2023年6月3日の日記 甥っ子よ、おばちゃんは疲れました

 帰宅すると甥っ子が田舎の家特有のむやみに広い玄関で待っていた。


「おばちゃん! ただいま!」

「○○ちゃんはおかえりって言うんでしょ」


 甥っ子の言い間違いを正しながら三和土を歩いて靴を脱ぎ、上がり框に足をかけようとすると、甥っ子は「おかえりおかえりー!」と大はしゃぎだ。嬉しいが今日のおばちゃんは疲れていて若干体調が悪いのだ。少し部屋で休ませてもらう……と思ってリュックサックを持って歩き出す。


 すると甥っ子が五人ほどわらわら出てきた。


「おばちゃんおかえりー!」

「おかえり!おかえり!」

「これから何するの?」

「お着替えするの?」

「何のお洋服にするの?」


 五人の同じ顔をした甥っ子は、それぞれ好きなように私に話しかけ、五人とも私にまとわりついてくる。先程も言ったが私は今日調子がよくない。部屋へ……。


 すると部屋へ向かう階段の手前から甥っ子が十人出てきた。


「おばちゃーん」

「遊ぼう!」

「遊ぼ遊ぼ!」

「○○ちゃんおばちゃんとタブレット観たい!」

「○○ちゃんおばちゃんの小さいタブレット観たい!(電子書籍リーダーのこと)」

「タブレットでペネロペ観よ!」

「ペネロペのお人形で遊ぼ!」

「ペネロペの布絵本買ってもらったの!」

「外で三輪車しよ!」

「三輪車買ってもらったんだー」


 私はまとわりついてくる十六人の甥っ子をかき分けかき分け部屋へと向かう。すると二十人の甥っ子が追加で後ろからすがってくる。


「おばちゃんどうして?」

「○○ちゃんおばちゃんと遊びたいよー」

「おばちゃんギューしよ!」

「ギューしてぇ」

「ギュー! ギュー!」


 ギュー! ギュー! の大合唱だ。そしてついに三十六人の甥っ子が私にハグしてもらえない悲しみで泣き出した。文字通りエーンエーンと泣いている。様々や音程のエーンの合唱だ。エーン合唱団だ。私はいたたまれなくなる。


「おばちゃん頭が痛いの。だから○○ちゃん……」

「よしよししてええええ!」


 甥っ子は濁った声で号泣する。私は三十六人の頭を撫でて回る。甥っ子たちはしゃくり上げながら大人しくなっていく。


「おばちゃん遊んでくれる?」


 泣き濡れた顔でこう言われると辛い。私は笑みを作ってうなずいた。


 そして三十六人の甥っ子たちで部屋を満たしながら、タブレットでアマプラを観たりおもちゃで遊ぶなどした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る