第4話

俺はもともとうるさい子は好きじゃないです。でもあの子のうるさいは、うるさくないんです。これほんと。心地のいいうるささなんです。

「うーっ、寒っ」

「上着持ってくればよかったじゃないですか」

「いやなんかさぁ…晴れてるから暖かいかなって?」

「もうこの季節にそれは通用しませんよー!」

「俺は信じない」

「事実なんですけど!」

彼女は頬を膨らませて、いつもと同じ席につく。

「…なーんか、勉強に取りかかるまでが早くなったなぁお前」

「え、そうですか!?私天才への1歩を歩み始めてます!?」

「どうでしょうね?」

彼は笑ってペンを持った。あ、この問題難しい。解答解説どこやったっけ…?

「センパイ、どうしました?」

「さがしものー」

「私も探しましょか!?」

「集中しろー」

「はーい…」

「んー…」

机の上から下までくまなく探したが見当たらない。

「ちょっと教室戻ってくんね」

「ええなんで行っちゃうんですか!」

彼女はばっと顔を上げる。少し潤んだ目をしていた。

「探し物!すぐ戻ってくるから」

彼はそう言って自習室を出た。

早く戻らなきゃ。1人は怖いものなんだ。俺が1番わかってる。

「あれ、どうしたの?」

「ちょっと探し物を探しに来ただけなので!すぐ帰りますよ」

先生の声にビクッとしたけど、彼はすました顔で自分の机の中を見た。空っぽ。ロッカーの中を漁った。見つからない。

「あれぇー…どこいった?やっぱ自習室のほうで……あっ先生!もう出ます!すみません!もう出ますから!はい!お疲れ様です!はい!さようなら!」

彼は先生の表情を見た途端に焦りだして、足早に教室を出た。廊下を小走りで進んでいく。もうすぐ、自習室。

「たっだいまぁ」

「おかえりなさい!ご飯にする?お風呂にする?それとも私!?」

「メシ」

「ぬぅ…あ、これセンパイのですか?私のに混じっちゃってて…」

「あ!俺の!!さんきゅー!」

彼女は優しく笑って手渡した。


高校2年、秋。俺は未だに後輩にOKを言えない。

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