第9話

あんなふられかたをしても、俺は勉強をするしかない。俺にはちゃんと夢があります。その夢を叶えるための試練だと思えば、軽いものだ__絶対そうだ、そのはずなんだ。

高校生活3度目の秋が来た。涼しい空気を身にまとい、静かに冷えた自習室に来た。ひとりぼっちだ。俺はまた、ひとりになったんだ。

次の日も自習室に来た。ひとりだ。ひとりだった。

だけど、その次の日は違った。先客がいた。

「先生?こんにちは」

「こんにちは。もしかしてここ、使う?」

「あーはい。いやちょっとだけですけど…」

「ここは自習室なんだから、学生が思う存分に使うのが正解よ」

「あ、はは。はい、そうですよね!…先生はなんで、ここに?」

「ちょっと静かなところで作業したくて。誰も使ってないならいいかなーって…」

「そーだったんですねー」

「あなたは__まあ、自習しに来たのよね。3年のようだし」

「そうなんです。でもなんか…誰も来ないし…」

「…そうね。前の職員会議で、この自習室をほかの用途で使えないか、と話があったわ__単刀直入に言わせてもらうと、この自習室はきっとあと1年ね」

「!」

「利用人数があまりに少なすぎる__1学年でも100人いる学校で、自習室を使うのはたった1人なんて、ずいぶんおかしな話だけれどもね」

「じゃあ、もしかしたら俺が、最後の自習室利用者になるかもしれないってことですかね!」

「ええ、下の学年が使わなければね」

先生のその言葉で、俺はあの子のことをふと思い出した。俺が消えれば、きっと使うだろう。いや…使わないか。

「お邪魔して悪かったわね。じゃあ失礼するわ」

先生は笑って、静かに自習室を出ていった。

「ま、ってください!」

「?どうしたの?」

「先生も…まだやること残ってるなら、ここにいてください…俺別に、気にしないんで」

あの子がいない寂しさを、別の人で、しかも先生で埋めようとするだなんて、俺は本当に狂ってる。

「ふふふ、じゃあお言葉に甘えて」

先生は、あの子が座っていた席に座った。俺はそれを見てしまった。わかってしまった。


高校3年、秋。俺は狂っているのだろうか。


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