妹とゲームする

kawa.kei

第1話 ゲームを買いに行った

 春から夏に変わりかけているこの時期、空を見上げると日も暮れてすっかり辺りは薄暗い。

 沿道えんどう 継征けいせいはアルバイトでやや疲れた体を引きずって帰路を急いでいた。

 近所の高校に入り、変わった環境にも慣れ、面倒な中間考査を片付いので、しばらくの間はのんびりとした時間を送る事ができるだろう。 小さくあくびをしながら継征は自宅のあるマンションの前へ。


 エントランスホールに入ろうとするとそこには見知った顔があった。

 長い髪をお団子のように纏めた髪の少女で継征の姿を認めるとパッと笑顔になって手を振っている。

 

 「おーい! お兄ちゃんお帰りー!」

 「馬鹿、デカい声出すな。 ご近所さんに迷惑だろうが」

 

 継征はそう言って少女――沿道えんどう 逸子いつこにそういった。

 名前からも分かる通り、彼女は継征の妹だ。 この年頃になると兄妹仲はあまり良くない傾向にあるといった話をよく聞くが、何だかんだで二人は仲良くしている。

  

 逸子は現在中学二年生で、継征の二つ下。 仲自体は良いがここ最近構ってやれていなかったので、その埋め合わせを兼ねて二人でちょっと遊ぼうといった話になったのだ。

 

 「ふっふっふ。 我が兄よ、この修羅の門に逃げずに来るとは見上げた度胸よ」

 「お前こそ言い出したからには逃げる事は許さないからな」

 「勿論、お兄ちゃんがわたしに負けて泣く姿が目に浮かぶわー」

 「そういう趣旨の話だったっけ?」

 「まぁまぁ、雰囲気、雰囲気!」


 上機嫌な妹にはいはいと言いながらマンションの前を通り過ぎ、ある店へと足を向ける。

 母親にはメールを送って問題ない事を伝えて、目的地を目指す。

 ――とはいっても徒歩十分圏内なので、そこまで歩くことはない。

 

 「お、見えてきたねー。 これからわたし達の果てしないバトルの始まりだよー!」

 

 目的地は二階建ての大きな店舗で看板には中古ゲーム、漫画買いますとデカデカと記載されている。

 店名は「リサイクル」要は中古のゲームや漫画を売っている店だ。

 中に入ると中古店特有の空気に所狭しと並ぶ商品。 目当てのものは店の奥にあった。


 なんの変哲もないガチャだ。 P3ゲームガチャ。 一回二百円と本体に記されている。

 継征は逸子に最後の確認をする。


 「逸子、いいんだな。 こいつを回してしまったらもう後戻りはできないぞ」

 

 逸子は乗らずにポケットから財布を取り出そうとしていた。

 

 「おーい、ここは何か言う場面じゃないのかー」

 「そういうのいいから、で? どっちが先に回す? わたし? お兄ちゃん?」

 「……先どうぞ」

 「わーい!」

 「二個までだぞ」

 「分かってるって」

 

 逸子がガチャを回してカプセルを取り出す。 

 P3というのは有名なゲームハードで現行機は5なので二世代前の代物だ。

 その為、ソフトは非常に安く、このように投げ売り同然で販売されていた。


 嬉しそうにしている妹の次に継征もガチャを回してカプセルを二個手に入れる。

 それを持ってレジへ。 そこには店員が居たが、見覚えのある顔だった。

  

 「あ、笑実ちゃんだー。 おーい!」

 「おー、逸子じゃん。 おーい!」


 逸子にそう返したのは同じクラスの藤副ふじぞえ 笑実えみだ。

 よく会うのですっかり顔見知りだ。 ここでバイトしているのは知っていたが、今日入っているのは知らなかったので少し驚いた。


 「おっす沿道。 バイト帰り? お疲れー」

 「そっちもな。 取り合えず、向こうでガチャ引いてきたから交換頼むわ」

 「はいはい、えーっと、逸子ちゃんが39番と22番、沿道が11番と25番ね。 えーっとどれだったかなぁ……」


 藤副はカウンターの奥に引っ込むとごそごそと何かを漁る。

 

 「あぁ、あったあった。 どうする? 帰ってからのお楽しみにするならこのまま袋に入れちゃうけど?」

 

 継征はどちらでもよかったので逸子に視線を向けると妹はちょっと悩んだ後、気になるから見せてと包むのを拒否した。 


 「はいはい。 んじゃ先に逸子の分だけどこれ、『アイドルグラビアVOL5』あーアニメの奴だね。 ってかこれゲームカテゴリなんだ。 二本目が『ナイツストーリー』ロープレ。 で、沿道の方は――『機界戦記』有名シリーズだ。 後は『風雅』んー? ギャルゲーだね」

 

 逸子は思ってたのと違うといった表情をしていたが、ルールはルールだ。

 取り合えずこの四本で始める事となる。 

 

 

 「さて、先攻と後攻を決めようかと思います!」

 

 場所は変わって沿道家。 二人は継征の部屋にいた。

 部屋の真ん中にはやや大型の液晶テレビ。 そして既に起動を完了したP3のハード。

 二人の手元には先ほど購入した四本のゲームソフト。


 継征はどちらでもよかったので好きに決めていいぞというと逸子はじゃあ先攻と即答。

 それに苦笑。 逸子は二本のゲームソフトを見て――


 「よし! これにする!」

 

 片方を選んだ。 パカリとケースを空けてディスクを挿入。

 駆動音と共にゲームが起動する。 


 「さぁ、トロフィーコンプするまで終わらないゲーム大会、始まるよー!」


 逸子の宣言と共に画面にメーカーロゴが浮かび、継征と逸子の他を巻き込んだりする果てしない戦いが始まった。



 ――と、随分な前置きをしたが、これは継征と逸子が遊ぶならガチでやろうと二人で決めた事だった。

 やるなら本気でという事で明確なルールを決めようと二人で相談した結果だ。

 ゲームをするのは早い段階で決まっており、ちょうど親戚が古いP3を譲ってくれたので初期化して使おうという事になった。 最後にリサイクルでP3ガチャがあったのでそこでソフトを調達しようという事で大まかな部分は決定。 


 狙ったタイトルにせずにガチャにしたのは何が出るか分からない方が面白いと思ったからだ。

 ルールは単純で先攻後攻を決めて順番にゲームをプレイ。

 ・メインでプレイするのは引いた当人。 

 ・クリア条件はトロフィーコンプ。 例外として終了したオンラインサービスなどに絡んだものは対象外とする。

 ・二人以上でのプレイが可能なゲームは相手に協力を求めてもいい。

 ・終わったら交代して次のゲームに入る。 


 ――というのが二人で決めたルールだ。

 状況に応じて変えたりもするのでそこまで厳格な物でもない。

 元々、楽しむ為の催しなので、それができないなら本末転倒だ。 


 そんな訳で二人は記念すべき最初のゲームに挑戦するべく、画面を注視した。

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