第10話 作って遊ぼう!+二巡目総評 

 「お兄ちゃん。 早くしてよ!」


 隣で逸子が早くしろと催促する。 それに継征は応えず画面を睨んでいた。


 「いや、このスパイク付きタイヤとサスペンションのどっちを買うかでな……」

 「どっちでもいいよ! 適当に付けて残った方は後で買えばいいじゃん」


 トイカート。 最初はちょっと遊べそうだなと思っていたが、継征との相性が良かったのか彼はカートのカスタマイズに夢中になっており、中々進んでいなかった。

 これは彼自身も意外だったようで、プレイ中に内心で俺はここまで凝り性だっただろうか?と首を捻る。

 

 このゲームにおける創作の自由度はかなり高く、弄っていて非常に面白かったのだ。

 それ以外に関しては特に複雑な事はない。 レースに出る、金が入る、その金でパーツを買う。

 この繰り返しだ。 コースを自作し、それがシステムに査定され、高難度のコースと認定されればレースを行った際に発生する金額が増える。 それだけのゲームなのだが、意外にも中毒性が高く、非常にプレイしていて楽しかった。


 逸子も何だかんだと文句を言いながら楽しんでいる様で二人でコースを作ったりカスタムしたカートについてあれやこれやと言い合っている内にトロフィーは埋まり――


 「あ、トロコン達成したっぽいね」


 ――気が付いたら終わっていた。


 「いやぁ、面白かったね! よし、明日になったらまた買いに行こうね!」

 「金曜の夜からだけど、実質二日とちょっとで四本片付いちまうとは思わなかった」

 「これはわたし達の腕が上がっている証拠なのでは?」

 

 継征は苦笑して言ってろと返しながら、今日はさっさと寝るぞとお開きにした。

 

 「明日、また買いに行くからね!」

 「学校あるから本格的なプレイは週末だからな」

 「分かってるって!」


 こうして二巡目のプレイは終了し、兄妹は更なる戦いに備えて英気を養うべく眠りについた。



 翌日、しっかりと睡眠時間を確保できた継征は軽快な足取りで学校へと向かう。

 席に着くと既に来ていた藤副が教科書を鞄から取り出していた。


 「お、沿道じゃん。 先週よりは顔色よさそうだね。 早めに切り上げたの?」

 「いや、早めに片付いたからさっさと寝たんだよ」

 「へぇ、じゃあアレ全部終わったんだ? エコーどうだった?」

 「あぁ、面白かったぞ。 演出の上手さを見たな。 セリフ、あんなに少ないのに動きと雰囲気だけであれだけの情報を見ている方に与えてくるのは素直に凄いと思った」

 「でしょ? なーんか見ててすっと入ってくるんだよね。 で? で? こないだ買ったゲームはどうだった?」

 「そうだな――」


 継征は先週買ったゲームの詳細を思い出す。

 まずはピュア@ラバーズ。 シナリオライター七人が織りなす悪魔合体シナリオによる整合性の崩壊。

 共通部分から個別ルートにおけるヒロインの性格の変遷はとにかく酷いの一言。 


 最終的には主人公に惚れるような構造になっているのは理解しているが、過程が一切理解できない変遷には違和感しか覚えない。 何も考えずにこのキャラ可愛いぐらいに思えれば楽だったのだが、継征も逸子も内容をしっかりと読み込んだので違和感によって言いようのない気持ち悪さしか覚えなかった。


 極めつけは主人公のキャラクター性が最後まで掴めなかった事だ。

 この手のゲームの主人公はプレイヤーの分身としての側面を強くする為か、特に恋愛を前面に押し出すタイプは主人公の個性を排除する傾向にあるものが一定数存在する。 前回にプレイした風雅は伝奇ものというストーリーに重きを置く分、主人公に個性がしっかりと存在したのでジャンル的に例外だろう。


 ピュア@ラバーズも個性を除く類かと思ったが、やたらと意味不明な自己主張を繰り返すので共感も出来ずにノイズとして存在し続けていた。


 以前に触れた通りライターによってキャラ付けが違うので個別ルートに入ると完全に別人へと変貌する。

 共通ルートでは地の文で叫んだり吠えたりしているのに、特定のヒロインの個別ルートに入るとクールキャラに変貌したり、気障なセリフを連呼する良く分からないキャラになったりと安定以前にどこに軸を置いているんだと突っ込みたくなる。 総評としては別の話を無理やり繋げたキメラ。


 「おぉう。 そんなに酷かったんだあれ」

 「特に逸子の拒否反応が凄くてな。 興味あるなら貸すぞ」

 「いや、遠慮しとく」

 

 ワールドドライブ:チャンピオンズリーグ。

 本格レースゲームを謳っているがバグ技を使わないとまともに勝てないバランス崩壊ゲーだった。

 プレイヤーは地形の影響を受ける事に対し、NPCは全く受けない点も理不尽を感じる一因だ。

 

 それもそのはずでNPCは決まったルートを決まった速度で走るだけなので、タイムが一切変動しない。

 要はレースと銘打っているが競争でもなんでもなくプレイヤーが設定されたタイムを上回るだけのゲームなのだ。 それでも一応は勝てはするのでギリギリで成立はしていた。


 だが、最終ステージの世界チャンピオン。 あれだけはだめだ。

 プレイヤーに最後に立ちはだかる壁として設定したのだろうが、加減を一切していないので普通にやればまず勝てない。 実は頑張れば勝てるのではないのかと思って後で色々と調べたが、正規ではない何らかの手段で強化を施さなければ勝てない、クソゲー、ショートカットだけが唯一の勝ち筋。


 そんな意見しか見つからなかった。 念の為、動画も探しはしたが、明らかにチートイカサマして性能を限界突破させたマシンで蹂躙している動画しか見当たらない。

 総評としてはバグ技前提で正規クリア不可能なクソゲー。


 「うわ、何それヤバ。 よくトロコンできたね」

 「言ったろ? バグ技使えば楽勝なんだよ。 ――終わった後、死ぬほど虚しかったけど」

 

 エコー。 何度も触れているが、元々前世代の機種対応ソフトとして売られていた物のリメイク版だ。

 その為、システム周りにはやや古さが目立つが、よく練られたゲームバランスと引き込むストーリーはプレイヤーの好奇心を掴んで離さず、最後まで興味を持続させる。 強いて難点を言うなら短さが気にはなったが、ここまで来ると粗探しに近い。 純粋に面白いゲームだった。


 「――でしょ?」

 「あぁ、マジで面白かった」


 最後にトイカート。

 コースを作り、カートを作って遊ぶ。 本当にそれだけのゲームだったが、自由度が高く作ったコースを作ったカートで走るのは純粋にわくわくした。 そう言った意味では非常に楽しめたゲームだ。

 それ以外に何もないが、刺さる人間にはとにかく刺さる。 


 「へー、外れっぽい雰囲気だったけど意外に良かったんだね」

 「あぁ、すっげー面白かった」

 「で、今夜辺りにまた買いに来るの?」

 「そのつもりだ」

 「今日は居るから何を引くか楽しみにしてるわ」


 そこまで話した所でちょうど予鈴がなったので話はここでお開きとなった。

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