2023年6月6日の日記 甥っ子よ、それは夢です
細い雨の降る肌寒い梅雨寒の今日、家の外で大型の車が停まるような音がした。我が家は通販狂が何人かいるのでそれは日常茶飯事のはずだった。
「宅急便屋さんだ!」
甥っ子はアンパン男のぬいぐるみもお気に入りのブランケットも放り出して駆け出した。私は居間でチルっていた。宅配便のお兄さんは、特に甥っ子を構ってくれたりしないし、むしろ甥っ子が一生懸命話しかけてもスルーして行ってしまう人も多いのだが、甥っ子は強い子なので全く気に留めていないし、何より甥っ子はお兄さんよりも宅配便の車に興味津々なので、それによって生じる私の一瞬の余暇をツイッターに費やせるのがとてもありがたいのだ。
「こーんにちはー! 宅急便屋さん、こんにちはあぁ!」
甥っ子は甲高く絶叫する。お兄さんもさぞかしうるさかろう。しかし私のこのチルタイムはかけがえのない黄金の時間なのだ。犠牲になってもらおう、宅配便のお兄さん。
と思ったら甥っ子の声が止んだ。どうしたのだろうと見ると、甥っ子が腰を抜かしていた。玄関にいるのは大きなティラノサウルス。なるほどティラノサウルスが我が家の庭に着地する音だったのだ。ティラノサウルスは甥っ子にホルンのような声で、
「遊ぼおおおお、○○くーん」
と言った。甥っ子はがたがたと震えている。
「遊ぼおおうよおおおお」
ティラノサウルスはそのままホルンよりも低いすさまじい音を立てて甥っ子に誘いかけた。甥っ子は私のところに駆け寄ってきて、「いや、いや」と泣き叫ぶ。
「○○ちゃんいや!」
甥っ子は叫ぶ。彼の運命はいかに。
というところで甥っ子の夢は終わったらしい。甥っ子は拙い言葉で一生懸命説明してくれた。私はうんうんとうなずいた。可哀想に、甥っ子。さぞかし怖かっただろう。
「お顔が怖かったの。こーんな、歯がいっぱいあって、目が怖いの」
「○○ちゃん、それは」
私は甥っ子を見つめる。甥っ子の顔が恐怖に染まる。
「こーんな顔かい?」
私の顔がティラノサウルスの顔になった。甥っ子はキャアアと叫んで逃げて行った。
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