第16話 四巡目、ダブった時の絶望感は半端ない

 「試験勉強は大事! モチベーションを上げる為に新しいのを買っておこう!」


 その日の夜。 継征は逸子に引っ張られてリサイクル店内に居た。

 

 「それはいいけどお前、マジでちゃんと勉強しろよ」

 「勿論、分かっていますとも!」


 基本的に母親は平均さえ下回らなければそこまでうるさくは言ってこないので、最低限の勉強をしていれば問題はないのだがゲームのプレイ時間を考えれば少し怪しい。

 表向き、継征が逸子を付き合わせている形になっているので成績が大きく落ちると自動的に継征の責任となってしまうのだ。 そんな訳で勉強に関してはややうるさくなる。


 「……分かっているならいい。 取り合えずさっさと引いてレジに持って行くぞ」

 「はーい!」


 レジに行くと知らない店員だった。 

 藤副は試験前という事でしばらくは勉強に専念するようで、期間中は休むと聞いていたので特に驚きはない。 ガチャで引いた引換券とソフトを交換し、そのまま帰宅する。

 

 取り合えず戦利品の確認という事で手に入れたソフトを並べた。


 「――まずは逸子の引いた奴だが……」


 一本目。

 『絶界―運命の切り札―』

 パッケージにはカードを構えた主人公らしき少年と背後には様々なモンスターが描かれている。

 

 「確かアニメとかもやってたな。 カードゲームの奴だ」

 「あー、CMで見た事があるかも。 詳しくは知らないや」


 裏を見るとカードゲームのシミュレーションだ。 

 紙だと相手を確保する問題があるのでこういったものは同じカードを集めている友人が居なくてもプレイできるので人によってはありがたいのではないのだろうか?


 「うーん。 なんだか時間かかりそう」

 「ざっとトロフィーの取得条件を見るとカードの収集があるから結構かかりそうだな」


 うんうんと唸りながらパッケージの裏を見ている逸子を尻目に二本目を取り出す。

 『ウイニングストライカー』 

 パッケージにはデカデカと有名なサッカー選手の姿が描かれていた。

 

 説明不要のサッカーゲームだ。 

 有名チームを完全再現! 君だけのオリジナルチームで世界を制せ! 裏にはそんな煽り文句がかかれていた。 


 「これはやってみないと何とも言えないな。 さて、次は俺の引いた奴だが――」


 ゴソゴソと袋を漁る。 

 今回は藤副が居なかったので中身を見ずに袋に入れて貰っていたので継征も中身を知らない。

 前の二つよりはマシな奴をやらせてくれよと祈りながら取り出したのは――


 『ウイニングストライカーⅡ』

 

 「……嘘だろ」


 思わずそう呟く。

 既視感を覚えるパッケージに裏には前作よりボリュームアップの煽り文句。

 ざっと見た感じそこまで大きく変化したように見えない。 それもそのはずだ。

 

 このゲームの発売日は前作の九か月・・・後。 一年足らずでどうやって進化しろというのだ。

 いや、それ以前に何故こんな短期間でリリースしているんだ? さっぱりわからない。

 若干、ショックを受けてやや動揺した継征だったが、ソフトはも一本あるのだ。


 そこで名作を引いてバランスを――


 『ウイニングストライカーⅡ』


 ……………………??


 継征は見間違いかと目をこすってみたが、何度見ても全く同じソフトだった。 

 

 「おいおい、冗談だろ……」

 「うわ、まったく同じソフト。 これは酷い」

 

 流石の逸子も軽く引いていた。 

 ランダムである以上、こうなる事はあり得なくはないが実際に遭遇すると思った以上にダメージが大きい。 無駄な買い物をしたという徒労感が凄まじいのだ。


 「い、いやぁ、テスト後はサッカー三昧だね!」

 「……あぁ、そうだな」


 以降会話がまともに続かず、逸子はテスト勉強の為に部屋に引っ込んでいった。

 継征も現実逃避も兼ねてテスト勉強に打ち込み、まったく同じソフトが二つある事実から目を逸らす。

 それから試験期間が終了するまで、継征も逸子も勉強に集中し、無事にテストを乗り切った。


 期間中、何度か逸子が息抜きに何かやる?と誘ってきたが、一週間ほどだから我慢しろと突っぱねる場面が何度かあったが特に問題は起こらず日々は過ぎ、暦は七月へと切り替わる。

 

 テストが終わり、用紙の回収が済んだ後、後ろから小さく肩を叩かれた。

 振り返ると藤副だったので継征はなんだ?と視線を向ける。


 「テストお疲れ。 それで、今晩辺りにまた買いに来る感じ?」

 「いや、期間中に買うだけは買ってある」

 「あ、そうだったんだ。 どんなの引いたの?」

 「……妹はカードゲームとサッカー」

 「あー……もしかしてウイニングストライカー?」

 「知ってるのか?」

 「知ってるも何もウチの店、あのシリーズのソフト死ぬほど倉庫にあるからね」

 「そうなのか?」


 藤副は苦笑して少しだけ遠い目をした。


 「いや、ウイニングストライカーって結構、定期的に出しててさ。 発売までのスパンが短いから内容ってそんなに変わらないみたいなんだよ。 だから、新しいの買ったら古いのってすぐ売る人が多くてさ。 その結果、旧作の在庫が死ぬほど増えるのよ」

 「なるほど」

 「年末年始に旧作ゲームの福袋を作るんだけど、ここぞとばかりに入れてるらしいからね。 いや、そうでもしないと中々片付かなくて店長がいつも頭抱えてるみたい」


 ガチャで連続排出されるのも仕方のない話なのかもしれないが、同じソフトを掴まされるのはあまりいい気分ではない。 

 

 「まぁ、取り合えずさっさとクリアするよ」

 「そう。 私はやった事ないから片付いたら是非とも感想をくださいな」

 「あぁ、はいはい」


 スマートフォンを見ると逸子から早く帰って来いとメッセージが送られていた。


 「逸子?」

 「さっさと帰ってこいってさ。 じゃあ俺は帰るわ」

 「うん。 まぁ、頑張りなさいな」

 

 継征はあぁとだけ答えて帰宅するべく席を立った。

 


 「さぁ、試練を突破したわたし達は新しい戦いに行かねばならない!」

 「そうだな」

 「取り合えずウイニングストライカーをやろうと思うんだけどいいかな?」

 「いいと思う」


 場所は変わって継征の部屋。 

 帰宅するとお菓子やジュースを並べてしっかり準備を整えていた逸子に出迎えられ既に起動まで済んでいるP3には既にソフトが挿入されており、ボタン一つで起動するようになっていた。


 「よーし、サッカー頑張るぞー!」


 逸子はそう気合を入れるとコントローラーをしっかりと握りゲームを開始した。 

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