第14話 麻雀はリセマラ+三巡目総評①

 翌朝。 早めに横になった事もあって午前中に起床した二人は早速、新しいゲームに挑む事となった。

 『麻將』マージャンのゲームで麻雀と書くのが一般的だが意味は同じだ。

 

 「お兄ちゃんって麻雀やった事あるの?」

 「ない。 だから事前にルールだけ調べておいた」


 牌と呼ばれるもの十四枚を組み合わせて役を作って点数を競うゲームと継征は認識していた。

 始める前にトロフィーの獲得条件も確認しておいたが、はっきり言ってかなり面倒そうで、継征はこの時点で長引きそうな予感を感じていたのだ。


 基本的にこのゲームには明確なエンディングやストーリーはない。

 難易度を設定して勝負するだけの代物だ。 ならトロフィーの獲得も容易ではないか?

 そう思うかもしれないが、こういったシンプルなゲーム程獲得が難しいというのは彼自身が前回の十柱戯で嫌というほどに認識していた。 その証拠に獲得条件は一定以上の難易度で特定の役を出して上がり、勝利する。 そう上がるだけではだめなのだ。


 その役を揃えた上での勝利。 麻雀はルール上、一度勝てば終わりではなく、半荘と呼ばれるゲーム単位で勝負を行い何試合も繰り返す。 初心者の継征には非常にハードルの高い話だった。

 だからと言って逃げる気はないのでやるしかない。


 「……やるか」


 そう呟き、継征の長い戦いが始まった。

 

 

 後ろで逸子が小さく欠伸をする。

 それもそのはずだ。 淡々とマージャンをしているだけで、ルールを全く知らない彼女からすれば退屈な時間だろう。 継征も徐々にだが慣れてきはしたが、トロフィーの獲得の為に特定の役を狙う必要があったので難易度が跳ね上がっているのだ。


 彼は麻雀というゲームのルールを知ってはいたが、楽しさを理解する前にこの苦行のような作業に身を投じてしまったので運の占める割合が一定以上存在するこのゲームに対しては作業感と苦痛を感じていた。 十柱戯は操作のシビアさに辟易していたが、運が絡む分、性質の悪さはこちらの方が上だと思っており、三時間ほどのプレイでもう辞めたいと思いつつあった。


 「……ねぇ、お兄ちゃん。 面白い?」

 「ぶっちゃけるともう飽きてきた。 やりたいなら喜んで代わるぞ」

 「あ、ごめん。 遠慮しとく」


 しばらくの無言。

 流石に会話すらない状況は継征としてもあまり好ましくなかったので話題を探し――


 「そういえばそろそろ期末考査か」

 「うわ、嫌な事を思い出させないでよ」

 「お前の所と時期が被るから月曜からは控えるぞ」

 「……はぁ、そうだね。 流石にテストの点が露骨に落ちるとお母さんが怒るだろうし、真面目に勉強するよ」

 「勉強の方はどうだ? 点ヤバいとかだったらゲームからテスト勉強に切り替えるが?」


 半分以上、本音だった。 いや、目の前の苦行よりは成果の出る見込みのあるテスト勉強の方がマシだと思っていた事もあって現実逃避を兼ねた真剣な提案だ。


 「……あ、クソ、また揃わねぇ……。 何だよトリプル役満ってこんなもんナチュラルに揃えられる奴いるのかよ……」


 とにかく初手が良くなるまでリセットを繰り返し、よさげな手牌が来たらスタート。

 後は運を天に任せるだけだ。 試行を繰り返すやり方だけあって時間はかかっているが、一つまた一つとトロフィーは獲得できていっている。


 ――そして――


 「よし、よし、揃った勝った! ――ふぅ、あと三種類か」

 

 困難を乗り越えた先には更なる困難が待ち受けている。

 継征は人生の理不尽さをひしひしと感じながらひたすらに麻雀という名のリセットマラソンを続けた。

 逸子と雑談しながら時間は流れ気が付けば深夜。 げっそりと萎れた継征だったが、その目は異様な輝きを帯びていた。 何故なら残りのトロフィーがあと一つだったからだ。


 「よし、初手は悪くない。 今度こそ行ける。 勝つ、俺が勝つ。 そして麻雀を卒業するんだ」


 彼の祈り――というよりは執念が天に届いたのか最後のトロフィーはあっさりと手に入った。

 継征は無言で拳を握ると天に向かって突き上げる。 深夜のテンションの所為か逸子にはそれが妙に神々しく見えた。


 「お疲れ様! やったねお兄ちゃん!」

 「疲れた。 ただただ疲れた。 明日は学校だし、もう寝る」

 「お風呂は?」

 「朝になったら入るから今は寝かせてくれ」


 継征はそれだけ言うとベッドに倒れ込んで寝息を立て始める。

 逸子は軽く後片付けをすると力尽きて眠る継征に布団をかけると小さくお休みと言って部屋を後にした。 

 

 

 月曜日。 シャワーを浴びてすっきりした継征は小さく欠伸をしながら登校していた。

 歩いていると後ろから声を掛けられる。 振り返ると藤副だった。


 「おはよー。 今日は早いじゃん」

 「まぁ、色々あってな」

 「そういえばこの間、買った奴はどこまで進んだ?」

 「終わったよ。 テストあるから手を付けるのは先になると思うけど逸子の奴が欲しかるから仕入れにはいくと思う」

 「いや、前から思ってたけど消化ペース早くない?」

 「空いた時間の全てを費やしてるからな」


 隣に並ぶ藤副に継征は肩を竦めて見せる。


 「で? どうだった? 感想を聞かせてよ」

 「あぁ……」


 継征はぼんやりと激闘の記憶を思い出す。 まずは逸子のプレイしたゲームだ。 

 ギュードゥルン。 ピンク多めの表紙にややいかがわしい雰囲気を漂わせていたが、ストーリー内容は現代社会ならではのストレスに苦しむ者達を形はどうあれ開放するといった事とヒロインであるギュードゥルンとの関係性の二つに軸を置いており、並行して進める事でプレイヤーの興味を途切れさせない工夫がされていた。 


 アクションパートに関しても極端な難易度にはしておらず、ストーリーをスムーズに進めさせたいといった意図が見える。 ストーリーがどの程度刺さるかにもよるが、気に入ったのなら充分に良作と言っていい完成度だった。 少なくとも継征にとっては素直に面白いといえる名作だ。


 ただ、マルチエンディングの弊害かフラグの管理が複雑なのでエンディング回収作業がやや面倒だったといった欠点こそあるがトロフィーコンプを狙わない限りはそこまで気にならない。

 バッドエンドやノーマルエンドは簡素な内容なので見なくても作品への理解はそこまで深まらない事もその一因だった。


 総評としては丁寧に作られた良作。 

 他にもゲームを出しているので機会があれば触ってみたいと思える出来だった。

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