2023年6月7日の日記 さあ甥っ子よ、元気を出して

 甥っ子はピストル型マシンでシャボン玉をバンバンしている。シャボン玉は大きく膨らみ、水色の空へふわふわと飛んでいく。甥っ子はできるだけ大きくしたいようだ。ゆっくり、ゆっくりとシャボン玉に空気を込めていく。


 シャボン玉には甥っ子の思ったことが詰まっている。トミカがほしい、トミカがほしい、新しいパトカーのトミカがほしい。要は甥っ子はトミカコレクションを増やしたいのだ。


「パパもう大阪着いたかなー」


 甥っ子はシャボン玉をバンバンしながら言う。シャボン玉は甥っ子の大阪の家を映し出す。それからパパ。巨大なアンパン男のぬいぐるみ。


 今日は二日前に来ていた甥っ子のパパが帰ってしまったのだが、甥っ子はそれから元気がない。パパを駅に送るときはたくさん泣いたらしい。


 シャボン玉は大きくなる。大きくなって、人間サイズになった。人間サイズのシャボン玉には甥っ子のパパが映る。甥っ子のパパはこちらを見て驚いている。何となく彼は洗面所の鏡を見ている感じだ。甥っ子は「パパ!」と叫ぶ。


 途端にシャボン玉は弾けてしまった。甥っ子は呆然とし、次にしょんぼりとしゃがみ込んで私のほうにやってきた。家に入るらしい。


「お家に入ったらご飯ができてるよ。たくさん食べようね」


 と私は言う。甥っ子はうなずき、私の手をぎゅっと握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る