第13話 慣れないとマルチタスクは難しい

 「さて、お兄ちゃんはゆっくり休んででくださいな。 今度はわたしが頑張るよ!」


 十柱戯が終了した事でプレイヤー交代。 逸子は残った『謀略』を起動させる。

 

 「リアルタイムストラテジーってやった事ないんだけどどんな感じのゲームなの?」

 「俺もあんまり触った事のあるジャンルじゃないから詳しくは知らんが、ターン制みたいな感じじゃないから結構忙しいらしいぞ」

 「ふーん? まぁ、やってみれば分かるかな」


 謀略。 第二次世界大戦など、過去に起こった戦争、戦場を再現したフィールドで片方の軍を操作して勝利を目指すというものだ。 リアルタイムストラテジーと銘打っているだけあって非常に忙しい。

 配置された戦車や戦闘機に細かく指示を出して戦わせなければならないからだ。


 融通がまったく利かないので、指示を出さないと一切動かないのでとにかく自軍の戦力に常に仕事をさせる事を意識した立ち回りが要求される。


 「む、難しい。 え? ぎゃぁ!? 戦車隊がやられてる!? え? 戦闘機なんで戻ってきてるの? 燃料切れ? あぁ、歩兵違うそこじゃないから! ああああ、分かんない! 分かんないよ~! お兄ちゃ~ん」


 逸子は頭を抱えてのたうち回る。 その様子を見て継征は苦笑。

 元々、逸子はマルチタスクには向かない性格をしているのでこの手のゲームは鬼門といえる。

 

 「取り合えず、落ち着け。 多分だけど敵の行動はパターン化しているからそれに合わせて落ち着いて行動させるんだ。 無理に全部動かそうとせず、必要な分を必要なだけ動かす事を意識しろ」

 「分かんないよ~」

 「……見落としがあったら声かける」

 「ありがと! 頑張るね!」


 縋るような眼差しを向けてくる逸子に継征はやや呆れた様子で頷く。

 

 「取り合えず戦車を前に出して戦闘機は弾薬と爆弾を使いきったらすぐに補給に戻す。 行って帰ってくるぐらいでいいかもな」


 継征は攻略サイトを確認しながら逸子がちゃんと処理できるように一つずつ順番に指示を出す。

 配置された戦力は無限に戦える訳ではなく、残弾と燃料の概念が存在し、前者は使い切ると攻撃ができなくなるので的としてその場に留まるだけになる。 後者がなくなると完全に動けなくなるので前線で立ち往生するともうどうにもならない。


 消耗した戦力を復帰させる為には補給部隊を派遣し、弾と燃料を補給する必要がある。

 耐久が低く、攻撃手段がないので本陣の奥に配置して消耗した味方を戻して運用するのがセオリーだ。

 ただ、動けなくなった味方を復帰させたいなら直接向かわせる必要がある。


 後はいかに無駄を削ぎ落して敵の戦力を効率よく撃破できるかだ。

 その辺を押さえておけばこのゲームをクリアする事は充分に可能だろう。

 ――が、トロフィーが欲しいならもう少し必要になる。


 調べた限り、戦力の損耗を一定以下に抑えて勝利、一定時間以内に勝利などなど。

 最も酷いのは損耗率ゼロでの勝利だ。 比較的簡単なステージではあるが、ノーミスでの勝利を要求するのは中々に酷な話だった。


 「戦車、そろそろ弾切れるから下げろよ。 戦闘機の燃料大丈夫か? 歩兵、動いてないぞ」


 あわあわ言って必死にコントローラーをカチャカチャと弄る逸子に継征は順番に指示を出す。

 継征は我ながらウザい指示厨みたいな事やってるなと思いながら、あれしろこれしろと指示を出していた。 これ、もう俺がやっているようなものじゃないかと思いながらも指示を出す事は止めない。


 取り合えず要らないと言われるまではやり続けようと決めていた。

 その甲斐あってか逸子はどうにか勝ち続け、数々の戦場を渡り歩く。

 割と順調に勝利を重ねてきた逸子だったが、全体の半分を消化し、後半戦に突入するのだがここから雲行きが怪しくなってきた。


 何故なら後半は今まで戦ってきた戦場を敵対勢力目線で戦う事になるからだ。

 前半は史実通りに勝つ側の話なので、苦労こそしたが少々甘くても勝てはした。

 だが、負ける側を勝たせる場合はそうもいかない。 作った側もそう考えていたのが戦力差がとんでもない事になっており、少しでもミスると即全滅に繋がる。


 「あ、あぁ……」


 逸子が絶望的な声を上げる。 途中までは上手くやれていたのだが、徐々に押し込まれて一角が崩れた時点でそのまま敵が雪崩込んで敗北。 それなりの時間をかけているが今の所、連戦連敗。

 後ろで指示をだしていた継征もここまで負けると流石に面白くない。


 「ぐぬぬ。 悔しい悔しい!!」

 「……逸子」

 「なに?」

 「ちょっと待て、動画とかでクリア法を調べ上げる。 確かこのステージはトロフィーの条件でもあったはずだから纏めていくぞ」

 「やだ、お兄ちゃん格好いい」

 「うるせえ。 このままやっても埒が明かないんだ。 お前も調べろ」

 「はーい!」


 二人は自力でのクリアを諦め、動画などの資料をかき集め、クリア方法を模索する。 

 敵の配置や行動パターンを可能な限り頭に入れ、最終的にはクリアした動画の動きをトレース。

 それでもミスが致命傷に繋がる危うい綱渡りだ。 広い視野が求められるこのゲームで他人の行動をトレースするのは思った以上に難しかった。 逸子は何度も敗北しながら「ぐぬぬ」と唸りながらも着実にクリアに近づき――ようやく。


 「勝ったぁぁぁぁ!」

 「時間はかかるがこの方法ならいけるな」 


 外を見るともう夕方だった。

 ほぼ一日使った形になるが、トロフィーはまだまだ残っているのだ。

 戦いはまだ終わらない。 



 謀略はトロフィーの取得条件こそ難しいが、ステージ自体はそう多くないので一つでも取れば進捗としては大きく前進する。 

 そして事前に調べ上げた上でクリア動画をトレースするやり方は二人にとってはこのゲームをクリアする最適解だ。 一つ一つ勝利を重ね、土曜日の深夜ついに――


 「終わったぁぁぁ!」


 謀略のトロフィーをコンプリートする事に成功した。

 逸子は疲れ切った表情でベッドに倒れ込む。

 

 「お疲れ。 俺も疲れたし、今日は寝るか」

 「うん。 あー、今回はただただ疲れたわ~」

 「そうだな。 取り合えず俺のベッドから出て部屋に戻れ」

 

 反応がない。 おいと声をかけるが聞こえるのは寝息だけだった。

 継征ははぁと小さく溜息を吐くと逸子に布団をかけ、ゲーム機の電源を落とすと逸子の部屋から毛布を持ち出し、それにくるまって床で眠った。

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