第13話 約束

(大袈裟~!)


 市庁舎の来賓室、厳重に警備までおいて目の前にあるのは電話だ。スマートフォンではないタイプの。ゲストハウスにも1台あるから知っている。


「3番目の魔法使いってどんな人なんですか?」

「そ、それは私からは……」


 市長が冷や汗をかきはじめた。


「あ、魔法使いの情報は出せないんでしたっけ」

「いやその……」


 私もインターネットを使って調べようとしたのに、例の事件の記事が出てきただけだった。市長の反応からするに、おそらく『3番目』と呼ばれる魔法使いはSNSで身元がわれてしまってしまった方だろう。


「そろそろだな」


 ライドの言葉とほぼ同時に、目の前に置かれた電話が鳴った。


「どうも」


 出来るだけ落ち着いた声で電話に出た。私以外の人間は急いで部屋の外へと出ていく。2人だけの秘密の電話だ。


『どうも。始めましてメルディさん』


 相手も落ち着いた声をしていた。どうやら声を聞くと年上の男性のようだ。


「あれ? 私の名前……どうして?」

『失礼。私は千里眼がありましてね。先日の討伐の様子、拝見させていただきました』

「へえ! それは珍しい!」


 ごくたまに、千里眼……遠くまで見渡すことが出来る能力者が魔法使いの中にいた。特別な魔法を使う必要がない。11人しか存在しない魔法使いの中にその持ち主がいるなんてなかなかの確率だ。

 なので試しに手を振ってみだが、反応してはもらえなかった。今は見ていないのだろうか。


『いいえ。ご存知の通り、魔法自体はたいしたものは使えませんから。貴女の魔法をみてショックを受けたくらいですよ』

 

 相変わらず静かに話すので、ショックだったというのが本当か、それともただのリップサービスなのかはわからない。


「それで今日は……」

『はい。今日は例のについて貴女にお伺いしたく……それから他の魔法使いについて貴女に伝えておいた方がいいことをいくつか』


 なになに!? 何を聞かれるの!? 


『まずですが、魔獣が現れたと知らされた際、何か体に変化はありましたか?』

「……? いいえ特には」

 

 上級と聞いてビビったくらいだが、せっかく私の魔法をすごいと褒めてくれた彼のイメージを壊さないために黙っておこう。


『そうですか。……では、単刀直入に申します。貴女にの効力は働いていません』

「え!!?」


 え!?


『我々……10人の魔法使いは魔獣が現れたと知らされ、もしも討伐に向かわない場合、首を絞めつけられるような苦しみが襲います。それから逃れるには魔獣の側にいなければならない』


 確かに、そんな恐ろしい現象はなかった。逃げるという選択肢が出た時すら体は普段通りだったことを覚えている。


『ですが例の情報漏洩の事件が起こってから、それがずいぶん緩和されたのです。逃れたくなるような苦痛を感じるまでの時間がぐんと伸びました。首への絞めつけも、たいしたことがないのです』


 の効力が落ちたのか。


『だから我々10人の魔法使いは決めたのです。1年間、一切魔獣を討伐しないと』

「約束は約束ですもんね」


 でないとのように魔法使い達は非人道的な扱いを受けるかもしれないってことだよね。


『……貴女がそう言ってくれて嬉しい』


 ホッとしたような声色だった。だがそれもすぐに先ほどの無感情なしゃべり方へと戻る。


「ここからが本題です。正直、貴女があっさり上級魔獣を倒してしまったことで、貴女さえいれば、非魔法使い達が約束を守る必要がない、と考えてしまう可能性を不安に思う魔法使いがいます』

「足並み揃えろってことですか?」


 というか、そう思っているのはこの3番目とは違う魔法使い?

 ここで私が輪を乱すと他の魔法使い達が困るのか。でも別にこの人達と友達ってわけでもないしな……。気を遣う義理もないというか。


「ご不満そうですね」


 私の顔をのか、それとも声だけで判断したのかはわからない。


「そもそも、私だって世界中を周れるわけじゃないですし……この辺りのエリアをもらうってことで手を打ちません?」


 正直、討伐報酬は大きいし、目の前で街がやられっぱなしなのをただ見てるなんてことも出来ない。


『ああそうか。貴女は約束適応外だから……ゲートが現れないんですね』

「ゲート!?」


 一体なんの話を始めたの!?


『と言うことは、扉の向こう側で先ほどから冷や汗をかいている市長はご存知だったとお思いますよ。貴女がの適応外だということを。だって貴女、先日の討伐の際はどうやって移動されました?』

「徒歩と車、そしてヘリコプターです」

『アハハ! それは市長、驚かれたでしょうねぇ』


 初めて『3番目』が笑った。


『討伐すべき魔獣が出現すると、我々の前……1番近い魔法使いにゲートが現れます。ゲートをくぐると任意の場所にできるのです……数年前までは苦しみから逃れるために、急いで討伐隊に合流したものですよ』


(転移か……)


 最近大掛かりな転移をしたばっかりだ。


「ちょっと待ってください! 先ほどから適応外、適応外って……ということは討伐報酬もらうのも適応外!?」


 約束の報酬としてもらってるんだよね!?


『それは外の話ですから。要相談でしょうね。個人的には貴女は魔法使い側として約束を果たしましたから貰うものは貰ってかまわないでしょう』 


 私に気を遣ってくれた答えだ。私の現状を知っているのだろうか。


「ご親切にありがとう」

『……私は身元がバレるまでは普通のサラリーマンとして働いてましてね。妻も子もいて……でも全てを捨てて引っ越しをしました。私だけでなく家族も。だからいまだに討伐に出る気にはならないんですよ』

 

 わざわざ自分は親切じゃないと説明してくれたのだろうか。だが、私に重大な情報をくれた。別に市長やユーリ達同様に黙っていることも出来たはずだ。


「でも知らないことばかりだったから助かりました」

『……今回、ゲートが開いたのは私でした。私じゃあ上級を倒せなかったでしょう。貴女のおかげで命拾いしたのです』


 じゃあこの人とはご近所の可能性があるのか。


『ですから、貴女が縄張りを守るために魔獣を狩ることを私は歓迎します。私と家族の身の安全にも繋がりますし。ですが他の魔法使いはそうとも限らない。……くれぐれもお気をつけて』

「ご忠告ありがとう」


 どうやら魔法使い達も一枚岩ではないらしい。


 千年後の魔法使いとの初めての交流はこうして終わった。

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千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる 桃月とと @momomoonmomo

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