2023年5月31日の日記 甥っ子よ、丸が上手ですね

 甥っ子がスケッチブックに丸を描いた。事件である。


 というのも甥っ子二歳はまだ丸を上手に描いたこともなく、具体的な物体を描くこともなかったからである。家族みんなで褒め称えた。甥っ子は得意げに「○○ちゃんねー、丸描いてるの」と丸を量産する。


 と、甥っ子の描いた丸が現実世界に干渉してきた。ぷくりと膨らみ、空に浮かびだし、次々とどこかへ飛んでいく。


「○○ちゃん丸たくさん描くの」


 甥っ子が丸を描くのを私たちは止めた。何やらヤバいことが起こっている。甥っ子の描いた丸は玄関へと向かい、スライドドアを開いて外へ飛んでいっているようなのだ。


「まぁるっ! まぁるっ!」

「○○ちゃんやめようか。丸いっぱい描いたし」

「ううん、描く」


 私が言っても聞かない。私たちは焦りながらも大量の丸い物体が飛んでいくのを眺めるしかなかった。しかし甥っ子の量産した丸い物体は、私たちにはさほど影響を与えなかったようである。


 数百年後、永遠の命を得たのち、それはわかった。テレビを見ていたらニュースが流れた。「新しい銀河? 不思議な超新星群」というタイトルである。見ると天の川銀河の近くに新しい銀河が発見され、できたての丸い星がたくさん並んでいたということである。写真が映し出され、私たち家族は目が釘づけになる。


 それは甥っ子が二歳のころに描いた丸そっくりないびつさを備えた白い丸だった。あれは○○ちゃんの丸にそっくりだと誰かが言い出し、笑い、懐かしみ、○○ちゃん今どうしてるかねえなどと言い合った。

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