第23話 デュエルの時間
絶界―運命の切り札―。
元々、トレーディングカードゲームだったものがアニメ化し、そのストーリーをゲームにしたこのがこれだ。 その後も数々のアニメ、ゲームを出し続けているので成功しているコンテンツといえるだろう。
さて、このゲームの難易度は果たしてどの程度のものなのだろうか?
少なくともルールを把握していなければ話にならないのは分かるが、それに関してはチュートリアルを突破すれば流れ自体は覚えられるだろう。
チュートリアル終了後はスターターパックを入手してそこからデッキを構築していく――はずなのだが、追加ディスクを入れていると最初から強力なカードを入手した状態でスタートできる。
それ単独だとそこまで使える訳ではないが、既に半分以上の追加ディスクを導入して複数のカードを手に入れている逸子は最初からかなりのアドバンテージを得ているといっていい。
「ドロー! この手札――おいおいこれじゃぁわたしの勝ちじゃないか」
――その結果がこれだ。
逸子はネットで調べたデッキレシピを参考に決まれば大抵の相手を瞬殺できる極悪デッキを構築していた。
実際の環境であるなら対抗手段がいくらでもあるコンボではあるが古いカードしかないこのゲーム内では防ぐ手段が限られており、人間ほど柔軟な対応ができないAIでは逸子の攻撃を跳ね除ける手段も持ち合わせていなかった。
「ふ、また勝ってしまったよ。 強すぎて笑うわー、いやーわたしって天才なんじゃない??」
「あぁ、はいはい」
課金して手に入れたカードの強さは凄まじく、始めたばかりの逸子ですら勝率は七割を超える。
残りの三割は手札事故による敗北だが、碌に使いこなしていない状態でこれだけ勝てるのはそれだけカードの力が強いという事だろう。 イカサマしている感はあったが、一応はルールの範囲内なので特に何も言わない。
ただ、ウイニングストライカーⅡで苦しみ抜いた継征としてはこんなヌルい方法で突破している逸子を見て甘えるなと言いたくなる気持ちもあったのだが、そこまで考えてもしかして俺はこの催しに毒されてきているのではないかと自分の思考が恐ろしくなった。
継征は狂ってきた自分から目を逸らす為にゲームについて考える事にした。
絶界―運命の切り札―。 絶界というカードゲームを題材としたシミュレーションだ。
アニメも定期的に放送されており、人気である事は継征も知っている。
ストーリーはアニメのダイジェスト版なので流れだけは分かるのだが、詳細はアニメを見ないと分からないようになっており、継征達のようにゲームから入ったプレイヤーには今一つ理解できない内容だった。 逸子は勝利を重ね、先へ先へと進んでいくので展開も早く、見ている継征としては完全において行かれた気持ちでストーリーを追いかけている状態だ。
取り合えずストーリー面では原作未履修では楽しめない。
次にカードゲームの部分はどうだろうか?
「破壊は免れたか。 だが、切れ味は受けて貰う!」
このカードゲームが好きな人間からしたらデッキ構築は楽しいのかもしれないが、パワーカードを用いて圧倒的な力で敵を屠る逸子を見ているとこれはこれで一つの楽しみ方かと変に納得してしまう。
ただ、後ろで見ている継征としては良く分からないストーリーと良く分からないカードゲームの対戦風景を延々と見せられるだけなのであまり面白いとは感じなかった。
手持ち無沙汰になっているのでスマートフォンでトロフィーの取得条件でも調べておくかと開くと――
「うわ」
思わず声が漏れた。 ストーリークリア、特定の敵に何勝するはそこまで難しくないだろう。
全てのカードを集める。 これもあるだろうなと思っていたので想定内だ。
後は追加ディスクを全て集めて特定のカードを揃える事。 これは明日には残りが届くので解決だ。
問題は残りだ。
この絶界というゲームには特定のカードを使ってあるコンボを決めると勝利する特殊勝利というものが存在する。 それを全種類達成する事や特定のカテゴリーのカードのみを入れた状態での勝利などなど。
複雑な条件のトロフィーがずらりと並んでいる。
これはもしかしなくてもヤバいのではないだろうか?
今はいい。 圧倒的な力で敵を叩き伏せ、ストレスなど発生しようもない状況だからだ。
だが、トロフィーの回収作業に入るとどうなるのか――
継征の嫌な予感は早々に的中し、ストーリーをクリアした逸子は最初こそトロフィー取得を軽く考えていたが、徐々にその表情から笑顔が消えていき、苛立ちが募り始めていた。
特殊勝利条件を満たせずにコントローラーを強く握り、軋むような音を立てる。
「あぁもう! 何でわたしに気持ちよくデュエルさせてくれないのよ!」
条件を満たせずに敗北した逸子は狂ったように頭をかきむしる。
この頃になるとストーリーを攻略していた頃に浮かべていた余裕は全て消え去り、表情には苛立ちだけが浮かんでいた。
「はぁ!? ふざけないでよ! インチキ効果も大概にしてよね!」
インチキ臭いカードを使いまくっていたお前が言うなと思っていたが継征は黙っていた。
文句を言いながらもどうにかトロフィーの回収は進んでいるが、条件を満たした上での勝利は非常に難しく遅々として進まない。 特にアドバイスする事もないので継征はぼーっと画面を眺めていたのだが、変化に乏しい環境は集中力を著しく損なう。 そして船を漕ぎ始め――
「――はっ!?」
気が付けば朝になっていた。
どうやらいつの間にか眠っていたようだ。 逸子も画面の前で力尽きて居る。
もう少し寝かせてやろうかとも思ったが、スマートフォンを見てさっと血の気が引いた。
今日は水曜日だ。
幸いにも早い時間で登校には充分に間に合うが、そろそろ準備をしておかないと不味い。
「おい! 逸子、起きろ! 平日だ。 学校! ヤバい!」
慌てているのは継征も同じで語彙力が大幅に低下していた。
「ドロー……モンスターカード……ドロー……モンスター――はっ!? え? 何? 何?」
「水曜だ! 学校! 準備、急げ!」
逸子は継征の言っている事を聞いて一気に目が覚めたのか時計を見て慌てて準備を始めた。
継征もこうしてはいられないと登校の準備に入る。
水曜の朝はこうして慌ただしく始まった。
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