第6話 約束

「魔法使いが世界に10人しかいない!?」


 感動的に美味しいクッキーを堪能したあと、1番最初に教えてもらった情報に動揺を隠せない。


「あ、メルディ入れたら11人だね」


(なんでそんなことに!?)


 千年前もそこらじゅうにいる存在ではないが、魔法使いは1つの街に複数人はいた。都会なら尚更多い。なのに10人なんて……世界がぐっと小さくなってしまったのだろうか。


(この街以外の人類は滅んでるとか?)


 なんて、くだらないことを考えて現実逃避してしまう。


「何から説明したらいいかわかんないんだけど……」


 うーん、と悩みながらユーリが話題を選んでいることがわかる。

 それはそうだ。私は今、生まれたてみたいなもの。この時代で生きていく為に必要な情報は山ほどある。


「まず安心して欲しいのが、メルディの身の安全は保障されてる」

「なんだか初っ端から物騒な話題ね」


 だが、正直気になっていた内容だ。私はこの時代で異質な存在だどいうことは、周囲の反応を見て初めから感じていた。そういった存在が世間から受ける扱いは残念ながら想像がつく。


「300年前、魔法使いとそうではない人間の間で約束が結ばれた」

「オレ達みたいな魔法が使えない人間……非魔法使いは、魔法使い達に悪意を持って干渉しないってね」


 口々に淡々と説明してくれる。あえて感情を出さないよう注意しているようだ。


「と言うことは、それまでは悪意を持って干渉されてたってこと?」


 干渉はともかく悪意だなんて。千年前はそれなりに尊敬の対象だったのに。


「戦争や魔獣狩りで魔法使い達は引っ張りだこ……ならまだしも、かなり非人道的な方法で強制労働を強いられてたんだ」

「どういうこと!? 魔法を使って非魔法使いに勝てない状況ってこと?」


 戦闘力で言えば魔法使いは圧倒的に強い。剣や槍や弓や斧で私達には勝てはしない。だからどうやって魔法使いがそんな目にあっていたのか予想もできないのだ。


「うーんと、それは魔法使いと非魔法使いの歴史を説明しなきゃならないんだけど」


 ユーリはまたもやうーんと頭を悩ませている。


「簡単に言うと、魔法使いはこの千年で激減した上に、その力も極端に弱まっちまってんだ」


 ライドの方はかなりかいつまんで話を進めることに決めたようだ。


「今いる魔法使いも簡単な魔法しか使えないんだよ」

「非魔法使いの方は剣以外の武器を創り出してな。戦闘力に関しては大逆転だ」

「銃って……千年前はあったのかな?」

「大砲をずっと小型化したものだ。男なら片手で撃てる」


(待って待って待って待って……)


 次々に与えられる情報に対し、次々に疑問が湧いてくる。


「でも……でもそれなら別に魔法使いは必要ないんじゃないの?」


 まともに魔法の使えない魔法使いがなんの強制労働するっていうの?


「どうしても魔法使いが必要なんだ」


 2人の表情が急に暗くなった。こちらも少し緊張する。


「魔獣退治にはな」 


 魔獣……やっぱりまだいるんだ。魔法使いは10人だってのに……。

 

 魔獣退治には魔力が必要だった。剣や弓でも倒せないわけではないが、魔力なしでは攻撃が通りづらい。おそらく先ほど話していた銃も同じなのだろう。


「非魔法使いも頑張って対策は考えてるんだよ? 魔具を創って対抗できるようにしてるんだ!」


 ショックをうける私をみたせいか、焦っている。


はまだそれなりにいるんだ。基本は魔具でしのいでるが、上級魔獣が出るどどうしてもな……」

「魔力持ち……? のこと?」

「あ! 今はその言い方は禁止されてるからね……表立って使っちゃだめだよ?」


 ユーリは慌てていた。なんとなくだが、何で禁止されているかは想像がつく。


 『なり損ね』は魔力はあっても魔法使いにはなれない者達のことだ。魔法を発現出来るほど魔力がない。蔑称のように聞こえるが、千年前は魔法使いの側仕えとして重宝されていた。


「だから、非魔法使いは魔法使いに干渉しない代わりに、魔法使いは有事の際に力を貸すっていう約束が結ばれたんだ」


 それが最初に言ってた約束の全容だった。それは、千年前からやってきた私にも適応される約束だろうか?


「……杖持ちは?」

「もう存在しない。……300年前が最後だ」

「じゃあ私にとっての魔法使いはもう絶滅しちゃってるわけね」


 杖を持たない魔法使いは、あくまで魔法使い(仮)だ。 


「この時代で最強の魔法使いは君だよ、メルディ」


 ……これはとんでもない時代に来てしまったぞ。

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