第16話

私は、その日ばかりは自習室に行きませんでした。そっと、センパイが友達と笑いながら校門を出る様子を、教室の窓から見ていました。幸せそうな顔を見たら、なぜだかそれだけで恋が成就したような気がして、自分まで幸せになりました。自分勝手な幸せをかみ締めているうちに、思いました。

また、センパイに好きを言おう。言わなきゃ、いけない。そうじゃないと、会えない気がしたから。

「…先輩に好きって言わなくていいの?」

「……センパイは、今日はきっと私じゃなくて友達といたいと思うの!!」

「そりゃねえ。けど、ほかの女子に告られてたりしたらどーするのよ?」

「それは大丈夫!センパイに女の影はないよ☆」

「いよいよ怖いわあんた…」

友達の言葉に笑っていると、急に不安に思えて、教室をとび出た。

「やっぱり__言ってくる!」

まだ、近くにいるはず。

センパイはもう、ここに戻ってこない。私が追わなきゃダメだよね!センパイの友達さんには申し訳ないけど、だけど!私はセンパイに好きを言いたいんです!センパイのおかげで、色んなことに集中できた。勉強も、恋も。だからさ、センパイ。あなたのOKの一言で、私をめちゃくちゃにしてよ!!

「センパーーーーイ!」

「うおっめっちゃ走ってきてるっっ」

「あー…あれが噂の……よっしゃあ、おれら先行ってるからな〜〜!」

「そーだな!頑張れよ〜♡」

「おいちょ待て」

「センパイ!!」

「はいっ!?」

彼の友達は一本道をぐんぐんと進んでいって、既に小さくなっていった。ここには2人だけ。彼女は息を切らしながら彼の前に立った。彼は既に顔を赤らめながら、それを隠すように笑っていた。

「…私、前失恋したじゃないですか」

「…そんな話してたなぁ」

「でもでも!私また恋したんです!」

「……?そりゃ良かったなあ。その報告だけか?ありが」

「誰に恋したか聞かないんですか?」

「え?誰ってそりゃ俺の知らない…同級生とかじゃないのか?」

「う"〜〜っ!センパイのアホ!!センパイが1番知ってる人です!」

「………へ?」

「___!センパイ!!」

少し強い春風が吹いた。彼女の髪が、スカートが、風に乗ってなびいた。彼女はじっと彼の目を見ていた。彼は恥ずかしそうに目を泳がせる。えーっと、えっと、あー…えと、そうやって言葉に迷っているようだった。

「迷惑ですよね、わかってるんですよ!お友達待たせちゃってるし、…じゃあまた!」

その様子を見た彼女は寂しそうに笑うと、後ろを振り向いて走り出した。逃げ出したかった。センパイの優しい顔が見られて、それだけで嬉しかった。もう、十分だ。これで、私の恋が終わるんだ。

「ちょっと待てって、俺の返事くらい聞いてくれよ」

「え」

「なんでそんな驚いてんだ」

「ダメだと思ってたから……あれ、じゃあ」

「そうだ!」

彼は満足気に笑った。

「俺もお前が好きだ。__改めて、これからもよろしくな!」

「……〜〜っ!?」

「あっははは!なんでお前が顔赤くしてんだよ!俺が赤くするところだろー?」

「だって、だって〜〜!」

センパイは私に興味ないと思ったから!

「…不安なので」

「?」

「ぎゅーしてください」

「!?」

彼の頭に衝撃が走った。こいつ……こんなのを隠してたのか!!可愛いことしやがってクソが!!

「お、おう…」

「ぎゅー!」

「ぐえっ!?」

「あははは!」

「ぐるじぃ……ッ」

「……よし!充電できました!それじゃあ、楽しんできてください!!」

彼女は笑顔で走り出した。ああ、こんな幸せあっていいものか!

「は〜〜〜〜〜………」

長い恋だった。時には狂わされてしまった恋心も、今はやっと落ち着いたのだ。幸せ者だ。あまりに幸せすぎる。彼は笑顔で、友達の元へ駆け出した。


春。

初めて出会った日から、もう3年経つ。

「センパーイ!」

「…え?な、お前…え?お客?」

「違いますよ!」

今日は大学の入学式。2人はまた出会った。

「まさか、いやそんな…馬鹿だったお前が……?」

「あの…何回も教えてもらったけど、でも私かなり頭良くなってましたよね!?」

「そりゃあな、俺が教えてたんだから」

「違いますよーだ!」

「…つーか待て!お前ここ元から志望してたのか!?」

「はい、そうですよ?たまたまセンパイがいただけです」

「ほんとか?」

「ほんとですよ!後でセンパイがここに受かったの聞いたんですから!」

柔い春風が吹く。陽光は優しく、包み込むように。

「……

「ありがとうございます!」


大学1年、春。私は、また会えた。

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