第11話 三巡目、エンディングは網羅するもの

 学校、バイトと本日のイベントをすべて消化した継征は逸子とリサイクル店内、ガチャの前に居た。  逸子はこれからどんなゲームを引き当てる事ができるのかとわくわくしており、その姿を見て継征は苦笑。


 「よーし、今日も面白いゲーム引き当てるぞー!」

 「はいはい、分かったからさっさと引けって」

 「なんだよー、ノリが悪いなぁ……」

 「その代わりちゃんと最後まで付き合うぞ」

 「お兄ちゃんしゅきぃ……」


 そんな小芝居を交えつつ、二人はガチャを引いてレジへ。

 

 「あ、笑実ちゃんだ! こんばんは!」

 「はいこんばんは。 今日は何を引いたのかな~。 ほれほれ見せてみなさい」

 「どうぞどうぞ」


 逸子から引換券を受け取った藤副が番号を確認してカウンターの奥を漁る。


 「えーっとまずは逸子の当てた奴はあ、これだ。 一本目『謀略』? なんだろこれ? えーっとリアルタイムストラテジーってジャンルのゲームみたいだね。 うはー、なんか難しそー。 もう一本は『ギュードゥルン』? うーん知らないな。 えーっと、アクションアドベンチャーって書いてあるけど、良く分からない。 終わったら感想教えてね」

 「俺の方は何だった?」

 「ん~。 沿道の方は――『十柱戯じっちゅうぎ』? ボウリングのゲームみたい」

 「これまた斜め上なのが来たな。 もう一本は?」

 「『麻將』、ん~、マージャンのゲームみたい」

 「……マジかよ。 俺、ルール知らねぇんだけど……」

 「ま、頑張りなさいな!」


 藤副に見送られて帰宅し、そのまま継征の部屋へ。

 

 「最初に言っておくが、今日は月曜日だ。 だから週末のような無茶なプレイは厳禁。 つまり今日はさっさと――」

 「どっちからやる?」

 「……お前、俺の話、聞いてたか??」

 「うん。 早めに切り上げなさいって話でしょ?」

 

 継征は小さく溜息を吐くと逸子の持って帰ってきた二本のソフトを確認。

 謀略はリアルタイムストラテジーと言っていたので、手が離せなくなる時間は長いが、ゲーム自体のボリュームはそこまでではないような気がする。 この手のゲームの傾向的に比較的、クリアは容易なタイプだろう。 もう一本のギュードゥルン。 こちらは明らかにストーリーに重きを置いているタイプだ。 時間はかかりそうだが、細かくセーブが出来そうなので切り上げやすいこちらにするべきだろう。


 「こっちのギュードゥルンってやつにしろ。 時間が来たら即、セーブして明日だ。 いいな?」

 「はーい」


 食事、入浴、翌日の準備を済ませ、逸子は風呂上がりのフルーツ牛乳をぐびぐびと飲んでからゲームを起動。 プレイを開始する。

 ゲーム名はギュードゥルン。 内容は冴えない青年が夢魔であるギュードゥルンと出会う事で物語が始まる。 主人公はギュードゥルンの蠱惑的な美しさに惹かれるが、それは彼女の持つ魅了の力によるものだった。 


 偽りの愛に狂った主人公が彼女為に様々な事を起こす。 それがこの話の大筋だ。 

 ゲームとしては大きく二パートに分かれており、ギュードゥルンは特定の相手に夢を見せる事でエネルギーを吸い上げる事ができる。 だが、人間の夢には無意識で外部からの干渉を阻む機能が備わっており、主人公はギュードゥルンの能力で対象の夢の中に潜り、彼女の障害となるものを取り除いていく。


 最初のパートはターゲットを探す事だ。 ギュードゥルンの吸精は悩みや苦悩が深く、大きいほどにいいらしく、主人公はその条件に合致する人物を捜し歩く事になる。

 発見した後は報告して、その夢にダイブ。 ここからがアクションパートだ。


 ターゲットの精神を象ったダンジョンから様々な手がかりを集め、精神を覆う殻を剥がせばクリアなのだが――

 

 「はい、そこまで」

 「えぇー! もうちょっと!」

 「もう日付が変わってる。 約束だろ?」

 「……はーい」

 「また明日な」


 渋々といった様子で納得した逸子が引き上げた所で今日はお開きとなった。


 

 「――へぇ、じゃあギュードゥルンから始めたんだ?」

 「あぁ、クリアのハードル自体は謀略の方が下だとは思ってるけど、あれは止め時の見極めが難しそうだったからな」


 翌日。 学校の教室で継征は藤副に昨日の話をしていた。

 

 「あのギュードゥルンってゲーム調べたんだけど凄いね」

 「あぁ、俺もさっきちらっとだけど見た」


 某通販サイトやゲーム専門のレビューサイトを見るとあのゲームは非常に評価が高い。

 グラフィック、システム、そしてシナリオ、その三つが高水準で纏まっている傑作だとあちこちで言われている。 


 「ただ、トロコン目指しているならちょっとしんどいかもね?」

 「あぁ、それも知ってる」


 クリアではなく目標はトロフィーコンプなのだ。

 ギュードゥルンのトロフィーリストを見れば達成の困難さ――この場合は面倒さと言い換えてもいい。

 「~のエンディングを見る」といった項目がずらりと並んでいるのだ。


 このゲームはマルチエンディンを採用しており、その数が非常に膨大となっている。

 一周にどれだけの時間がかかるか読めない現状では何とも言えないが、これは長引くなと思っていた。

 そうなると自分の出番はかなり先か。 

 

 

 継征の予想は正しく、逸子はこのゲーム――ギュードゥルンに随分と苦戦をしていた。

 元々、長編のゲームなので時間がかかるのは当たり前だ。 

 人のプレイを後ろから眺めているのは嫌いではなかったので、攻略サイトを見ながら逸子にアドバイスをしつつゲームのストーリーを楽しむ。


 実際、話としては非常に面白いと継征は思っていた。

 偽りではあるが恋に落ちたとはいえ、他者の心を暴くような真似をしている行動はあまりよろしくない印象を受けるが、心の壁を取り払いターゲットの深層心理に触れる事で当人の悩みを結果的に解決したりしているので思った以上に不快感がなかった。


 レベルやステータスの概念がないのでレベリングの手間も要らない事も没入感を高めてくれている。

 平日はそんなに時間が取れないので少しずつストーリーを進めていき、最後には真実の愛に目覚めてギュードゥルンと結ばれ、その能力を生かして探偵事務所を開いてエンディングとなった。


 最初のエンディングに辿り着いた頃にはすっかり週末になっており、逸子はやり遂げたぜと言わんばかりにふいーと息を吐く。 

 取り合えずエンディングを見たので次は地獄のトロフィー回収作業だ。


 果たして土日で片が付くのだろうか?

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