2023年6月1日の日記 ああ甥っ子よ、悪の組織に囚われて
甥っ子と共に悪の組織に囚われて、水責めの部屋に入れられていた。
「悪の組織め……。○○ちゃんに何てことを」
「おばちゃんとお風呂二人だね。アンパン男のボールで遊ぼ! 水鉄砲もしよ!」
甥っ子はお風呂に入っていると思っているらしい。うふうふと喜んでいる。水はまだ足元程度で、甥っ子は気にしていないようだ。
と、そのとき、上空からスピーカー越しのスカした少年の声が聞こえてきた。
『おばちゃんと○○くん……。こちらは悪の組織だ。こちらの要求を呑んでもらえれば二人を解放してあげよう』
「おばちゃんこの声何?」
「悪の組織の人だよ。悪者なの」
甥っ子はようやく悪者に囚われていると知ったらしい。少し神妙な顔だ。
「要求は何? それで開放してくれるの?」
私が聞くと、悪者はもったいぶってため息をつき、こう言った。
『ほしいんだ……。○○くんのジンベイザメくんを!』
ハッと甥っ子が息を呑んだ。ジンベイザメのぬいぐるみは甥っ子の一番のお気に入りで、手触り、大きさ、機能全て最高の品なのだ。口にはトミカも二台ほど入れられる。
「○○ちゃん、いや……」
甥っ子は不安そうに私を見る。私は悪者に答える。
「○○ちゃんも嫌って言ってるじゃん!」
悪者はそれに答える。
『だって僕もほしいもん……』
甥っ子は悪者の声に口をへの字にしてどこかを見上げ、
「○○ちゃんのぉーー!」
と叫んだ。悪者も負けてはいない。スピーカーの音をキンキンに響かせてこう言い返す。
『僕のにするの! 僕のなの!』
甥っ子と私の足元にあったはずの水は、いつの間にか甥っ子の首元くらいまで来ている。甥っ子は不安げな声で泣き叫び始めた。
「○○ちゃんもうお水いや! 出たいぃー!」
『出ればいいじゃん。出られるんならー』
悪者はおちょくる声だ。甥っ子はぶぶふと唇を震わせ、とうとうギャン泣きを始めた。涙が溢れ、滝のように流れ、ドドドと水かさが上がっていき、甥っ子と私はとうとう水攻めの部屋の天井まで届いた。私は入り口を探そうとしていたが、甥っ子の涙の勢いのほうが強い。部屋は吹き飛んだ。
私と甥っ子は部屋から溢れ出して、川に合流し、その流れのまま家に着いた。甥っ子はもう泣いていないが不安げだ。
「さめくんは?」
私はリュックから出して差し出す。甥っ子は何とも言えないかわいらしい声を上げ、ジンベイザメのぬいぐるみを抱きしめた。
遠くで子供の声がした。悪者の「僕もジンベイザメがほしいよー」という声だった。
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