第11話 討伐

 市庁舎に到着すると、ギョッとした顔の市長が急いで屋上へと案内してくれた。いつものスーツではなく、動きやすそうな服に着替えている。


「うわー! 早い!!!」


 そして私は今、ヘリコプターという乗り物に乗っている。ハッキリ言おう。感動した。車に乗った時も感動したので、最近は感動しっぱなしだ。


「自分で飛ぶよりも楽だし早いわ~」

「飛べるの!?」


 ユーリは目を丸くしていた。

 そこに驚かれるとはこちらも驚く。飛ぶなんて、風魔法の基本中の基本だ。ただあまり早く飛ぶと風が鬱陶しいし、魔力もゴリゴリ消費するしで、あまり使うことはない。千年後の世界なら科学の力を使った方がいい。

 私が今乗っているのは大型の戦闘も可能なヘリコプターらしい。戦闘員4名、操縦士、それから指揮をする隊長、特別にユーリとライドが乗っても少し余裕がある。


「メルディ様、まもなくです」


 魔獣討伐隊の隊長、ロッド・スティールが緊張した面持ちで声をかけてきた。

 現在確認されているのは大きな触手のみ。先には鋭利な刃物のようなものが見えたとのことだ。私は触手と聞いて少し安心した。リヴァイアサンではないことがわかったからだ。


「クラーケンかしら」

「だったらもう世界は終わりだ」

「……考えたくなねぇな」


 またまた、大袈裟なんだから。


 少しずつ爆撃音が聞こえてきた。スティール隊長の話では、戦闘機に魔具が取り付けられており、だけがそれを使うことができる。だが最もダメージを与えられるのは、やはり魔法使いらしい。


「見えたぞ!」


 隊員の1人が大声を上げる。

 大きな窓から海を見下ろすと、確かに触手がゆらゆらと、戦闘機を攻撃しようと狙いを定めていた。


(ん? あれって……)


「戦闘配置に着け!」


 スティール隊長の掛け声とともに機内の隊員たちが壁際に立つと、壁は音を立てて変形し、隊員たちは大きな大砲のような魔具と共にヘリコプターの外へと出た。


「おぉ~!」


 思わず感心する。

 ライドとユーリは動かないようにと厳命されていた。


「メルディ様はこちらを……」


 私用の魔具へと案内してくれたが、その時例の触手が1機の戦闘機をついに捕えてしまった。

 轟音と共に、戦闘機はゆっくりと回転しながら海へと落ちてゆく……。

 

「ドア開けて!」

「え!?」

「もういい!」


 私はドアを魔法でぶち破り、そのまま空中へと飛び出した。


「メルディ!!!」


 ユーリとライドの叫び声が聞こえるが、飛べるって言ったでしょ!

 

 急ぎ戦闘機が海面にぶつかる前に風で受け止め、中にいる隊員たちを助け出す。操縦士を含めて5名、全員を宙に浮かし、そのまま私がぶち破ったドアの中に入れ込んだ。


(怪我してたから後で治さないと……)


 さて、お次は魔獣の方だ。


「やーっぱり! クラーケンもどきじゃん」


 ビビッて損した。あれはクラーケンのようでクラーケンではない。見えている触手は尻尾だ。

 味方の攻撃は止んでいる。私に当たっては悪いからだろう。


「じゃあチャチャっとやっちゃうか」


 相手は私に気が付いて逃げの態勢に入った。海の底へと潜ろうと尻尾が揺れている。は臆病だ。負けがわかればすぐに逃げ出す。


「今更遅いっつーの!」


 指先に雷の魔法を溜め、クラーケンもどきの尻尾の先に落としてやった。雷鳴が轟く、なかなか派手な魔法だ。私のデビュー戦には悪くないだろう。


(師匠には私の魔法は地味だって言われてたけど、自分が規格外だって自覚してもらいたかったわ)


 ゆっくりと魔獣の体が浮かび上がってきた。大きな魚のような様相だ。もう動くことはない。


「クラーケンもどきの鱗は細工に使えるからって売れるのよね~」


 小遣い稼ぎにはなるだろう。これって討伐した私が所有権主張できるのか後で聞いてみなければ。……市長がくれた冊子をちゃんと読まないとな。細かいことがたくさん書いてあって、大事なところ以外はまだ目を通していない。


「ドア壊しちゃってごめんなさーい。だって危なかったし~」


 ヘリコプターに戻ると、なんとも表現しがたい表情で隊員たちが私を見ていた。感動、畏怖、仰天、感謝。しかし返事が返ってこないので不安になる。


「まさかクラーケンもどきだとは思わないよね~あいつの尻尾そっくりだし……こんなに戦闘機いっぱい……仰々しくする必要なかったですね!」


 アハハと笑ってみるが、誰も笑わない。これがすべったというやつか?


「まあクラーケンでもここまでは必要ないか!」


 はい……誰も何も答えない。お疲れくらい私に言ってもよくない?


「あ~……じゃあ隊員さん、治しちゃいますね~」


 すでに応急処置されている隊員の治療をして、この気まずい空気を堪えぬことにした。


(骨折と打ち身……内臓は大丈夫そうね)


「痛みがないからってしばらく動いちゃ駄目ですからね~」

「嘘だろ……」


 またもや信じられないという顔をされてしまった。


(いったいなんなの)


 説明を求めるようにユーリとライドの方を見る。私の疑問に答えてくれ解説員達。


「治療魔法が使える魔法使いなんて、もうとっくの昔に絶滅してんだよ」


 ライドが簡単に答えてくれた。


(なるほど、私はロストテクノロジーを使ってるってわけね~)


 まあでも、治療魔法は薬や現代医学だって少しも負けず劣らずだ。場所を選ばない分、魔法の方が使い勝手はいいかもしれないが。


「メルディ……さっきの魔獣は過去50年、度々現れては人類を苦しめた凶悪な上級魔獣だ。討伐する前に逃げられて……」

「え!? もどきだよ!?」


 クラーケンならともかく……混同してない?


「オレ達はあいつをネオクラーケンって呼んでた。クラーケンよりも出没頻度がずっと高くて、積極的に人間を狙ってくるやっかいな魔獣なんだ」

「でも雑魚じゃん!?」


 体がデカいだけの魔獣だ。たまに尻尾から水流弾を撃ってくるが、命中率は低い。戦闘機はからしてみたら的が大きいのだろう。もう少し離れたところから攻撃すれば、大丈夫だったはずだ。


「いいやメルディ。雑魚なんかじゃない。今の時代のは確かに上級魔獣扱いなんだ」


 マジで? と隊員達を見渡すと、一様に首をコクコクと縦に振っていた。


「マジか~」


 平和だ平和だと思っていたが、なかなか大変な世の中になっていたようだ。

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