」と剣こそ抜かなかったが柄にしっかり手をやりながら叫んだ。


 ピシャーーン


 そのとき、健太郎とコンスタンタンの間に雷が落ちる。


「そこのタンタンとやらっ! わしは子どもではないのじゃ! いい所を邪魔するでないわ」

 

 女神は右手にハンマー・ミョルニルを持ち小さな体を仁王立ちにして無い胸を張って「わしは単なる女神ではない、聞いて驚くな、雷神トール様なのじゃ。 退屈しのぎの邪魔をするものは許さんぞ」


 タンタンと呼ばれたコンスタンタンは眉毛をピクピクと跳ね上げて苦笑いをし、アンリエッタは目を丸く、健太郎は雷でボロボロになった自分の上着をかざして見ていた。


「このぼろ服なら奴らと同じとは思われないだろう、めが、トールだったな、いい仕事だ」

 

 何故か礼を言いながら健太郎は袖もなくベストのように小さくなった服を羽織る。閉じられない胸元から綺麗に割れた筋肉が見えた。


「お、おうっ」トールはお礼を言われたことに困惑しながら返事をする。


「お礼にウサコはトールにやるぞ」

 ニコっと笑う健太郎の白い歯がキランと光り、表情が緩むと優しそうな顔になる。


「ふんっ、これは最初からわしの物じゃが、ありがたく貰ってやるぞ」

 

 返事とは裏腹にウキウキと喜ぶトールであった。


 アンリエッタは健太郎の一連のやりとりを微笑んで見ているがそれを見ていたコンスタンタンは健太郎に背を向けブツブツ言いながら背中を震わせている。


「あの、お名前をまだ聞いておりませんでしたが、教えていただけますでしょうか?」

 アンリエッタは健太郎に向かって少し恥ずかしそうに聞く。


「おれは七星健太郎ななほしけんたろうだ、健太郎でいい」


「では、健太郎様、改めてお礼を申し上げます、是非わが城においでくださいませ」

 

 アンリエッタがドレスの裾を少し上げ膝を少し下げ礼儀正しく健太郎に真摯に礼を尽くすと健太郎は頭をかきながら空を仰いだ。


「あー、そんな風にされると断り辛くなるじゃないか、だが気が進まねぇ」


 アンリエッタは少し考えたあと、ぱっと顔を輝かせハタと思いついたようにトラックの助手席がわのドアから中に手を伸ばし破れた抱き枕を取り出した。


「それではどうでしょう、こちらの枕を私に直させていただけませんか、私裁縫が得意ですの」


「直せるのか! 頼む、では行こう」電光石火の勢いでアンリエッタに返事をするとコンスタンタンに続けて言った。


「トントン、あんたたちが馬で先導してくれ、おれたちはトラックで後をついて行く」


「タンタンだっ! いや違う! コンスタンタンだっ」

 

 突然の指名に混乱しているらしい美貌の青年騎士はこめかみにまたまた青筋を立てながら訂正した。


 プーーーっと部下の兵士の誰かが吹き出し、アンリエッタはクスクス笑った。


 コンスタンタンはキッと兵士たちを睨むと皆シャキッと姿勢を正し前を向いたその時、


「隊長! 大変です、城が襲撃されました!」


 馬を走らせ息を切らせながら一人の兵士がやってきて叫んだ


「なんだと! 陛下はご無事なのか!」


「国王陛下はご無事です、ですが、第二王女のエリアーヌ様がどこにも見当たりません」


「エリアーヌ!」 


 アンリエッタが顔を真っ青にしてその場に崩れ落ちそうになるのを健太郎が腕で抱きとめる。


 それを見たコンスタンタンは何か言いたげな顔をしたが、すぐさま兵士たちに向き直り指揮をとる。


「城に戻る、皆、騎乗して私に続け!」




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