第2話 妹が写真を撮って興奮し、兄はギャルゲーをした

 トロフィーとはゲームをどれだけやり込んでいるのかの指標として導入されているシステムだ。

 実績、アチーブメントとも呼ばれているが、要はすべて揃えるとそのゲームを一通り遊びつくしたといえる。 逸子が最初に選んだのは『アイドルグラビアVOL5』元々、アーケードゲームから様々なメディアミックスを経て成長した大人気コンテンツで、これはアニメのBDとゲーム、その他特典が詰まったファンなら大喜びの豪華仕様ではあるがゲームと括るにはやや疑問符が付く。 


 さて、肝心のゲーム部分だが、特定のキャラクターのモデル相手に撮影を行うといった簡素なものだった。

 ざっと調べると実績の解除条件は写真を撮るだけなので、難易度はあってないようなものだ。

 逸子はあまり触れてこなかったジャンルなのでほうほうと興味深そうに説明書を見ていた。


 「取り合えずささっと片付けちゃいましょうか!」


 ――といったのが三十分前。


 「おほー、可愛いよー! こっち向いてー! いい! いいよ、そのポーズ! なんか興奮して来たぁ! ち、ちょっと、ぬ、脱いでみようか?」

 

 そんな機能ねーよ。

 継征は内心でそう突っ込んだが、妹が楽しそうなので生暖かく見守っていた。

 さらに時間が経過し――


 「ふぅ、堪能した。 付属のBD途中の話なんだよね。 ネットで配信してたっけ?」

 「結構前の奴だから探せばあると思うぞ」

 「そっか、後で調べとこ」


 そんな会話をしながら継征は画面を一瞥すると全てのトロフィーが埋まっており、達成率百パーセントとしっかりと表示されていた。


 「ふう、最初視た時は前知識なしだから微妙かと思ったけど、何だかんだと楽しめたね」

 「そ、そうか」 

 「わたしは終わったからお兄ちゃんどうぞ!」

 「お、おう。 さーて、どっちにすっかなぁ」

 

 継征の目の前には二本のゲームソフト。

 少し悩んだが、簡単そうな方にすることにした。 

 『風雅』ノベルゲーム、所謂ギャルゲーと呼ばれる類のゲームだ。 ボタンを押してテキストを読み進めて完結まで行くという技量の類は一切必要としないゲームなのでトロフィーコンプはかなり楽な部類に入るだろう。 


 「あ、そっちにするんだー? ねぇ、それってエッチなやつ?」

 「だったらP3で出てねーよ。 出すんならPCでだな」

 「ふーん。 あ、調べたら十八禁版あるって!」

 「はいはい、十八になってからな」


 逸子と反応に困る会話をしながらゲームを起動。

 ジャンルこそギャルゲーと一括りにされがちだが、この手のゲームは様々なジャンルのストーリーを展開するので刺さるなら非常に楽しめる。 特にこの『風雅』というゲームは伝奇ものという事もあってよく練られたストーリーは二人を楽しませた。


 内容は用事で帰宅が遅くなった主人公が闇に紛れて戦う美少女と遭遇する所から始まる割とよく見る導入だったが、発売した時期を考えると当時はまだそこまで擦り倒されていなかったのかもしれない。

 継征達からしてもここまで直球な導入からのストーリー展開は一周回って新鮮だった。


 継征はふむふむとしっかりとストーリーを読み込み、自分なりに脳裏で先を予測したりしている。

 隣の逸子はヒロインに夢中のようで、このキャラを先に攻略しようと隣でやいやいうるさい。

 継征としては次もあるので効率よくクリアしようと逸子の要求を聞きながら、攻略サイトを確認してトロフィーを回収しつつ話を読み進める。 


 導入を越え、共通部分を通過すると話は一般人だった主人公が様々な異能や異能に触れる事を生業としている少女達と関わっていき最終的には恋愛に発展していく形に推移する。 共通シナリオからメインヒロインの個別ストーリーは非常に楽しかった。 ただ、メインではないヒロインのストーリーに関しては話の根幹からは遠ざかるのでやや蛇足感があるなというのが継征の感想だ。


 「……これ、メインの子最後にした方が良かったかもね」


 目をしょぼしょぼさせた逸子がそう呟く。


 「いや、お前がメインの子が気に入ったから最初にしようとか言い出したんだろうが」

 「はは、そうだっけ? まぁ、面白かったしいいじゃん」

 「あぁ、思ったより面白かったしいいか。 ――取り合えず、今日はもう寝るぞ」


 疲れた表情の継征は力なくそう呟く。

 ちらりと窓を見ると朝日が差し込んでいた。 ゲームを始めたのが先日の夜。

 つまり貫徹してしまった訳だ。 その甲斐あってか画面にはトロフィーコンプの文字。

 

 「いやぁ、長い戦いだったね。 取り合えず昼まで寝て続きね」


 逸子はシャワー浴びてから寝ると言ってふらふらと部屋から出て行った。

 

 

 継征も逸子と入れ替わりで風呂に入るとそのまま部屋で仮眠をとる。

 父親は単身赴任で家に居らず母親は放任主義なので事前に断りを入れておけば好きにしなさいと言われる。 そんな理由で二人は自由に遊べるという訳だ。


 日付が変わって土曜日。 バイトや他の用事もないので時間はたっぷりとある。

 疲労の為かベッドで横になるや否や早々に眠りに落ちたのだが――

 

 「朝だぞ! おっきろー!」


 叩き起こされた。 時計を確認すると眠ってから四時間しかたっていない。

 

 「あの……せめて昼まで寝かせてくれませんかね……」

 「何を言っているのだ兄よ。 戦いが待っているぞ!」


 何故、同じ時間に寝たはずなのにこうも回復力が違うのか……。

 逸子とは二つしか違わないのに十代でも二という年齢差はここまでの格差を生むのか?と眠気で濁った思考で意味のない事を考えつつ身を起こした。


 軽く食事を済ませた後、ゲーム機を起動。 

 開始前にトロフィーが埋まっている事を確認して逸子はご満悦だ。 

 

 「んじゃ次はわたしの番だね! えーっと『ナイツストーリー』だっけ?」

 「……そうだな」

 「どうかした? 何か歯切れ悪いけど?」

 「いや、まぁ、やれば分かる」

 「そう? じゃあ始めるね!」


 逸子は早速、プレイを開始した。

 ナイツストーリー。 主人公の騎士が攫われた姫を助けたりしつつ世界の謎などを解き明かして最終的に全てを救うといった王道ストーリーだ。 


 戦闘システムはコマンドを入力するタイプではなく、キャラクターを直接操作しての戦闘となるのでプレイヤー側にもある程度の立ち回りが要求される。

 この辺りは似たようなシステムに慣れた者ならそこまで難しいとは感じないだろう。


 逸子も苦戦しつつも徐々に慣れてきており、戦い方もだんだんと形になってきている。

 

 「へいへーい。 姫を助けるナイト様の登場だぜ! うらぁ、くたばれ悪党!」

 

 最初は「ちょ、なにこれ、無理~」「お兄ちゃん代わってよ~」などといった泣き言を漏らしていたが、三時間もプレイすればご覧の有様だった。

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