第12話 報酬
「ひゃひゃひゃひゃ100万!?!?」
今回の討伐報酬として支払われる金額だ。いきなり大金持ちじゃないか! 千年前の貧乏暮らしが嘘のようだ。
「これに今回討伐参加の謝礼として20万エルお支払いさせていただきますので、合計120万エルになります」
(参加料〜!?!?)
これだけの金額を支払うと言うのに市長はニッコニコだ。
「街に一切被害がありませんでした。この程度で……と言うとメルディさんに失礼ですが、120万で市民も隊員も街も無事なら安いものです!」
市長はこの街と生死を共にすることまで考えていたらしい。なかなか責任感が強いようだ。千年前は有事の際、いの一番に逃げていた指導者もいたのだ。
「それから、こちらの分は税金がかかりませんのでご安心ください」
「税金!!? やっぱりあるんだ税金!!!」
それは千年経っても変わらなかったか。
今回、戦闘機1台と、扉1枚の破損だけで上級魔獣を討伐することができた。それはありえないと断言できる成果だと言われた。しかも破壊された戦闘機が回収できたのはかなり重要なことなんだそうだ。
「魔獣を倒す魔具の機関部は今はもう失われた技術なのです。それが無事に返ってくることが何より大事なのですよ」
「そうか。魔具を作れる人はもう……」
「はい。この世にはいません」
しんみりとした空気になってしまったが、私はまだ確認しなければならないことがある。
「あ、あの……魔獣の素材はどうなりますか?」
(アレって私が倒したし、私のになるよね!? ね!?)
と、聞きたいのを我慢する。あまり強欲だと思われたくないし。
(けど私も生活があるのよ!)
家賃を払う目処が立って少し安心した。下宿は朝食付きで月に10万エル。私は3食お世話になっているが……。ユーリもライドも下宿代を教えてくれなかったので、自分でインターネットを使って調べたのだ。金額はキルケの街の不動産サイトにしっかり乗っていた。
「なんで千年前の魔女がインターネットの検索スキル上げてんだよ」
あのライドが笑っていたのが印象的だった。
(朝食付きな上、光熱水費もネット代も込みでなかなかお得だったわ!)
一応、ひとり暮らしのシミュレーションもしたのだ。インターネットにはこの世の叡智が詰まっている。
結果、やっぱり生きるには金がかかる、という当たり前の事実を再認識しただけだった。ユーリの下宿にお世話になるのが1番食うに困らず生活できそうだ。
「魔獣の素材代の1割をお支払いすることになっています。……ただ、こちらはお支払いまでに時間がかかりまして。特に上級となりますと、過去の例も少ないので金額が決まるのも遅いのです」
申し訳ありません、と市長は頭を下げた。
「魔獣の素材から新たな討伐隊の装備を開発したり、売却金が活動資金や復興費に当てられますので、何卒ご理解をいただけると……」
そうか。討伐隊もかなりの人数がいた。彼らの給金を考えれば少しでも資金はあった方がいいだろう。でも……、
(1割か〜〜〜)
本当にお小遣い程度だな。まぁないよりはマシか。私もそこまで非道ではない。報酬は貰えるし、命懸けで戦う隊員の為にそこは譲ろう。
「と言うことで、1年分の家賃を前払いするわ!」
「ええ!? こっちが誘ったんだから貰えないよ~……それに大事なこと、黙ってたしさ」
「それは別にいいって言ってるじゃん!」
「いやでも……」
「あーあーあーもういいの! 私がいいって言ってるからいいの!」
困った顔して曖昧な笑みをユーリは浮かべていた。いまだに『約束』の詳細を黙っていたことに罪悪感を感じているらしい。
「まあそれなら、私がまたなにか困ってたら助けてよ。それでお相子ってことで。ライドもそれでいい?」
「おう」
ライドは話が早い。ユーリはやっぱりまだ納得しきれていなさそうだったが、これで話は終わった。
――ピリリ ピリリ ピリリ
「げっ!」
ユーリが嫌そうな顔をした。また市長からの着信のようだ。
「私に直接すればいいのに」
「メルディのご機嫌を損ねたくねぇんだろ」
「そんなお子様じゃないのに~」
私は魔女として扱われるのが嫌ではない。が、そうでもない魔法が使える者が多いのが千年後の今だ。
「はい。はい。ええ!? はい。……伝えます。お待ちください」
そう言いながらユーリこちらを見ている。
「……別の……3番目の魔法使いが、メルディと連絡を取りたいんだって」
「へぇ~! いいよ」
私も今の世の魔法使いに興味がある。どんな話をしてくれるんだろうか。
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