第17話 世界の壁は厚い

 ウイニングストライカー。

 パッケージデザインからも分かる通り、サッカーをするゲームだ。

 ざっと見た限り、三つのモードから選んでプレイする。


 一つはサクセスモード。

 日本代表チームの監督として有名選手達を率いてワールドカップに挑む内容となる。

 定期的に出すだけあってこの辺りのシステムはある程度完成されていた。


 最初は自動生成されたモブみたいなキャラクターを育てて、練習試合やトレーニングメニューをこなす。 練習試合の相手は実在する有名選手が混ざっており、勝利すると自分のチームに引き抜くことができるのだ。 そうやって自軍を強化しつつ世界を目指す。


 このサクセスモードはワールドカップを優勝すればクリアなので分かり易いともいえる。

 二つ目はオリジナルモード。 基本的な内容はサクセスと同じだが、対戦相手の人員がランダムなのでどんなチームと当たるか分からない。 こちらも勝てば相手チームから一人ランダムで引き抜ける。


 そうやって自軍の強化を行って、最後には究極のチームを作る事を目的としていた。

 最後はフリーモード。 これは全選手を自由にチームに組み込んで遊べる練習機能で、恐らくこれで操作を覚えつつ最終的に目指すチームを想定しなさいという事だろう。


 「ふーん。 取り合えずサクセスで世界一目指すぞー!」

 「まぁ、頑張れ」


 こうして逸子はサッカーで世界一になるべくサクセスモードでプレイを開始した。

 最初は自動で生成されたモブキャラチームでスタートなのだが、このモブキャラ名前を変える事もできる機能が付いている。


 「よし、こいつを世界一のストライカーにするよ! 名前は継征っと」

 「おい、俺の名前つけるの止めろ」

 「やだ。 お兄ちゃんはわたしと一緒に世界一を目指そうね?」

 

 少しの間、変えろ変えないで揉めた後、継征が折れてそのままとなった。


 ――で、その結果、どうなったかというと――


 「へいへい、お兄ちゃん。 もっと頑張ろうぜ。 トレーニング追加ね!」

 「あー、お兄ちゃんはダメだなぁ。 それじゃあベンチにも入れないよぉ?」

 「お兄ちゃぁん。 そのシュートは外しちゃダメでしょ?」

 「いけ、お兄ちゃん。 行け行け行け――行ったぁぁぁ! お兄ちゃん初ゴーール!! やればできるじゃん!」

 「いやぁ、お兄ちゃんエースとしての自覚が出てきたんじゃない?」

 「ぎゃぁぁ!? ちょっとお兄ちゃん!? ちゃんとパスカットしなさいよ!」

 「よし、抜けた。 行けお兄ちゃん! ここでシュート――あぁ、バカぁ何を外してんの!?」


 …………。


 ――逸子は継征に対してパワハラ紛いの育成を行い始めた。

 事ある毎にお兄ちゃんお兄ちゃんと連呼する逸子に継征は無言だったが、俺の番になったら絶対に同じ事をしてやると心に決める。


 さて、そんな一幕もあったがこのウイニングストライカーというゲーム。

 最初は日本国内で戦っていき、強いチームを倒して実力のある選手を獲得し、チームを強化して世界を目指すというものなのだが、ここで一つの欠陥とも呼べるものが浮き彫りになった。


 実在する有名選手はキャラクターとして非常に高いステータスをもっており、一部は最初からカンストしているのでトレーニングしてもあまり意味がないのだ。

 要は完成した状態で加入するので手間がかからないと言い換えてもいい。


 ――で、ここでサッカーというスポーツについてなのだが。

 サッカーは十一人でやるスポーツでベンチには十五人まで入れる。

 つまり最大二十六人までしか使用できないのだ。 ここでネームドの選手が入るとどうなるか?


 最初から育成していたモブが外れるのだ。

 試合数を重ねる毎に手塩にかけて育てたモブが消えていき、最終的にはネームドで席が埋まる。

 トレーニングをしっかりとすればモブでもネームドを押しのけられるのではないか?


 そんな疑問もあったが、モブとネームドではステータスの上限値が違うのでどう頑張っても勝てない仕様となっている。

 気が付けばモブがチームから徐々に消えていき、一番力を入れて強化した継征も気が付けばベンチを温めるだけになっていた。 逸子は最初は無理に使っていたが、最終的にはぐぬぬと言いながら諦めてベンチに送る。 それを見て継征は苦笑しつつ、ゲームの観察に集中。


 育成要素は終盤になるとほぼ無意味になる事は問題だが、理不尽な性能の相手と戦う訳ではないので今までにやったゲームと比較するとまだマシだと思っていた。

 

 ――ワールドカップが始まるまでは。


 国内で戦力を整えた後、満を持してのワールドカップだ。 

 サクセスモードだと外国の選手は引き抜けないので、チームとしてはこれで完成となる。

 しっかりとネームドで固めたチームは世界にも通用するだろうと思っていたのだが――

 

 「いやいやいや、何その動き?」


 最初の試合で逸子率いる日本チームはあっさりと負けた。 

 敵チームの動きは無茶苦茶だった。 それもそのはずでステータスを見れば日本チームのネームドより、上限値で更に上回っていたからだ。


 「ちょ、ちょっとー。 キャラ毎に上限値が違うのはまだ受け入れられるけど格差付けるのは違うでしょー!」


 逸子は文句を言いながらどうにかしようとしているが、単純にスペックで圧倒されるので普通にやって勝てるわけがなかった。

 きいーと叫ぶ逸子を尻目に継征は無言でスマートフォンを取り出し、ゲームの攻略サイトを開きどうなっているのかを調べる。 評判などをざっと調べると正攻法ではまず勝てないと前置きされた上で攻略法が記されていた。 流石に古いゲームだけあって攻略方法は調べつくされているようだ。


 ワールドカップの相手チームは意図的に弱点があってそこを突く形でないと勝てないようになっている。 要はその弱点を見つける事が勝利のカギという訳だ。

 守備に穴がある。 特定の位置からのシュートはブロックされ難い。 逆に特定のパターンでしか攻め上がってこないので連携を崩すなどなど――


 攻略サイトにはそれが事細かに記されていた。 


 「――らしいぞ?」

 「なんだかなぁ……」


 そう説明すると逸子は微妙な顔でそれを実行。 するとあっさりとはいかなかったが勝利を収めた。

 

 「ねぇこれって勝ち方のパターンがこれしかない感じ?」

 「一応、他にもあるみたいだが、数パターンみたいだな。 で、上に行けば行くほど減っていく」

 「……そ、そうなんだ。 まぁ、勝てるしいいか」


 そう言って逸子は思ったより早く終わりそうと呟きながらゲームを再開した。

 だが、彼女は知らなかった。 このゲームの真の恐ろしさと闇の深さを。

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