千年前からやってきた見習い魔法使い、現代に生きる
桃月とと
第1話 千年前
(は~まったく師匠は……いつも突然なんだから……)
なんて、文句を言ってもどうにもならないけど。
「メルディ! ちょっと魔の森まで行って、マンドゴラ10本引き抜いてきて!」
「ええ!? 今から!?」
「そうだよ! 早く早く~!」
「野生のですか!? 効能が安定しないのでは?」
「いいからいいから! ちょっといいレシピ思いついたんだ!」
「えぇ~……」
私が行きたくないアピールをしても、師匠は全く気にしない。ニコニコ笑顔で、さっさと行けと急かしてくる。
「師匠の言うことは~?」
「ぜ、ぜったーい……」
そう。師匠にはそういう約束で魔法を教えてもらっている。彼の雑用を全て引き受ける。その代わりに私を立派な魔女にしてもらうという約束だ。
(免許皆伝まであと少し……あと少しの我慢!)
師匠は大魔法使いだ。だから弟子入り希望もたくさんいた。だが今残っているのは私だけ。他は皆、師匠の無茶ぶり要求に耐えられず去って行った。
私はもうヤケクソで師匠についていくと決めた。今更辞めてたまるかという気持ちも大きかったし、辞めて他に行く当てもない。おかげで、今はそこそこ魔法が使えるようになっている。師匠ほどの威力や効果はないが、満遍なく多種多様な魔法を使いこなせるのだ。
「なーんかメルディの魔法はインパクトが足りないんだよね」
「いや、師匠と比べられたら堪らないんですけど!」
「アハハ! 僕にそんな口きくのはメルディくらいだ!」
そう言いながら両方のほっぺたを横に引っ張られる。
「
「アハハハハ!」
こんな感じで楽しそうに笑いながら私をいびるのが好きなのだ。まあ、私も負けるつもりはない。私が約束通り彼の雑用をこなせば、彼も約束通り魔法を教えてくれたからだ。
魔の森は大きな木々で空が見えない。だから真昼間だというのに暗い。不気味なのは暗いからだけではなく、人間にとって恐ろしい魔獣や毒草が群生しているからだろう。
光の魔法で足元を照らしながらマンドゴラの群生地に向かう。ふよふよといくつもの光が私の周りを浮遊した。この魔法は便利で、不意打ちをくらいそうになると私の意志と関係なく光の矢となり、相手に突き刺さるのだ。
途中、何度も魔獣に遭遇したのでその度にキッチリと倒し、ついでに素材を剥がして先に進む。
「いいお小遣いになりそう」
魔獣の素材は師匠が買い取ってくれる。師匠が必要のないモノは、たまにくる商人がいい値段で買い取ってくれた。師匠の弟子という肩書が上手く効いて、素材に対しての信頼度が高く安心して買えると商人が教えてくれた。
(やっぱあの師匠の弟子って肩書は美味しいわ!)
そう思って自分を納得させたのは何回目だろうか。魔獣を10体倒したあたりで目的の場所が見えてきた。
「あー疲れた~……これからマンドゴラ収穫か……」
お腹もすいた。帰ったらすぐにお昼ごはんにしよう。昨晩作ったミートパイが残っているはずだ。……師匠が食べてなかったら。
やれやれと思いながら、収穫のための装備を確認しようとした瞬間、この森ではありえない現象が起こった。
「まぶしっ!」
思わず目を細めるほどの刺すような光だった。そして同時にぐっと抗えないような強い力で体が光の中に吸い込まれる。
(やばいやばいやばいやばい!!!)
助けてなんて叫ぶ暇はない。何とかしなきゃ、と急いで大きな木に絡まる太い蔦を魔法を使って手元に引きつけ、尚且つ暴風の魔法で光の外へと自分の体を押し出す。
「うそっ!?」
私のとっさの判断もむなしく、あっさりと太い蔦はちぎれ、暴風は光に吸い込まれる。
「きゃああああ!」
そうして私も、光の中へ。
光の中のことは覚えていない。
次に目が覚めた時は、綺麗な芝生の上に寝っ転がって、目の前に綺麗な青空が広がっていた。
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