第22話 多々買わないと揃わない
「行け、行け、いっけえええええええええ!!」
それは魂の咆哮だった。 継征の叫びが伝わったのか彼の操る選手のシュートが敵のゴールに突き刺さる。
同時に試合終了のアナウンスと勝利した事を示していた。
「――っっよっしゃぁぁぁぁ!!! うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! くたばりやがれ! このクソゲーが!! ざまあみやがれ!! 俺を舐めてるんじゃねーぞ!! やってやったぜ!」
画面端に複数のトロフィー取得条件を達成した事を示す表示が現れ、達成率は百パーセント。
継征はこの地獄のようなサッカーから抜け出す事に成功したのだ。
語彙力を失った継征はひたすらにウイニングストライカーⅡをこき下ろし勝利の喜びを全身で表現していた。
しばらくの間そうしていたが、やがて気が済んだのか大きく肩を落とす。
その顔には疲労が張り付いており、もう寝たいといった様子がありありと見て取れた。
「あぁ、疲れたマジで疲れた。 今日はもう寝ていいか?」
「や、まだ寝るには早いよ。 しばらくはお兄ちゃんの出番はないし、わたしのプレイを見ててよ」
「……はぁ、ちょっとだけだからな。 寝落ちしても怒るなよ」
「わーい。 今日はちょっと触るだけだから」
継征からコントローラーを受け取った逸子がソフトを交換。
起動するのは『絶界―運命の切り札―』実在するカードゲームをストーリーを進めながらプレイする形式だ。 この手のカードゲームでは大会が開かれるぐらいには知名度も高く、たまにCMも見るので継征から見れば人気なのだろうといった認識だった。
ストーリーを進めていくタイプだからストーリークリアとカード集めがトロフィーの取得条件だろうとと勝手に当たりをつけていたのだが――
「あれ? 何これ?」
――その思考は逸子の呟きでかき消された。
「どうした?」
「いや、これ見て欲しいんだけど……」
歯切れの悪い逸子の様子にやや訝しみながらコントローラーを受け取ってトロフィーの取得条件リストを確認する。 ストーリーを特定の場所まで進めると取得、カードを一定数集める。
この辺りは予想通りだ。 特に問題ない内容なのでなにが気にいなるんだとスクロールしていくと、一番下で固まっている項目で手が止まる。
特定の名称のカードを入手すると書いてあった。 それが十種類。
継征はこのカードゲームに詳しくないので名称を並べられてもピンとこない。
だが、わざわざトロフィーの取得条件に設定する程のものなのだからRPGにおける伝説の武器のような扱いなのだろうか?と首を捻る。 逸子が妙だと思うように継征も少しだけ気になったのでスマートフォンでざっと調べると――さっと血の気が引いた。
このゲーム『絶界―運命の切り札―』には別売りの追加ディスクが存在しており、紙のカードとゲームで使えるカードの両方が手に入るとの触れ込みで売っていたのだ。 その数、なんと十種類。
「おいおい、冗談だろ? これ全部揃えないとトロコンできないのかよ」
「そ、そうみたいだね。 わざわざ、取得条件に入手って緩い条件にしているのもそれが理由みたい」
継征はマジかよとスマートフォンで軽く調べると確かに別売りの追加ディスクが十種類売られていた。
表向き興味を持続させる事が目的なのだろうが紙との抱き合わせ商法なのは明らかだ。
「これはトロコンは無理――」
「ねぇそれっていくらぐらいするの?」
「……は? お前、まさか買うつもりか?」
「でも買わないとトロコンできないんでしょ?」
何を言っているんだと言わんばかりの妹の態度に継征は溜息を吐きながら通販サイトを軽く調べる。
価格はかなり昔の品だけあって場合によってはプレミアがついているんじゃないだろうなと軽く疑ったが、どれも投げ売り同然の価格だった。 全部買ってもそこまで財布に負担はかからないだろう。
加えて追加ディスクを最初に入れておくと序盤から有利にゲームを進める事ができる。
特に一部のカードは今でも通用する極悪コンボのパーツが混ざっているらしい。
逸子もスマートフォンで軽く調べたのか、明らかに興味がある様子だった。
――こいつ。
継征は意図にすぐ気が付いた。
恐らくトロコンにかこつけて課金し、楽にクリアしようと目論んでいるのだ。
「ねぇお兄ちゃん。 今からリサイクル行って買いに行こ?」
「言うと思った。 明日で良くないか? 俺、ワールドカップで優勝するのに力を使い果たしたよ」
「い・い・か・ら」
これは抵抗しても無駄かと継征は小さく溜息を吐いた。
――で、今に至る。
場所は変わってリサイクル。 藤副は事情を聞いてちょっと待っててねとタブレット端末を取り出す。
「ちょーっと待っててね。 えーっと、絶界の追加ディスクは――あ、あるね。 Vol.1と3、4、7、8、9は在庫があるよ。 ただ、残りの2、5、6、10はないっぽい。 そっちは通販サイトか何かで探した方がいいと思う」
「ちなみに値段ってどんなものだ?」
「バラつきあるけどそこまでじゃないね。 一番安いので百五十円、一番高いのでも五百円ってところね。 ただ、紙のカードが付いてるやつだとゼロが一つか二つ増えるっぽい」
「どちらかというとそっち目当てで売れた感じか」
「そうだね。 当時はカード単品でいい値段したみたいだけど、今だったらちょっと高いぐらいかな? 同じカードが後でパック収録で再販されたから、そのタイミングでガクっと値段が落ちた感じだね」
藤副がタブレットを操作してそう答える。
「なるほど。 取り合えずある分を全部くれ」
「ほいほい、毎度あり。 えーっと物は倉庫かな? ちょっと探してくるから待っててねー」
店の奥へ引っ込むんでしばらくすると箱を抱えて戻ってきた。
「一応、確認してね。 追加ディスクの1、3、4、7、8、9の六本」
「あぁ、確かに」
継征は会計を済ませると半分を逸子に持たせて店を後にする。
残りは自分で持ち、空いた手でスマートフォンを操作。 残りの四本をネットで注文する。
「明日には届くらしいから取りあえずは今ある分で我慢しろ」
「うん、分かった! ありがとね!」
正直、無駄な買い物をした感が半端なかったが、ニコニコと上機嫌な逸子の笑顔に継征はまぁいいかといった気持ちになった。
取り合えず俺はプレイしないし気軽に後ろで見ているかと思いつつやや早足の逸子に追いつくべく継征は進む足を早めた。
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