2023年5月25日の日記 甥っ子よ、やめなさい

 エジプトで盗掘をしていた。目指すは金銀財宝だ。私はゴールドのブレスレットがほしいなーと思っていた。アマゾンのほしいものリストに入れているくらいにはゴールドのブレスレットがほしかった。


 甥っ子はちょろちょろしていたが、一応視界に入れて、危ないことをしないように見張っていた。なにせここはピラミッド内部だ。段差や落石が絶えないし、甥っ子は好奇心旺盛で何度も「おばちゃん何してるの?」と大きな声で聞いてくるのだ。坑道のようになった狭い道は大声にも反応し、パラパラと粉のような石を落とす。


 狭い道の先には広い空間がいくつがあり、それぞれ意味のある部屋だと認識した。世界ふしぎ発見で言っていたからだ。なんの意味だったかは忘れたが、意味があると思った。ヘッドライトがギラギラと石造りの内部を照らす。極彩色に塗られたそれは、ここが始めて発見されたことを表していた。光を入れるとそれらは色褪せてしまうからだ。


 ひときわ狭い道を這うように進み、ついに私は王のミイラが眠る場所へとたどり着いた。ここにはお宝がたくさん眠っているに違いない。


「○○ちゃん! 王様のお部屋に着いたよ」


 振り返ると、甥っ子がいなかった。私の後ろを這っていたはずなのに、どういうことだ? パニックになり、あちこちを探す。もう目の前のお宝が目に入らない。ギラギラと光る黄金のマスクやブレスレットも、もうどうでもいい。甥っ子、甥っ子を見失ってしまった。


 そこで、声がした。


「おばちゃん! 見て見てー」


 私はハッとして振り返る。どこにもいない。


「○○ちゃん、どこ?」


 甥っ子はうふふと笑い、「なーいしょ」とアニメのキャラクターの真似をする。


「おばちゃん、探してー」


 甥っ子がよくやるかくれんぼの合図を言い出した。今まではブランケットに頭だけ隠すのが精一杯だったはずなのに、急に高度なことをするようになった。そう思っていたら、ミイラがゴロリと石棺から転がり出ていた。この雑さは、もしかして。


「いたー! ○○ちゃん!」

「見つかっちゃった!」


 甥っ子はミイラがいた石棺の中に隠れていた。見つかったことが嬉しそうにうふうふ笑っている。


「だめでしょ、こんなことしたら」

「どうして?」


 甥っ子は首を傾げる。


「ミイラさんに迷惑でしょ」

「ミイラさんはどうして迷惑なの?」

「ミイラさんはねんねしてたからだよ」

「ミイラさんはどうしてねんねしてたの? ねえどうして?」


 また始まった……。私は努めてイライラしないようにして、甥っ子のどうしてに延々答えた。


「どうしてピラミッドにいるの?」

「盗掘をするためだよ。でももうやめようね」


 私はミイラを石の棺に戻し、甥っ子と手を繋いで元の道を戻った。


「おばちゃんと手を繋いじゃった」


 甥っ子はまたうふうふと笑っている。私は残りの道をゆっくりと、甥っ子が怪我をしないように歩かせた。






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